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『アイドル武術家☆ミツルの迷宮バトル!』

<キャッチコピー>

武術家の娘ミツルがアイドルを目指す!オーディションを勝ち抜き邪悪な陰謀と妨害を乗り越え頂点を目指す!


<あらすじ>

 武の一門に育ったミツルは双子の兄妹。武術家の跡取り修行をする兄に刺激され、得意のダンスを活かしアイドルを目指す。オーディションに武術で培った素質を発揮し見事に受かる。

 だがデビュー前から何者かが、所属する芸能界最大手プロダクション「レベッカグループ」への悪質な妨害工作を始めた。組織的で悪質な妨害にたまりかねたミツルは、兄のツルギに相談する。

 妨害工作の黒幕は、レベッカ所有の本社ビルと芸能界の利権を丸ごと手に入れようと企む悪徳実業家と政治家たちだ。彼らは邪悪な組織エビルを動かし妨害によりレベッカ買収を企む。

 ミツルとツルギが武の一門とともに、闇の組織エビルの陰謀と悪辣な妨害工作を潰すために闘う。


<第1話>

 かしつえを右手に持つ作務衣さむえ姿の爺っちゃんと、ヘアバンドにブレザーの制服を着た孫のツルギ。二人の姿が東京駅にあった。

っちゃん、やっぱ東京は人だらけだね」
「そりゃそうじゃ!なんつっても東京じゃわ」
「なにそれ、答えになってない」
「まぁそんな事より、早う会場に急ごうツルギ」
「うん、わかった」
「会場はどこかの」
「会場は。あ、ここだ」手にしたフライヤーを指さす。
そこには『小中高生限定! 夏休みサマーオーディション2023三次審査会』の案内が。

「会場までどうやって行く?爺っちゃん」
「なに?山手線ですぐじゃ。眠るヒマもありゃせん」
「へぇ~東京に住んでないのに、爺っちゃん詳しいね」
「なんのなんの。武術の腕を磨くと、土地勘もついてくる」
「うそッ、そんなことないってば」

爺っちゃんとツルギは、仲良く山手線ホームに向かう。

ーー大きなビルを見上げる二人の姿ーー

「ほぇ~でっかいビルだ爺っちゃん! でっかいよぉ」
「ビルもでかいが、そこの彼女のおケツも、でッかいのぉ」
「こらッ。婆っちゃんに言うよ。やらしい目をして」
「うほん、ビルはでっかいが、こんな虚仮威こけおどしに驚いちゃいかん。図体がでかいのは中身の貧弱さを隠すための情けない考えじゃ」
「でもさ、ミツルがオーディション受ける会社の悪口言うと、ミツルが合格できないかもよ」ツルギが抗議する。

「まぁそう噛みつくな。ほら、早う行かんと遅れるぞ」
「わかった。なら、行こう」ツルギが爺っちゃんの袖を引き、ガラスドアのエントランスに入っていく。

 ビルに足を踏み入れたとたん広いホールの奥で、大騒ぎしている人垣が目に入った。近づくと人質事件だ。制服の女性の後ろ襟を掴み、右手に持った刃物を振りあげて喚く男が見えた。

 意味不明な言葉を喚き散らす男は、なぜ騒ぎを起こしたのだろう?
 無差別の通り魔的な犯行なのか?

 周囲を見回す。野次馬と警備員の他に、不穏な空気をまとった男たちが、まるで男の犯行を見守るように遠巻きにたたずんでいる。

 いや、見守るというより監視しているようだ。この男たちの雰囲気がストーカーや通り魔の犯行を、ただ眺めている野次馬には見えなかった。

 騒ぎ立てる男を遠巻きのままで緊張の時間が過ぎる。人質の女性を助け出そうと、行動を起こす者はまだ出てこない。

 爺っちゃんとツルギは顔を見合わせて頷き合い騒ぎの中へと、入り込んでいく。


<第2話以降>

 爺っちゃんが人垣に分け入る。
「どれどれ、ちょっと空けてくれんかの。お嬢さんがた」わざわざ女性の間を抜けて野次馬の輪の中に入っていく。

「ごめんね、ボクも入れてね」と断りツルギも同じように入っていく。ツルギが輪の中に入ったときには、女性を人質に取った男に爺っちゃんがスタスタと近づいていくところだ。

