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陽気な楽団と真夜中のエレベーターボーイ

午後11時過ぎ―。今日はやたらと喉が渇く。
朝までを考えたら部屋の水分は心許ない。
えぇい、面倒だが飲み物を買いに行くか。

ここはビジネスホテルの最上階。
館内の案内によれば、自動販売機は2階らしい。
田舎とは言え寝巻きで出るのはまずかろう。
雑にズボンとシャツを着直して廊下に出る。

館内は静まり返っている。
19時頃にホテルに来た時点で、周囲は真っ暗だった。
日曜の夜にあまり泊り客もいないのだろう。
一基しかないエレベーターもすぐにやってきた。

2階で降りて自動販売機のコーナーへ。
傍で乾燥機が騒がしく回っている。どうやら宿泊客はいるらしい。
コーヒーや炭酸飲料も飲みたくなって、大小3本も買ってしまった。
手がいっぱいになって1本をポケットにねじ込む。
我ながら、頭の悪い買い物だ。

さっさと部屋に帰ろう。その思考が注意力を低下させた。
来たエレベーターに乗ると、箱は下に向かい始めた。
あれっと思った頃には1階に着いてしまう。

扉が開くと今チェックインを終えたような泊り客が5~6人いた。
皆大荷物で、一人はチェロのようなケースを抱えている。
動かない私に「降りないのか?」と問いたげな目でこちらを見てくる。

「上に行くので乗ってください」と言うと、ドヤドヤと乗ってきた。
当然のように最初から乗っていた私がエレベーターを操作することになる。

「みんな乗れるかな?」「乗っちゃおう」「何階?」「乗れる乗れる」「皆さん何階ですか?」「えぇ~っと私は3階」「2階もお願いします」「5階」「6階」「じゃあまた明日」「エレベーターボーイさせちゃったみたいで」「おやすみなさい」「すみませんね変な集団で」「○○さん、なんか落とした!」「明日公演があるんですよ」「アハハハ」

なんとも賑やかである。時間にしたらほんの数分。
それでも陽気で楽し気な雰囲気は良いチームであることを伝える。

「ありがとうございました」
最後にペコっと挨拶した女性を見送って、すっかり静けさを取り戻したエレベーターは、私一人を乗せて最上階についた。
区切られた空間の一瞬の喧騒。白昼夢でも見たかのようだ。

(変な人たちだったな)
耳の中に彼らの残響を感じながら薄暗く静かな廊下を歩く。
きっと明日の公演も素敵なものになるだろう。

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