日本人は床に対して天才である

私の好きな人に、多田正美さんという方がいる。彼のサウンドエンカウンターという即興音楽ライブパフォーマンスは、床に置いてある素材を使って演奏をする。それは、竹や鉄の棒などをカラカラと転がしたり、重い石を持ってドスンと落したりして、音の発生に出会わせてくれる素晴らしい体験だ。そしてそれが海外で行われたときも大好評だったが、どこが良かったか本人が観客に聞いたとき「ずっと中腰でパフォーマンスをしてて凄い」と言われたらしい。その話をしたとき多田さんは苦笑いをしていた。

それを聞く限り、西洋人にはずっと中腰でいるという習慣が無いらしい。それで思い出したのは、バレエと暗黒舞踏の関係だ。

ダンスの世界ではいまでもバレエが学問として絶大な力を持っている。バレエの教える通りにすれば、圧倒的なまでに綺麗に体が動く。数百年間に渡り天才的ダンサーたちにより積み重ねられてきた叡智の結晶は、身体の動きに知識の光をもたらす灯台となっている。

しかし、それはバレエの思想に従うということでもある。例えば、上の写真を見ての通りバレエは爪先立ちをしてまで高さを目指す。それは足が長く身体が大きい西洋人にとっては最適な選択なのかもしれない。それでは、比較的身長が低く短足である日本人にとってはどうだろうか?

日本家屋の天井は低く、私なんかは実家に帰るといつも鴨居に頭をぶつけてしまうので、常に上を気にしないといけない。また日本人は生活習慣も違う。家では靴を脱いで暮らし、床に布団を敷いて寝る。相撲・柔道など多くの武道も裸足で行い、重心を低く保つ訓練をする場合も多い。

そんな日本人の身体と環境から来る空間への認識は、どう考えても西洋の知の体系とはずれるところがある。

だから、逆にそれを活かす事をした日本人たちがいた。1980年代に世界に衝撃を与えた、バレエとは対極的なダンス、それが暗黒舞踏(Butoh)だ。

バレエが天を舞うなら、彼らは地を這う。バレエが知の光ならば、彼らは未知の闇である。未知、というのも日本が得意とする分野なのは、西洋医学と東洋医学の差からも分かると思う。

海外では、ときどき日本ブームが起きる。それは”ZEN”などと呼ばれ、本当に禅をする場合もあるが、ZEN styleのガーデニングやインテリアなども持て囃されるらしい。さて、"ZEN style"で画像を検索してみよう。

日本人なら「何となく分かるけどナンカチガウ」みたいな感想を持つと思う。実は同じような感想を、私は海外のButohっぽいことをやっているダンサーに対しても抱くことがあり「あ、なんか腰が高いなぁ」なんて思いながら見てしまう。日本人からすれば、意識が床から浮いているのが見えてしまうのだ。

特殊な訓練や勉強をしなくても把握できる、それは天才と呼ぶのではないだろうか。日本人にとって「床」は相当な大きいアドバンテージである。

実は、前述の多田さんと話をしたのは10年くらい前だ。その時に思った事をなぜ今また思い出したのか。それは、今回のミラーボールサーカスで、ジャグラー渡邉尚さんのことをサーカスプロデューサー大島さんが「暗黒舞踏ジャグリング」と称したからだ。

ジャグリングだけど、ボールだけではなく身体を意識した動き。そして自分の身体を見つめた結果の演技が、暗黒舞踏を彷彿とさせたのは必然であり、それは日本人の床への天才性から来ている。

そして渡邉さん自身、自分のモーメントを「フロアジャグリング」と称している。単に床を使うだけの従来のフロアジャグリングではなく、床との関係性を捉え、特徴を活かし、革新的な動きをする。それは、近い将来、Butohのように世界でのムーブメントになるに違いないと私は思っている。

その先駆けになるであろう重大事件について、本日都内某所で先行予告を行う。ここでも追々発表していったり、色々記事を書いたりしていきたいと思っている。

今年は、ジャグリングが面白くなる。ご期待ください。

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安田尚央

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