 人質になった女性は着ている制服から、どうやらこのビルに勤めているらしい。ひきつった顔をしてのけぞったまま過呼吸なのか、口をパクパクさせて震えている。

野次馬の中にこのビルの警備員らしい制服の男たちも数人いる。彼らも手が出せずに警備員同士で顔を見合わせているだけだ。

「近づくなぁッ~老いぼれぇッ!殺すぞッ」手にしたサバイバルナイフを振り上げる。爺っちゃんはまるでナイフが目に入らない様子で、にこにこしている。 

「ほら、お嬢ちゃんが怖がっとるよ。離してやんなさい」そう言うと左手で杖を持ったまま、軽く右手をヒラヒラさせて男を促す。
 男は離さない。ムキになって女性の肩を抱え直すと、女性を引きずり身を乗り出すと、いきなりナイフで切りかかる。

 その場を動かない爺っちゃんの顔を、スパッと、ナイフが切り裂く。
「きゃぁッ」思わず野次馬の悲鳴が上がり、目を閉じた者もいる。

 だが、パシッ! という乾いた音。

その音に続いたのは、誰もが息をする間もないほど瞬く間の、素早い制圧劇だった。

 左手の杖を素早く右手で引き、同時に左手を突き出し梃子てこにする撥ね返しはねかえしの技だ。撥ね返しはねかえした杖でナイフを突き出した男のひじを強打する。そのまま杖の尖端で男の喉元を突く。
 のけぞりナイフを手放した男の右腕に杖を絡ませ、腕ごと一緒に巻き込む。時計回りに回転、引きずり倒す。この間わずか2秒。

 動いたと思った3秒後。床に這いつくばりうめき声をあげている男と、鼻の穴を膨らませた爺っちゃん。左手の杖で首を極められたまま背中に膝を乗せられ、右手をひねられ動きを封じられた男。

 一瞬の間を置き一斉に拍手が湧き起こり、左手をヒラヒラさせ「どうもどうも」と貫禄の欠片かけらもなく拍手に応えている。
「爺っちゃんやったね! アッという間だよ、さすがだね」走り寄ったツルギがナイフを拾う。

 そこへ通報で駆けつけた警察官数人がやっとビルの中に走り込んで来た。ビルの警備員たちも警察官の姿を見ると慌てて近くへやって来る。

 男を取り押さえた爺っちゃんとその横で得意顔のツルギは、駆けつけた警察官たちにナイフと男の身柄を引き渡す。

 その場を離れた二人は、まだ興奮が冷めない様子の受付嬢のところで用件を告げ入館手続きを済ませると、目をウルウルさせたままの受付嬢が教えてくれた会場階停止のエレベーターに向かった。

「さすがは爺っちゃんだ。目にも止まらぬ早技で、アッという間だもん」
「それがのぉ、大きな声では言えんが、ほれ。ここ切られとるじゃろ」左袖に切り裂かれた痕がある。
「あっ、ほんとだ! 油断したんだ」
「いや油断はしとらんが、相当な腕だった。なのになぜ素人のふりをしとったのか。うむ、気に食わん」なにやら思案顔だ。

「ほんとに、素人じゃなかったの」
「うん、それは間違いなかろう」
「じゃぁなんで素人のふりをしたんだろ」
「うぅ~む、わからん。わからんけど・・・・・・」
「わからんけど、何」聞き返すツルギに
「とにかく腹が減ったわい」いつもの顔に戻って言った。
「あらら、ずっこけたよ爺っちゃん」ツルギが爺っちゃんの背中を軽く叩く。

「さぁ~、そんなことより急がんと」ちょうど扉が開いたエレベーターにさっさと乗り込んだ。
「あぁ待ってよ、爺っちゃん」ツルギも慌てて後を追う。

 行き先階のフロアボタンを押した二人。すうっと上昇していくエレベーターの静かさに驚いて、大きく目を見開き黙って目を見交わしている間にオーディション会場のフロアに到着した。

