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Scala –夢幻階段の感想

 噂に名高いヨアン・ブルジョワが来日するということで、2019年4月29日に静岡まで行って参りました。

 ラテン語で階段を意味するscalaは、物理学の世界では長さ・時間・温度・質量・電荷などを指します。分かりやすく言えば、ベクトルと比べて位置や方向性が無い概念です。

 この舞台では、大きな階段を中心にあちこちに階段があります。そこで演じられるのは「いつのまにか失くした物を、想い出す」物語。時間は遡り、椅子は崩れ、重力は失われ、想像もしていなかった場所から人物が消え、現れる。つまり位置や時間の方向性が失われている舞台でした。

 これを舞台上で本当に実現してしまえるのが、サーカスの凄いところなんだと、思い知らされました。逆回転の音源に合わせて、身体も逆回転させてしまえる。空中で泳ぐこともできる。他のジャンルの舞台では物理法則から早々に諦めてしまう表現を生の体で実現しますが、凄い技が出来て凄いでしょという自己主張を演者から感じる事も無い、舞台作品でした。
 物理法則に早々に負けるのはサボりだったんだと反省し、衝撃的でした。

 千秋楽はアフタートークもあったのですが、興味深かったのは多様性を重視していたこと。出演者は、サーカス学校、ヨガ、ボクシング、スタント、演劇、トランポリン、ブレイクダンスなどなどみな違うルーツを持っていて、それらのスキルを分かち合うことで多面的な物になるように作品作りをしたそうです。この公演自体は全員が同一人物のように振る舞うので、作品作りで多様性を確保しようとしていたのは意外でした。
 しかしよく考えてみれば、一見ループしている世界にみえる舞台でしたが、ちょっとづつ行動が変わることで世界が違う一面を見せてくるストーリーなので、その人間の癖ともいえる物を大事にしていたからこそ出来た舞台でもあったのでしょう。本当に、よく出来た舞台です。

 ちなみに、ヨアン・ブルジョワはサーカス出身者としては初めてフランスの国立振付センター(CCN)の芸術監督を勤めているそうです。やはり、とんでもない才能の持ち主なんですね。 

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