コロナ渦不染日記 #43
八月二十二日(土)
○午前中は日記を編集。
○午後は渋谷に出かけて、後輩でイラストレーターの「じゃすみん(仮名)」と打ち合わせをする。『ラヴクラフト怪奇幻想傑作選(仮題)』のために発注したイラストは、ぼくの翻訳作業が滞っているために、作業が停滞している。スピードアップしなければならない。
○打ち合わせ後の雑談で、平山夢明氏の怪談が、バラエティ番組『五時に夢中』で不定期に語られている、という話を聞く。さっそく帰りの電車でこれを見た。
さすが、『東京怪談』シリーズの平山夢明氏である。
○ヴァーナー・ヴィンジ『マイクロチップの魔術師』を読み終わった。
「コンピュータネットワークをファンタジ世界として認識できるインタフェースができあがり、ネットワーク上で不正行為や破壊行為を働くハッカーたちは〈魔術師〉と呼ばれた」
「〈魔術師〉たちは、正体を伏せて活動しており、正体を特定できる情報=〈真の名〉を知られないようにしている」
「コンピュータネットワークを支配することで、ネットワーク接続なしには動かない、生活に不可欠な機器を支配して、世界を支配しようとする〈魔術師〉の〈真の名〉をあばき、世界を救わなければならなくなるのは、官憲に〈真の名〉を知られた〈魔術師〉である」
といった構造は、いまでこそありふれたものであるが、発表当時の一九八一年には、そうとうに新しいイメージであったろう。しかし、現代では、この手のイメージのうえに、さらにより面白い物語が作り上げられていて、過渡期的な作品であるという以上に、この作品の価値はない。……ということを、おおくのネット上感想文が書いていたが、読後、ぼくもほとんどおなじ感想をいだくことになった。
○この手の作品——ネットワーク上の仮想空間としてのファンタジ世界/その世界を支配するものも、支配者に挑むものも、世界を動かす力を持つという点で〈魔術師〉である/〈魔術師〉たちの正体は、たとえ仲間といえども謎である——の白眉は、佐藤史生『魔術師さがし』である。
二〇〇〇年に連載され、すぐさま単行本化されたこのマンガは、あきらかに『マイクロチップの魔術師』を下敷きにしており、かつ、アップデートしている。物語の滋味としては、こちらのほうがゆたかであると思う。
しかし、『マイクロチップの魔術師』には、サイバーパンク以前のサイバーパンク作品としての歴史的価値があるし、それを抜きにしても、結末のなんともいえない味わいが素晴らしい。そこが、おおくのネット上感想文と、ぼくの感想の異なる点である。
○本日の、全国の新規陽性者数は、九八五人。
そのうち、東京は、二五六人。東京の検査実施数は、二三九八件。
八月二十三日(日)
○午前中はだらだらと過ごし、午後はNetflixで『DEVILMAN:Crybaby』を見る。
永井豪『デビルマン』がどんな話かを知らない人は、そもそもこのアニメを見ないだろう。そして、もし『デビルマン』を知らない人が見たとしても、このアニメは素晴らしい『デビルマン』体験を与えてくれるはずだ。
文字どおり、神がかり的な偶然によって、世紀の傑作となった『デビルマン』を、完結後に、その「神がかり的な偶然」を結末から逆算することで、合理的に解釈しようとした作品は、枚挙にいとまがない(極端なことを言えば、永井豪『デビルマンレディー』もそうした作品である)。だが、それはなかなかうまくいかない。あの悪名高き実写映画『DEVILMAN』は別格としても、合理性によって語り直された後続作品は、原作の神がかりに勝てないのである。
しかし、そうした後続作品のなかで、『Crybaby』は、傑作といっていい健闘である。約五十年前の作品を、現代を舞台にリメイクするにあたり、『Crybaby』は数々の改変をおこなっているが、そのほとんどが無理のない現代化アップデートになっているし、なにより、原作が掲載誌の関係で、語りたくても語れなかったであろう、しかし語られないのは不自然に感じられる要素、「セクシャル」を強く打ち出しているのは、『Crybaby』の特徴であろう。青年誌連載の『デビルマンレディー』でも、それなりにセクシャルな要素を打ち出していたが、それ以上である。
そして、このセクシャルな要素を、原作からあるヴァイオレンスと上手く結びつけるのが、監督を務める湯浅政明氏の作風である。つよくデフォルメの効いたアニメーションのヌルヌル感と、そのデフォルメによってキャラクターの内面を語らずに語る語り口は、セクシャルとヴァイオレンスの物語としての『デビルマン』の、核となる要素「理性を超える衝動」を、アニメーションとして語るのにふさわしい資質であるといえよう。
○夜は、岬の居酒屋で、イナバさん、下品ラビットと夕食。埼玉の地酒「花陽浴[はなあび]」の、モザイクガラスめいたラベルが素晴らしい。
○本日の、全国の新規陽性者数は、七九三人。
そのうち、東京は、二一二人。東京の検査実施数は、一〇五三件。
引用・参考文献
イラスト
「ダ鳥獣戯画」(https://chojugiga.com/)
いただきましたサポートは、サークル活動の資金にさせていただきます。