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ごはんについて書くための習作55

土曜日だというのにこの文章をあなたが読んでいるということは、土曜日だと言うのに私が家族とは別に昼ご飯を食べ、その後、ひとりの時間を確保しているということです。今、私は東海道新幹線に静岡駅から乗り、京都駅へ向かっているところなのです。

さて私が昼ご飯をどこで食べていたかというと、新幹線に乗車した静岡ではなく、富士宮で虹鱒料理をいただいておりました。「いただいておりました」と書いた場合、同じ行の「私」は「わたし」ではなく、「わたくし」と読みたくなります。
京都へは明日の朝から仕事で関西に用事があり、そのために向かっています。この仕事が決まる前、古くからの友人二人と久しぶりに会おうという話をしていて、なぜか縁もゆかりもない富士宮に行こうというなっていたのです。

朝起きて、妻が朝食を作っている間に私は息子と散歩にでます。今朝は息子が工作の本についている型紙をコピーしたいというのでコンビニエンスストアに寄りながら、富士宮駅までの切符(新幹線を利用するので本当に切符)を買ってまいりました。朝食をとり、夏休みの息子が無責任に飼い始めたショウリョウバッタとカタツムリが入った容器をそれぞれ洗って餌を替え、風呂掃除をし終えた頃には友人らとの集合に間に合わない時間となっていました。彼らに会ったあと京都へ行かねばならない私にはあまり時間がありません。富士宮駅に着いたのは集合から一時間以上過ぎていました。そくささと駅近くを観光し、ニジマス料理を出す店へ向かったのです。

予約をしていなかった私たちはタクシーで店に着いたときに駐車場いっぱいに停められた車をみて不安を感じましたが、カウンターなら大丈夫だと、調理場の目の前に通されました。調理場とカウンターの間には大皿や墨絵、サルノコシカケなどが飾られていて、調理場の後ろには「直観 鍛錬」と書かれた板が飾られています。これは酒が進むに違いないと料理を注文する前に瓶ビールを二本注文。料理は私の時間があまりなかったこともあり、「にじます定食(2,530円)」を人数お願いしました。

浜松に着いてうなぎパイの紙袋を持った人が乗り込んできました。お酒を飲んでいるので寝過ごさないためにもこの文章を書いています。

お通しは花オクラとうなぎと白ゴーヤの酢の物でした。「定食」とカテゴライズされながら、一品づつ運ばれてくるようです。暑さとひさしぶりに三人が会った高揚感からか、すぐ瓶が空になっていまいました。炭酸はもうよかろうと冷酒に変えたところで、タイミングを見計らったように浅い小鉢に醤油などで漬けられた山菜(名前を聞いが完全に失念)が出てきました。わさびの葉が敷かれています。完全に名店、神回がここで確定しました。
ニジマスの刺身が出されたのですが、それに添えられたハラミ(これも刺身)と酒盗を和えたものが文字通り、文字以上に私たちのお酒を盗んでいくのです。盗まれていく様子をサルノコシカケ越しに店主が見ていたのでしょう、次に出された塩焼きが想像する川魚の塩焼きよりも大きいと私たちが話していると、「大きい方がいいだろう?」と特別に大きいのを出してくれたようでした。一見の私たちに対しても常連のように接してくれるところに名店ポイント加点。さらに、この特別大きい塩焼きに満たされている私たちの様子を見て、ご飯の代わりにお茶漬けもあると気遣ってくれたところも加点加点。そのお茶漬けに夜の営業用にと仕込んでいた鱧をのせてくれたところも加点加点加点加点…。これから京都へ向かうというのに鱧を食べれてしまうなんて。


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