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日米地域銀行の存続と再編

 書物の成否を決める第一の要素は“動機”だろう。その本をなんのために書いたのか、である。日本の地域金融機関はおしなべて苦境にあり、近い将来、相当数減ると予想される。一方、米国を見ると多くの機関が健在だ。この違いは何か。
 著者自身が言うように、著者はこれまでモノグラフを主に書いてきた。モノグラフとは過去の個別事象を原資料から忠実かつ綿密に再構成した論文のこと。いわばパッチワークを構成する一枚のパーツのようなものだ。
 この作業を積み重ねるうちに、これらのパーツを組み合わせたらどうなるかという極めて当然な希望が沸いてくる。うまく構成したら、“動機”に応えられる。著書はそう思ったのだろう。
 構成(章編成)が巧みかどうかは書物の成功の第二の要素だ。著者はこれを強く意識し、「はしがき」に各章の位置づけを示した“マトリックス”を置く。あたかも、それは読者に覚悟を決めさせる挑戦状だ。各章の扉には、その位置を示す小さな図が添えられており、読者は大著の大海で遭難することがない。
 著書の成功の第三の、そして究極の要素は書き手の力量だ。力量は様々な元素から合成されるが、綿密であることはこれまでの“モノグラフ”の作成で証明済み。今回、示されたのは持続力であろう。大著を書くのは、小論文を書くのとはまったく違う。水泳にたとえれば、長水路と短水路の違いであり、前者は、覚悟と気力が欠かせない。
 力強さを感じさせるのは神戸銀行の成立史を扱う第4章だろう。歴史の縦糸と、緻密な資料調査である横糸を織り上げ、そこに、著者が培ってきた“地理学”も生かされる。
 本著の難点は高価なことだ。でも、しっかり読めば大いなる知見が得られるし、書架を飾る宝になると思う。

※2018年6月25日 金融財政事情 掲載

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