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#004 2013年度ベスト100「木箱212構法」

今回ご紹介するのは木造住宅用のラーメン構法として受賞した「木箱212構法」です。建築に関してはズブの素人な私ですが、これについては「なるほど〜」と感心しました。もしも私が家を建てるならば、この構法で建てたいなぁと思う次第です。ちなみにこの構法は葛西潔建築設計事務所が特許を取得しています。いわゆるフリーランス系といわれるような建築設計事務所が特許を取得している点も注目ポイントのひとつです。

そもそもラーメン構法とは?

ラーメンというとズルズルっと食べるあのラーメンを想像するかもしれませんが、ここでいうラーメンはちょいと違います。表記は「Rahmen」でドイツ語です。どうやら額縁という意味みたいです。

ラーメン構法は主に鉄骨造の建物に採用される構法で、骨組みの接合部分を剛接合(外力がかかっても変形しないようにカッチカチに接合)する構法です。最近では木造住宅にも採用され始めています。特に有名なのはCMでもよく見かける住友林業さんのビッグフレーム構法かと思います。

これに対し一般的な木造住宅は、軸組構法(在来構法)と呼ばれる構法が採用されています。軸組構法は基本的には柱や梁(水平方向の柱)で構成されるのですが、このままでは横方向やねじれ方向に対して耐力がないので、ところどころに筋交いを入れます。ざっくり言うと、下のような図になります。

ラーメン構法だと筋交いの必要が無くなるので、大きな空間を作ることができます。一方で軸組構法だと、どうしても柱や壁が一定間隔で必要になってきます。なので、ラーメン構法の方が設計自由度は高くなります。

なんで全部、ラーメン構法にならないのか?

大きな空間を作れて設計自由度が高いならば「全部ラーメン構法にすればいいじゃん」と思う方もたくさんいらっしゃるかと思います。当然の話です。ところがどっこい、そんなに世の中甘くないんですね。ラーメン構法の一番のデメリットはコストです。骨組みによって耐力を確保するためには柱部材は大きく(太く)なります。場合によっては既製サイズではない柱を使うこともあります。そうすると当然コストもかかります。そして柱が太くなるということは、当然「出っ張り」が出てくる可能性も高まります。あとは構造計算です。ここら辺は専門外なのでよく分かりませんが、ラーメン構法は構造計算が難しいそうです。

これらが相まってコストアップするため中々普及しないというのが木造のラーメン構法の現状です。

木箱212構法はどういう構法か?

そこへきて登場した「木箱212構法」ですが、一番のポイントはコストメリットです。では、このコストメリットをどうやって実現したか?というと「簡易な構法かつ既製品の組み合わせで構成する」という方法で実現しています。木箱212構法の構造を簡単に説明すると以下の図のようになります。

神社の鳥居のような門型フレームを455mmピッチ(間隔)で並べていき、ジョイントしていく構法です。伏見稲荷のようなものをイメージしてもらえばよいかと思います。門型フレームで大きなトンネルを作るような感じでしょうか。

そして、この柱材に2×12(ツーバイトゥエルブ/38mm×286mm)という規格材を使う点にポイントがあります。2×12は規格材なので、上手く行けばホームセンターでも手に入ります。455mmピッチは建築業界で言うところの1尺5寸(畳の短軸と同じ長さ)という単位なので、これまた規格サイズです。で、455mmピッチで並べていくがゆえに生まれるポイントがあります。それは、下の写真を見ていただければ一目瞭然かと思います。

(画像はグッドデザイン賞受賞対象のページより引用)

お分かりでしょうか。ラーメンフレームは「柱が空間に対して出っ張りやすい」という点もでメリットのひとつでしたが、455mmピッチで同じ量が出っ張るので、そのまま棚になってしまうのです。発想の逆転を感じるところです。

さらにすごいのは、柱や梁を作る際に出る端材(残り部分)をそのまま棚板などに再利用するので、無駄が最小化されます。これもコスト減に貢献しています。

木箱212構法で難しかったのは「剛接合」

まさに合理的な設計といえる木箱212構法ですが、苦労した点ももちろんあります。それが剛接合です。多くの木造ラーメン構法はこの剛接合がネックで、各社とも様々な特殊金物などを採用して剛接合を実現しています。これもコストアップの要因になります。

ですが、木箱212構法のコンセプトは「簡易な構法かつ既製品の組み合わせで構成する」なので、特殊金物を使用するのはこれに反します。ということで、なんとかして既製品のボルトなどを使用してこれを実現しようと試みたのです。

その工夫とは「既製品のボルトを通す穴の開け方」でした。木は「割れる」という性質を持つので、穴を沢山開ければ当然割れやすくなります。でも、穴が少なければ剛接合になりません。この「丁度いい塩梅を実現する穴のレイアウト」に相当苦心されたようです。そして、この工夫が特許においてもポイントとなっています。

このあたりについては、葛西さん自身がベスト100プレゼンで分かりやすく解説されています(2分30秒あたりから)ので、気になる方は是非動画を直接ご覧いただければと思います。

「施工まで行う建築設計事務所」という新たな姿

木箱212構法の凄さはもうひとつあります。それは施工まで葛西潔建築設計事務所が引き受けるところです。これも木箱212構法が「簡易な構法かつ既製品の組み合わせで構成された構法」がゆえに実現できる話だと思いますが、自社出木材の輸入まで行っているそうです。これまた驚きです。

葛西さんはプレゼン動画でもこれを「住宅における『ものづくり』の責任」と述べています。ですが、実際にこれを実現することは並大抵のことではないと思います。これには只々感服するのみです。このプレゼンをされた時も舞台裏では「いやぁ、明日も現場で施工ですよ〜」なんて笑いながらおっしゃていたのが印象的でした。

住宅のデザインにも色々とありますが、構法に始まる住宅デザインを建築設計事務所が行うというのは素晴らしいなぁと思う次第です。事務所は杉並区久我山にあるそうなので、もしご興味のある方は訪ねてみてはいかがでしょうか。

ということで、木箱212構法のご紹介でした。

(ヘッダー画像はグッドデザイン賞受賞対象のページより引用)

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