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あの夏、たしかにアフロは僕らのそばにいた 後編

1クラス45人、1学年16クラス、卒業までの3年間一度も顔を合わさないヤツもたくさんいる、いわゆるマンモス校って呼ばれていた狭い中学校に無理やり押し込まれた「僕」が、だらだらと無為に過ごした3年間のエピソード、いわゆる「プレイバック80'エッセイ」。ヤンキーパイセンK先輩と僕らの話、いよいよ完結。ある夏の暑い日、それは僕らの目の前に現れたんだよ。

前編、中編をまだ読まれていない方はこちらからどうぞ。

あの夏、たしかにアフロは僕らのそばにいた 前編

あの夏、たしかにアフロは僕らのそばにいた 中編


須恵器の欠片(かけら)を探しに

僕とマッツンが入部した郷土研究部の最大のイベントは秋の文化祭での展示発表だ。その準備として春からぼちぼちテーマを決めて少しずつ創作物の作成を進める。僕らが入った年のテーマは弥生時代や古墳時代の集落のジオラマ作り、それに合わせて可能ならば自分達で発掘した須恵器(すえき)の欠片も展示することに決まった。

僕たちの住む町は、古墳時代あたりに須恵器と呼ばれる陶器を作る窯がたくさんあったらしく、ニュータウン造成の際には窯跡が発掘調査されたりしている。近所には陶器という地名もあって町はずれの小高い丘というか山へ行って注意深く探すと陶器の欠片らしきものを見つけたりできる。ということで、夏休みのある日、郷土研究部の夏の恒例行事、「須恵器の欠片探し」に行くことになった。

まだ、真夏の最高気温が30度程度(記憶が正しいなら...)で、今みたいにクマゼミがシャンシャン鳴くのではなく、アブラゼミがミンミン鳴いていた夏休みのある日、郷土研究部の地味めな男子中学生集団は顧問のN先生に連れられて、電車で数駅、そこから歩いて30分程のところにある小さな山へ向かっていた。


僕ら、黒いタンポポの綿毛を見つける

そういえば、地味めクラブ唯一のヤンキーパイセン、K先輩は今回のプチ発掘作業には参加しておらず、それどころかあの「俺、狂犬やから」事件のあとも一度部活に来ただけで、ほとんどその姿を学校で見ることはなくなっていた。もしかしたら学校にすら来ていなかったのかも知れない。最初のうちは僕らも少し気にしていたけれど、だんだんといないのが当たり前になってくる。僕もマッツンもK先輩の存在のことを忘れかけていた。

真夏とはいってもまだ若干涼しい時間帯に僕たちは歩いて目的の山に到着した。山の入り口には僕らくらいの男子がひとりいた。だけど、首から上がなんか違和感がある...何というか「黒いタンポポの綿毛」のようだ。N先生を見て黒いタンポポの綿毛は挨拶をした。僕はそこで初めて黒いタンポポの綿毛の正体がK先輩だったと気づいた。ものすごいアフロヘアのK先輩がそこにいた。

僕たちはちょっとざわついたけど、部長とN先生は事情がわかっているらしく「久しぶり」「来てくれたんか」って言葉をかわしている。どうやら学校に来なくなったK先輩にN先生や部長が声をかけて「学校に無理に来なくていいから、陶器探しの部活だけでも来い」みたいな話になったらしい。


アフロからのプレゼントです

みんなで山を少し登り、通行のじゃまにならないところで僕たちは持ってきた小さいシャベルで斜面を掘りだした。小さな片手用のシャベルだけを持った「プチ発掘団」の活動開始だ。いつの間にかK先輩と部長が隣にいて、やはりガシガシと土を掘っていた。

「やっぱり学校には来えへんのか」「うん、いろいろ面倒くさいし」「部活だけでもええから来いや」。ふたりの会話を聞いていいのか悪いのか悩みつつ、僕はチラチラとK先輩の黒いタンポポの綿毛のようなアフロヘアーを観察していたので、まったく発掘作業に集中できなくなった。諦めて別の場所へ移ろうとしたそのとき、「あっ」とK先輩が小さく声を上げた。

K先輩の手には、わりと大きな土の塊があって、隅っこから陶器の欠片がのぞいていた。K先輩はにやっと笑って「これやるわ、多分大物やで」といって僕に土の塊を手渡してきた。僕はいきなりのことでとまどいながらも、ごにょごにょと小さくお礼をいって、K先輩から欠片を受け取った。ちょっと嬉しかった。


あの夏、たしかにアフロは僕のとなりにいた

途中で弁当の休憩をはさんで、わりと僕らは真剣にプチ発掘作業を続けた。そろそろ切り上げて学校へ戻ろう、という頃になったので集合して今回の成果をざっと確認することになった。いきなりK先輩が僕の腕をつかんで上に上げて「はい、今日は●●が一番大きなヤツを見つけたからみんな拍手!」みたいなことを言ったので、みんな「おーっ」みたいな感じで拍手をした。僕が「いや、これは...」としどろもどろになって言うのを見て部長もN先生も嬉しそうに微笑んでいた気がした。

「んじゃ俺は帰るわ、ありがとう」
最寄りの駅に着いた後、学校へは寄らずにK先輩は帰っていった。N先生も部長も引き止めなかった。そりゃそうだ、校則違反バリバリのアフロヘアーなので仕方ないな。いつの間にかセミの声はツクツクボウシに変わっていた。

学校に戻ってから、発掘した須恵器の欠片らしきものを洗って土を取って確かめる作業がある。僕はK先輩からもらった欠片を洗い始めた。土が取れてきれいになった欠片を見ると、どこかで見た記憶のある赤いリボンと猫の耳らしき柄の一部が表れた。

僕は震えた...


結局このとき掘り返したものの中でどうやら須恵器らしいものは、1つか2つくらいだったと思う。あとは全部ごみだ。あとでわかったことだけど、前の年の発掘のときにK先輩は部長に同じいたずらをされたらしい。その一年越しのリベンジの犠牲者が僕だったわけだ。みんなが拍手をしたときにN先生と部長が笑っていたのはそういうことだ...微笑んでいたんじゃないニヤニヤしていたんだ。

ごみを集めるところにハローキティ柄の陶器の欠片を持って行ったけど、僕は捨てるのをやめた。何故だろう。怖いと思っていたK先輩が、学校には来ないけど義理堅く部活に参加してくれたのが、たとえそれが一年越しのリベンジのためだとわかっても僕には嬉しかったのかも知れないし、それ以外の、例えば部長とK先輩の会話を聞いて色々僕なりに思うところがあったのかも知れない。今となってははっきりとは思い出せないけれど。

僕はごみ同然の陶器の欠片を制服のポケットに入れてみんなのところに戻った。

後にも先にもこれ一回だけのことだけど、あの夏、たしかに僕らのそばにアフロはいたんだよ。そしてちょっといたずらをして、またどこかへ行ってしまった、それだけの話だけど。

- 完 -



-----【次回予告】-----

「天使は一年だけ舞い降りた(仮)」、「コードネームはラズベリー・エピソード1(仮)」のどちらかを...。同時進行で書き進めているので、早く完成したほうをですね。しばらくお待ちを(^-^)