「ガム」―2019年6月23日―

おれたちは今日まで、あるガムを噛み続けてきた。

それは今まで勝利という名の甘美をおれたちに味わせてくれた。いつかJ2、J1という「ごちそう」にありつける日が来ると信じて、そのガムをおれたちは噛み続けた。「ごちそう」にもっとも近付いた2014年は甘美が極地に達したような魅惑の味。咀嚼する者に多幸感と充実感を与えていた。そしておれたちは、来る日も来る日も、幾年月が経とうともガムを噛み続けた。

しかし、どんなガムでもいつかは味が薄れていくもの。徐々に勝利という甘美の風味は損なわれて、敗北の苦汁が口に広がるようになってきた。その苦みが走る度に空虚感が全身を駆け巡った。

おれたちを横目に「ごちそう」を笑顔でほおばる隣人たちを心底羨ましいと思う、その感情を偽り続けることは出来ず、そのガムを棄てて隣人の仲間になった者も少なくなかった。そのガムを噛み続ける者は次第に減っていった。


そして今日。


そのガムを幾ら噛んでも苦みしか出てこなくなった。そればかりか今まで味わったことのない灰汁のような、えぐ味までするようになった。

そのガムを噛み続けて得られてきた恩恵、甘美はもう完全に過去のもの。ただひたすら口腔と味覚を支配する苦み。それは己自身への問いかけでもあった。

それでも、棄てないのか。と。


2019年6月23日日曜日、AC長野パルセイロがY.S.C.C.横浜とのゲームで0-3と敗戦。

Jリーグのピラミッドの最下層、J3への参戦6年目にして初の最下位への転落

ついに、底まで落ちてきた。甘い夢を見れる場所から。落ちてきた。苦みだけが支配する場所へ。

この場所でそのまま腐るしかないのか。いや、そんなエンディングを描くのはまだ早い。這い上がろう。そのためには強さが、さらなる強さが必要なんだ。思えば目の前の彼らは夢をたくさん今まで見せてきたじゃないか。

ここから這い上がりたいのは彼らも同じ。今までかけてきた期待を裏切るような日は一度二度じゃなかった。同じ課題に何年ももがき苦しんで進歩が見えないような日もあった。それでも彼らの瞳から闘志が抜け落ちたことは一瞬たりともあっただろうか。

おれたちも、彼らも、このクラブに関わる全ての人が、きっとこう思っている。

「君のそばで強くなりたいんだ」

おれたちはこのガムを棄てない。いや、見捨てない。そしていつの日かまた甘美を共に味わえると信じ続ける。噛み締めるたび空虚感を味わうだけのガムを頬張り続けることに奇異のまなざしや嘲笑するような目が向けられることもあるだろう。一戦必勝の気迫を感じ取られず、呆れられるような戦いを見せていたのだから無理もないことだった。

それでも、まだまだ、笑われてもいい。ピッチに立つ彼らを信じたい。信じ切りたい。

「強くなる」。ただこの想いだけを胸に秘めて。

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ヤッサニオ

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