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ボットがチケットを売る未来

 劇場での公演をビジネスの面から見てみると、お客様に売っているのは用意した座席に座る権利であり、実は在庫ビジネスです。予約済みの在庫を公演前の30分程度で一斉販売します。その販売員の負荷たるや凄まじく、売り場も限られており、あまり多くの商品を扱うことはできません。小さな公演なら前売りと当日券だけでもてんてこ舞いになります。

 しかし、公演に行くという行為は人に依って濃淡のある、もっと特別な行為のように思います。アーティストの応援のためにどんなに高いチケットでも毎回最前列で見たい人も居れば、たまたま気軽に見に来た人もいるし、そのジャンルが好きなのでできるだけ安く沢山見たいひとも居るでしょう。こっそり隠れて見守りたい出演者の彼女もいるかもしれません。

 その濃淡を実感したのは、ジャグリング公演のときのクラウドファンディングでした。本来の意味ならクラウドというのは群集のことですが、この企画では応援したい1人1人の顔が見えました。今まで数種類の在庫を一方的に販売していただけのお客様とのコミュニケーションが実は可能だったことに気付きました。座席数×チケットの値段がそのまま公演の収入だった場合、売り上げを得るには規模を大きくするしかありませんが、コミュニケーションにより濃淡を掬うことができたら、小さなイベントが救われます。趣味が細分化していき大型イベントが成立しにくい現代社会においては、この方向のほうが未来がある気がします。

 SSS席プラン、遅刻席プラン、出演者別グッズ付きプラン、バックステージツアー、花束プラン、握手権、などなどたくさん思いつきます。しかし複数の商品を用意したとき、お客様は分かりにくくなります。また、それを説明して販売する負担を誰かが請け負うのは現実的ではありません。

 そこで、テクノロジーの出番です。もちろんクラウドファンディングもその回答のうちの一つですが、もう一歩先があるように思います。

 昨今、フリーキーワードによる発注や、質問に答えるサポートデスクなどなど、オンラインでの接客を人工知能が行う事例が増えています。またFaceBookのMessenger Bot Storeプラットフォームに対する期待も大きく、時代は「会話型コマースの時代」に入ろうとしています。

 もし、こうやって会話でチケットを販売するようになったら、多くの細かい商品も扱えるようになると思います。


「7月23日の前売り券をください」
「S席(5000円)、A席(4000円)などがあります。B席は完売しました。席の違いについてはこちらをごらんください」
「最前列をください!」
「S席最前列(7000円)を予約します。よろしければ、はいとお答えください。グッズも一緒にお求めになりますか?一緒に買われると10%オフになります」
「パンフレットをください」
「S席最前列1枚とパンフレット1部を承りました。計8800円になります。よろしければ、はいとお答えください」
「はい」
「決済はこちらからお願いします。他に何か質問ございますか?」
「開場は何分前ですか」
「開場は30分前になります。他に何か質問ございますか?」
「差し入れを持っていってもいいですか?」
「ありがとうございます。差し入れは受付にて承ります。生菓子などはご遠慮いただいておりますので、予めご了承ください。他に何か質問ございますか?」

 予約システムCGIなんて当たり前に普及しているので、チャットBOTについてもある程度汎用的なものを作ったら普及しそうな気はします。しかもBOTは割と難しくないプログラムだし。

 単純な在庫ビジネスからの脱却に役立ちそうな気がしますが、どうでしょうか。

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