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#005 2013年度特別賞「非常用圧縮毛布」

私がグッドデザイン賞の職員だった頃、熊本地震が発生しました。その前には東日本大震災もありました。そのような中にあって日々「グッドデザイン賞で何か役に立てることはないか?」を考えていました。
そんな時にふと「そういえば、グッドデザイン賞を受賞したモノの中にも防災に役立つデザインがたくさんあるよなぁ」というコトに気がつき「ならばそのよきデザインたちを世に紹介するのが役目か」と思い「そなえるデザイン」というプロジェクトを立ち上げました。半ばワガママのように始めたプロジェクトですが、当時は審査委員長をはじめ、様々な方々にご協力をいただき心より感謝するとともに、なんとかしてこれを継続できないかなぁと今でも思っている日々でもあります。

と、前置きが長くなってしまいましたが、実は「そなえるデザイン」の着想は今回ご紹介する「非常用圧縮毛布」が契機となっています。
というのも「グッドデザイン賞で何か役に立てることを〜」というのを考えている頭の片隅にはいつもこのデザインがあり、「これをなんとか広められないかなぁ」とボンヤリ考えていたからです。
ということで、今回ご紹介するのは足立織物さんの「非常用圧縮毛布」です。

非常用圧縮毛布とは?

ひとことで言えば「災害発生時に使う本棚に入る毛布」です。ただ、随所に工夫がなされています。簡単にポイントを説明すると、以下の通りです。

1. A4サイズなので本棚に収納できる
これが主要なポイントではありますが、毛布をA4サイズに折りたたんで真空圧縮することで、本棚にキレイに収まるサイズになっています。とはいえ「言うは易くも行うは難し」で、キレイに圧縮するために真空製法にも工夫がなされています。詳細は知らないのですが、恐らくは圧縮用の袋にかなりの工夫があると思います。

(画像はグッドデザイン賞受賞対象のページより引用)

2. 遠くからでも発見しやすい蛍光オレンジカラー

津波などによって屋上などに逃れ救助待つシーン、これは誰しも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか?災害発生時に意外と苦労するのが「要救助者の発見」です。俗に「72時間の壁」という言葉があるように、災害発生後72時間以内に救助しないと生存確率は極めて低くなります。つまり、災害発生時には「まず救助」が大事なのです。そんな時に「遠くから発見されやすい工夫」というのは大きな意味を持ちます。
これはホームページでもあまり強調されていませんが、個人的にはとても大事なことだと思います。「災害発生時にどんな状態になるか?」を丁寧に検討されている証拠だと思います。まさに「デザインの真骨頂」を体現したアプローチを感じます。

3. 使用後に再パックできる
頭の中に災害発生時の状況を思い浮かべてください。救助を待ち、避難所に避難し、いずれ自宅へと戻ります。さて、自宅に戻った際にこの毛布はどうなるでしょうか?
「日常用の毛布として利用する」というパターンもあるかと思いますが、概ね不要になります。また、たとえ日常利用したとしても次の災害発生時のために再度備蓄しておきたくなりますよね。そこで考えられたのが「リユース」です。不要になったタイミングで足立織物さんに送り返すと、クリーニングして再パックし、元の状態になって送り返してくれます。
これも大きな特徴です。長い時間軸で物事を考えている証拠だと思います。実に素晴らしいです。こんなことを言ってしまうと性差別かのように思われてしまうかもしれませんが、実はこの圧縮毛布を考案されたのは女性の方でして。この発想は「女性ならではだなぁ」と思いました。この話を聞いた時、個人的には目からウロコでした。「たしかにその通り!」といった感じでした。

東日本大震災をキッカケに

さて、そんな非常用圧縮毛布ですが、開発のキッカケは東日本大震災だったそうです。「避難した方々に毛布が行き渡らなかった」という現実を目の前にした時に「なんとかできないものか?」と考え、この製品にたどり着いたそうです。発売開始が2013年なので東日本大震災から2年もの間、ずーっと開発し続けていたということになります。
こうした「日々のたゆまぬ努力」が私たちの社会を安全へと導いてくれていると思うと、ただただありがたいものと感謝する次第です。

毛布としても気持ちいい

これは半分ぐらい余談になっちゃうかもしれませんが、この圧縮毛布、普通の毛布として考えても、めっちゃ気持ちいいです。さすが足立織物さんって感じです。冒頭でご紹介した「そなえるデザイン」プロジェクトで展示を行った際にご協力いただき、その際にはじめてちゃんと体感してみたのですが、まぁ肌触りが優しく気持ちよくて、思わずうっとりしちゃう感じなのです。災害用備蓄製品であっても、質感がキチンとしているとなんかホッとしますよね。これも大事だなぁと思う次第です。

(当時の記念写真)

「長い時間軸で物事を考える」ということ

さて、まとめに入りたいと思うのですが、この非常用圧縮毛布から学びたいのは「長い時間軸で物事を考える」ということです。情報機器類ならば当たり前ですが、アナログな製品をデザインする時、こうした考えは案外忘れがちになってしまうものかと思います。

ですが、長い時間軸で物事を考えてみると見えてくる課題もあります。非常用圧縮毛布はそのことを学べる好例なのではないかと思う次第です。

以上、非常用圧縮毛布のご紹介でした。

(ヘッダー画像はグッドデザイン賞受賞対象のページより引用)

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