信じられない物を見た。リメディア感想
古典的サーカスは派手な衣装や超人技で観客を異世界に連れて行く。
「リメディア」の6人の演者はまるで浮浪者のような格好をしているし、それとわかる超人技も出てこない新しいサーカス<ヌーボーシルク>ではあるが、この作品が体現しているのも、異世界である。
始めに、全てが崩れ行く世界が現れる。椅子は折れ、机は傾き、壁は崩れ、自らも立つことができないほど強大なエントロピーに支配された厳しい世界。崩れ行く物から物に飛び乗りユーモラスになんとか生き残ろうとするも、あえなく世界の全てが崩壊してしまう。
そこからメタな観客に呼びかけて舞台転換し、物理法則がデタラメの世界へ。空間は予想しない場所でつながり、断絶し、複製される。水を求めて争う歩けない人々、怒れる赤い人、全てを斜めにする人。そして最後に建築される高くそびえるゴミの塔。
このチラシ、てっきりイメージなのかと思ったら本当に舞台上にこれが現れた。これだけの量の小道具・大道具があるっていうだけでも舞台としては信じられない。
通常、ちょっとした小物でも置く位置は決まってる。今回は道具上を歩いて行き次々に壊れていく屋台崩し的な演出があるので、絶対に全ての場所が決まっているはず。しかし、舞台上にはあふれんばかりのゴミが散乱していて、とても計算された配置が可能とは思えないほどである。
もうひとつ信じられないのは、身体。凄い事をやっていますアピールは全くないのだが、例えば勝手に上方に浮き上がってしまう女性がでてくる。彼女はワイヤーで吊るされているのではなく、マイムや逆立ちや周りの補助でそれを演じている。
観劇したマジシャンが「とりあえず、イリュージョンのフローティングの価値を見失った…」とつぶやいていたが、タネも仕掛けも演出でもなく、本当に空中に浮いてしまえる生身がそこにある。これは信じられない事件。
サーカスの身体を使うことによる表現の幅+高さ、それによる芸術性が極めて高まっている舞台だった。こんな別世界を体験させられる機会は、他にないだろう。
クレイジーだけどコミカルで寂しくて力強いガラクタの世界。自分は今、一回では捉え切れなかったところもあるので、もう一回見ようか悩んでいる。
<追記>
今月、この作品を作った「カミーユ・ボワテル」さんが日本の瀬戸内サーカスファクトリーで日仏共同制作を行う。日本のサーカスに彼の影響が今後色濃く残るであろう。楽しみだ。
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2014年05月03日 (土・祝) ~2014年05月06日 (火・休)
芸術劇場 プレイハウス
http://www.geigeki.jp/performance/theater051/theater051-1/
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