ドロップキックのお話ですわ

 皆さまごきげんよう。今日は、いわずと知れたプロレス技の基本中の基本、ドロップキックについてですわ。

 ドロップキックは1930年代にアメリカで活躍していたジョー・サボルディーが元祖。つまり100年近い歴史があるということになりますわね。

 さて、プロレスは相手の鍛えているところに攻撃し、自分の鍛えているところで技を受けますわ。かわしたりすかしたりすることももちろんありますが、そればかりだと相手が怒りますわね。昔の新日だったら気が強い同士がケンカ試合になると思いましてよ。

 でも毎日ケンカしてたらケガもしやすいですわよね。ケガしたら稼げませんわ。おかげでレスラーは、戦いながらも争いは避けた方がいいという一種矛盾した共通認識が生まれる構造がありますわ。ですから相手にケガさせない、相手にケガさせられない為の技術も発展したと。その最もたるものが受け身ですわ。

 そして受け身はケガを防ぐ為のものでもありますが、上記の様な構造もあることから、相手の攻撃をダイナミックに受けることで、相手を強く見せるのですわ。するとファンも相手も喜びますし、相手に対して試合を成立させる意思があるという意思表示にもなりますのよ。

 ならばこちらが攻撃する時にもいい受け身しろよとなりますわ。こういった心理的な乱高下があるからこそ、プロ同士の綺麗に試合が成立するプロレス、何らかのイライラがありながらギリギリで試合を成立させるプロレス、はたまたブチギレぶっ壊れ試合まであって、単なる勝負ではないのが面白いのですわ。

 こういった要素が複雑に絡み、興行であることから、レスラーには「客を盛り上げたい」という心理が働きますわ。ですから攻撃を受ける側としては「カッコよく攻撃して派手に盛り上げろよ」となる。そこでプロレスのシステムで緻密に組み上げた盛り上げ技として完成したのがドロップキックなのでしょうね。

 飛び蹴りは派手で見映えがしますわよね。しかし蹴った後に不安定な体勢で落ちると大きなケガもしやすく、起き上がるまでもモタモタして小気味いい試合の流れにはなりませんわ。こういった見地もあって、基本のドロップキックは、横飛びで相手を蹴り、その反動で体をひねってうつ伏せで着地するのですわ。

 この時に手、胸を効かせた全身での前受け身を取り、食らった相手は後ろ受け身を取る。1つの技にスタンダードな前受け身と後ろ受け身がいっぺんに入っていますのよ。そしてうつ伏せで手もついた安定体勢だから起き上がりも早くて試合を壊さない。だから使用しやすくて、プロレスの基本技なのでしょうね。

 そんな基本に忠実なきれいなドロップキックといえば、ジョージ高野を思い出しますわね。そしてジョージの同期といえば前田日明。前田はピュアで何でも信じやすく、先輩のイタズラの格好の餌食だったそうですわ。

 ある日も先輩レスラーが思い付き、前田にイタズラを仕掛けようということになったそうですわ。そして、新日レスラー総出で、「幽霊が合宿所に出て夜な夜なベンチプレスをする」と前田に吹き込んで信じ込ませ、佐山(初代タイガーマスク)が夜中に起きて道場でガシャンガシャンとベンチプレスをしたそうですわ。

 すると前田は信じ込み、本気で怖がってしまったそうですわ。イタズラ好きとしては、こうなったらダメ押しをしなくてはなりませんので、ここで新たな仕掛人に起用されたのがジョージ高野。ジョージは黒人ハーフなので軍服を着させられ、戦死したアメリカ軍人の霊として、寝ている前田日明の枕元に立ち、アメリカ国家を歌いましたのよ。

 その晩、前田は合宿所を飛び出し、一晩中絶叫しながら町内を走り回ったそうですわ。青春ですわね。間違いなく青春ですわ。合宿所では楽しい仲間、しかしリング上は蠱毒。わたくしはそんな切ない昔の新日本を愛していますわ。

 ちなみにドロップキックはアントンも馬場も使いましたわね。アントンが独特のバネのある体で撃つ一撃は攻撃時の見応えこそありましたが、落下バランスは不安定で、しばしば背中から行ってましたのよ。アントンはあまり上手くはなかったと評せざるを得ませんわ。

 その点馬場はあの巨体の割に上手かったですわね。横飛びで相手を蹴り飛ばす威力、ひねって背面がきれいに上になる空中姿勢、そして上手い受け身。32文ロケット砲の名称で必殺技として認知されるのも当然といった完成度でしたわ。

 馬場は1965年の春、第7回ワールド・リーグ戦を前に、アメリカのロス地区で短期の特訓をしていたそうですわ。その時、馬場にドロップキックを教えたのが、当時WWA世界ヘビー級王者のペドロ・モラレス。彼は馬場の初アメリカ遠征時からの友だちで、大の仲良しだったそうですわ。

 当時のプロレス界では、196cmのドン・レオ・ジョナサンと204cmのアーニー・ラッドがたまにドロップキックを使っていた様ですが、クソデカゴリラメンが飛ぶというのがウリで、必殺のインパクトはなかったとのこと。特にラッドはジャンプで精一杯で、ほんと飛ぶだけぐらいのノリだったそうですわ。

 だからこそ空き家。モラレスは、強靭な足腰を持つ当時の馬場ならば必殺技に昇華出来ると踏んで修得をすすめたのですわ。そしてドロップキックをマスターして帰国した馬場は3月26日、リキパレスで行われたヘビー級バトルロイヤルに出場、最後まで残り、ドン・ダフィに放ち、初公開を果たしましたのよ。

 目立つ新技には常にこれくらいの物語がほしいですわね。ちなみにわたくし、当てた時に派手にトンボを切る、オカダ・カズチカのようなドロップキックがあってもいいとは思いますわ。でも、ちゃんと受け身を取らず、片膝をクッションにして強く打ち付ける着地は危険ですし、美しくないと思いますのよ。彼のドロップキックは打点が高いですが、それだけになっていますので、あまりいいドロップキックとは言えませんの。せっかく光るものがあるのですから、真に魅せることが出来るドロップキックを見せていただきたいのですわ~!!!

 押忍ですわ~!!!

よろしければサポートお願いしますわ( ᵕᴗᵕ ) 励みにして頑張りますわ( ᐢ. ̫ .ᐢ ) プロレスだいすき♪( ◜௰◝و(و "