見出し画像

インターンシップ参加者に贈る好著

 書名に「入門」とあるように本書は経営学の初学者のために書かれた。執筆にあたって著者が強く意識したのは学生、特にこれから社会人≒会社人になる卒業間近の人々だろう。
 200ページを超える書物だがスラスラと読める。それは本の構成がしっかりしているからだ。著者は、会社にまつわる様々な課題を選び、それをどう配置するか、ずいぶん考えたのだろう。“一通り”の知識を万遍なく書くというのは“行うは難し”の類いであるが、著者はこの難題をサバティカル(長期休暇)を使って果たした。サバティカルと聞けば、サラリーマンには羨ましい話だが、こういう本が完成するなら“効果アリ”と認めてもらえるだろう。
 初学者・学生読者への配慮は随所にみられる。内部収益率(IRR)の計算に際してはExcelの使い方まで指示しているし、古典に親しむ機会のない人のために各章に“古典を学ぶ”のコラムを配置し名著を短くわかり易く紹介している。
 図や表の統計数字も最新なものに更新されている。更新は当然ともいえる作業だが、自分一人でやるとなると大変だ。ここにもサバティカル効果が現われている。
 「入門書」の難点は原理・原則に終始してしまうことだが、著者は工夫して現代のテーマ、例えば“働き方改革”などにも言及している。
 経営学は経済学の隣接学問のように言われるが実はそうではない。経営学の目は経済学では消去してしまう“人々”にまで及ぶ。だから、哲学、歴史、倫理、文化を基盤に持ち、諸社会科学(経済学も含む)の成果を応用する、いわば総合科学である。しかし、日本の経営学はそこまでの到達をみていない。逆に言えば経営学は発展途上にあり、そこに著者の目も向けられている。“一通り”の知識を整理し、これを基礎として高層ビルを建て、そこからの展望を私達に示してもらいたい。
 いくつか“望蜀の感”を述べよう。経営学全般に言えることだが、人々のレベルの割には経営者視点が多く逆に働く人の視点が少ない。大学を卒業して会社員になる人は、まずヒラ社員からスタートする。課長になるまでは人によっては悪路で苦労する。いまだに、ブラック企業は存在し、過労死問題もあり、若者の離職率は年々上昇している。
 株式会社についてかなりの言及があるが、その形骸化は著しく進み、もはや役割は終えたという論者もいる。こうした問題にアメリカ生まれのアイディアや制度で対応しようとしている。しかし、J-SOXも社外取締役も日本の会社になじんでいるとはいえない。
 “一通り”の知識のすぐあとに新入社員も直面する現実が控えている。著者の言うように“会社は人類の発明品”だが、その中で苦しんでいる人もいる。会社がこの急激な外部環境に対応し、どう変化したら私達は最大幸福を得られるのだろう。
 本書は社会人になる人、その前のインターンシップに参加する人のための好著である。

※2018年11月号 しんくみ 掲載

この記事が参加している募集

推薦図書

お読みいただき誠にありがとうございます。