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#008 商品になる人と商品を売る人

僕は社会人になってから10年間、理学療法士という職業で病院に勤務していた。なぜこの仕事を選んだか。実にいい加減な理由である。オフィシャルには母が看護師だったので影響を受けた、ということにしているが、本当はそうではない。もちろん影響はゼロではないけれど。

僕はあるテレビドラマを見て、白衣を着る仕事がしたい!!と憧れを抱いたのである。ちなみに「救命病棟24時」でも「白い巨塔」でもない。

それは、

振り返れば奴がいる(1993)主演:織田裕二・石黒賢だ。

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うーむ、もう一回全話ぶっ通しで見たぃ。。。という話はどうでもよくて、つまり職業選択の理由に大した理由がなかったということだ。

白衣着たい > 医学部はムリ > 看護師は夜勤あるからムリ > リハビリの仕事?夜勤もないし、なんかトレーナーの先生みたいでカッコいいんじゃね?と、こんないい加減な理由である。

僕は商品だった

病院に勤務する医業職というのは、自分の技術を好きな値段で売ることができない。診療報酬(つまり医療行為の値段)というのが国で決められていて、その範囲の中でどのメニューを実施するかによって、お客さんである患者の支払い額が決まる。日本には、国民皆保険という世界一の制度があるおかげで、たいていの患者さんは合計額の3割だけを自己負担すればよい。

理学療法(いわゆる、リハビリ)は、薬と同じで、医師が処方することで実施することが出来る。例えば、腰が痛くて病院に行きレントゲンを撮った後、湿布と痛み止めの飲み薬、理学療法を処方された場合を考えてみよう。ざっくり言うと、患者は以下の商品を買ったことになる。

①医師の診察料(2,700円) ②レントゲン撮影料(2,900円) ③湿布代・飲み薬代(900円) ④理学療法の施術料(20分で1,700円) →合計8,200円

経済的な見方をすると、これらはすべて商品と考えることができる。つまり、僕は(僕の技術は)病院というお店の一つの商品と言える。

商品を売っているのは誰か。病院長の医者か。事務長だろうか。でも彼らは商品の値段を自由に変えられないので、販売者とは言えないだろう。

商品を売る側に立った

一方、歯科矯正とか、豊胸術、美容整形などは、自由診療と呼ばれる。保険診療外とも言われ、受診者が10割自己負担をしなければならない。さらに言えば、現在保険診療として含まれていない最先端の疾病治療もここに含まれる。

そして、自由診療は、提供する側が自由に値段を決められることになっている。

人間ドックもその一つである。

僕は今、白衣を脱いで、スーツを着て仕事している。いわゆる事務方の仕事だ。僕が自分で人間ドックの値段を決めている分けではないが、少なくとも商品の質をどう担保するか、もっと多くのお客様に利用してもらうにはどうしたらいいかを日々考えている側の人間だ。

僕は今、ここで何をしているかというと、

医療資材や備品、消耗品の購入と在庫管理、施設管理、ITシステムの保守・改善・パンフレット作成やWeb、イベントなどの広報活動、企業健診誘致のための営業活動、会計・経理業務、収支報告に加え、ジョイントプロジェクトであるため、相手機関との様々な契約の締結・変更・承認申請などの仕事も経験させていただいている。外部業者との折衝は日常茶飯事だし、時にお客様のクレームに対して頭を下げに行くこともある。価値観の異なるベトナム人スタッフのマネジメントも重要な任務の一つだ。

やるべきことは多岐に渡るうえ、これらを日本語・ベトナム語、英語の3言語でこなすことが求められる。自分の能力を無理やり超えさせられる毎日だ。正直、つらい(笑)。つらいけど、かなりエキサイティングだ。

そして何より、日本・ベトナム双方の医者と「医学」をやりとりして、施設独自の環境を整えていく作業はこの仕事の醍醐味だ。しんどい事も多いけれど、とにかく飽きない仕事である。

僕は、「商品が側の視点」と「商品を売る側の視点」の両方を持ててよかったと思っている。誤解を恐れずに言えば、多くの医療者は自分の専門外の部分の事を知らないことが多い。経営を知らない「医師」という職業の人たちが病院を経営し、結果的に多くの医療施設が不審に陥っているのが現状の日本である。

僕もかつて理学療法士として働いていたとき、専門外のことは無知だった。患者さんのための訓練用のベッドや、歩行訓練用平行棒が市場ではいくらで売っていて、どこの業者からどのくらいの割引率で買っているのかなどまーーーーたく知らなかった。それらが何年で減価償却されて、どのくらいリハビリテーション科の売上に貢献しているのか。そんなことも考えたことがなかった。

病院のホームページは当たり前に「そこにある」ものだったし、お盆やお正月の休診案内だって「あたりまえに告知される」ものだった。書類やパンフレット作成がいかに大変なものか、今の僕なら良く知っている。このままの知識をもって15年前にタイムスリップしたいくらいだ。

専門職も事務仕事を知るべき時代

僕の持論だが、医療の専門職について、入社1年目では事務部門(総務、会計、経理、IT, 広報、人事、調達…)の研修を取り入れることが望ましいと考えている。既に導入している施設もある。病院はいま、利益を上げるために全スタッフがひとりひとりコスト意識を持たなくてはならない時代になった。目の前の患者だけを診療すればそれでよし、という時代はではない。

「商品側の視点」、「売る側の視点」

こんなことを考えつつ、ところで市場における「オマエの商品価値はどうなんだ」というツッコミを受けそうなので、本日はこの辺で終わりたい。

自分自身が「いい商品」になって「うまく売る」。どうしたらいいのかな。その答えを得るヒントが、noteユーザーの記事の中にたくさんありそうだ。

読む、書く、ニンゲンになる。


8日目、おわり。