 ピロンッという停止音を響かせ、静かにエレベーターのドアが開く。目の前にはふかふかのカーペットが。

「ほおぉ~ほれ、沈むぞツルギ」その場で浮かれて足踏みする爺っちゃんに
「もう、恥ずかしいから止めてよ。爺っちゃん」袖を掴んだまま自分もふかふかの感触で遊ぶ。おっと、こうしちゃいられないと、袖を引っ張り爺っちゃんを連れて奥へと進むと、会場の案内看板が目に入った。

「爺っちゃん! あそこだ。あそこが会場だ」目指すツルギに、ふわっとした足取りで爺っちゃんも続く。

「あッ! やっぱりここだ。控え室だって」縦長の案内プレートに『小・中・高生限定!夏休みサマーオーディション2023三次審査会応募者控え室』の案内が。ここに間違いない。

 ツルギは少しだけドアを開けて隙間から中を覗いた。ポニーテールを高めの位置で結び、同じ色のジャケットとカーゴパンツ姿で、最後尾の列に座るミツルの後ろ姿が目に入った。

 控え室の中にそっと入り後ろから静かに近づき、ミツルの肩をポンッと叩く。驚き顔で目を見張って振り向いた女の子。怪訝そうな表情で見つめてくる。あ、間違えた!

 そこへ別の席からミツルの声が。
「あ、爺っちゃん! ツルギも来たの」嬉しそうに手を振りながら二人のほうへと足音を忍ばせてやって来た。
「ほうほう、みんな美人ぞろいだわ。大丈夫かの」不安そうな爺っちゃんに
「あとは運任せだよ、爺っちゃん。なるようにしかならんって」
「そうだよ爺っちゃん。なるようにしかならんは爺っちゃんの口癖じゃん」
「まぁ~そうだわな。なるようにしかならんもんな」三人が笑い合う。

 そこへ係が来て集合を告げると、応募者が控え室のドアから会場へとゾロゾロと移動していく。

「じゃぁ、いってくる」ミツルは両手を握りしめ気合いを入れ、よしッ!と会場に向かう。

 残った爺っちゃんとツルギに、戸惑う表情の係が
「あの、まさか、お爺ちゃんも応募者ってこと、ないですよね」
「ふはッ?なんでワシが踊らにゃならんの」威張って応える。
「で、ですよねぇ?びっくりでしたもん。あまりに意外で」
「ワシらは応援に来とるだけですわぃ」ツルギを指さす。
「じゃぁ、この控え室でお待ちくださいね」
「嫌だ。応援に来とるのだから、見たいのよダンスを。孫のダンスっぷりを見たいのよ」そう食い下がっている。
「ちょ、ちょっとお待ちください。上の者に聞いてきます」

 係が責任者に伺いのために会場入りする後ろに、そのままくっつき入場してしまった。係のすぐ後ろに隠れてツルギが。その後ろに爺っちゃんが隠れて入室し、空いていた席に座り込む。

 ツルギたちの見学を伝えたものの、ダメだと言っている責任者の顔が見えている。見学や応援はお断わりしろと、係を追い払うように手を振ってアッチ行けした。

 腰を屈めて引き返してきた係の顔が急に引きった。応募者に混じり平然と座っている二人を見つけて、のけぞったのだ。
「なッ、何をしてるんすか、あんたら」裏返った声でせまるが
「しぃ~ッ。君もお座り」と腕を掴まれツボを極められて逃げられない。素直に座るしかなかった。

 二人が見守る中、始まるオーディション。
 レベッカプリンセスとしてデビューを果たし、邪悪な陰謀と妨害をものともせず闘うアイドル武術家☆ミツルの迷宮バトルが、今、始まった。

 レベッカグループの揺るぎなきブランド。自社ビルを含む不動産と金融資産を狙い邪悪なエビルの陰謀が牙をむく。




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