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「会社を50代で辞めて勝つ!」を読む

トヨタ自動車でながらく広告宣伝やマーケティングに携わっていた高田さんが、定年前に独立されて書かれた本を読んだ。

「勝つ」というタイトル(編集者がつけたものかもしれないが)など、自分とは違った考えをお持ちな部分もあるとは思ったが、全般的には自分の考え方や経験とも近く、納得の行く内容だった。

バブル世代で広告に関わった人特有の打ち出しの強さとかノリを感じるところもあり、ご経歴を綴られている第2章などは鼻につくと感じる方もいそうだが、書かれているアドバイスは実践的で、そのとおりだと思ったものが多かった。自分としても改めて反省したり今後取り入れてみようかと思う内容もあった。

第3章の「50代で会社を辞めるための10の心得」は、そのまま定年退職後も再就職などで円満な職業生活を続けるための心得と読み替えられるし、第4章「独立する前にやっておくべき20の行動」第5章「フリーランスとして生きるための15の知恵」は、目次だけでも目を通しておくと、定年前の独立や転職の有無をとわず、役に立てられる人は多そうだ。

フリーランスとして生きていくのはお金だけのためではない、お金は結果である、という意見や、副業は独立しなくても会社の仕事にもプラスだし、無給であってもやる価値がある、という主張は、私もまったく同じ意見。

そして、序章の「会社のホンネは「50歳を過ぎたら早く辞めてほしい」」というタイトルには考えさせられた。

日本企業に60歳定年が定着したのは80-90年代にかけてのことで、70年代は55歳が標準的な定年であった。それは高度成長真っ只中の時期とかさなるが、終身雇用や年功序列、年金制度などとセットで55歳定年があった、と考えることができるだろう。

そうだとすると、その当時からある日本企業のシステムは55歳をゴールとして最適化されたもの、ということができるのではないだろうか。今でも根本では高度成長期当時の仕組みを残す日本企業にとって、55歳以上の社員というのは「もてあます」存在である、ということは、当然といえば当然のことと言えるかもしれない。60歳に定年が引き上げられた時点でもそこにいびつさがうまれ、役職定年などに形をかえて事実上55歳定年は生きている。なので、「会社のホンネは「50歳を過ぎたら早く辞めてほしい」」というのは、制度設計上そうである、と考えるのが自然であるように思う。

昨今議論されている、定年ないし再雇用を65歳にまで、となると、さすがにいびつさが限度を迎え、一企業のみならず日本全体のシステムが成り立たないだろうし、無理にそれをあてはめることで様々なひずみが生まれることになる。

「働き方改革」が叫ばれて久しいが、こういう根本的な問題というよりは、単に残業を減らそうといった各論にフォーカスされていて、機能しなくなりつつある旧来の制度をどう作り変えるか、という議論が聞こえない気がする。その課題意識は、以前にも書いた。

上記の中で、橘玲氏の主張を紹介したが、人生後半戦は、働き方を自分でアップデートする機会、橘玲氏の整理で言えば、会社がようやく「働き方2.0」になろうとしているなかで、自主的に3.0や4.0を実現する機会だ、とも言えるかもしれない。

会社や社会が変わるのを待つよりも、リスクをとって自分が先に変わることをよしとするなら、そのリターンもまたリスクレベルに応じたものになるのかもしれない。ただ、戦後社会全体としてリスクを低減してきた日本で、リスクを取ることへの許容度を急激に上げることも現実的ではない。

しばらくは、こうしたジレンマを抱えた過渡期を過ごすことになるのが、この先50〜100年の日本の姿かもしれない。

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