ビジネス上で互いの距離を急速に近づける安定のアプローチ〜AIインタビュー

さて、AIといっても、人工知能のことではありません。
立ち上げたばかりのベンチャーや、新しく組成されたプロジェクトチームなどで、メンバー同士の距離を急速に縮めることができる、アプリシエイティブ・インクワイアリーというアプローチ。これこそが、今回紹介したいAIという手法です。

■こんな状況はありませんか?
上司が、自分としては良かれと思って部下に色々な支援をしてあげているのに、部下からの反応は、折に触れて肝心なときに、ことごとく期待を裏切る。

例えば、部下と一緒にクライアントの課題をヒアリングし、そこで取りうる新しい打開策を議論するような場面。あなたは、部下がクライアントから信頼を得られるようにと、いくつかの打開策のヒントを提示します。

「敢えて今までのやり方を変えて、新しいツールを導入してみませんか?」
「この方法は、他のお客さんで、彼が実例を知っていまして」

ところがここで、部下はしかめっ面でこんなことを

「うーん、その方法は、今回のお客様のケースには、ちょっとジャンプが大きいような気がします」
「あれは別の業界での話なので、今回そのまま実例が役立つとはなんとも」

あなたはそのたびに、すっかり困惑し、怒りすらおぼえます。

「折角、お前のためにチャンスをつくろうとしているのに」
「なんでこのタイミングで、リスクの話ばっかりをするんだ」

そして、そんなことが何回か続くと、あなたの中では、

「あいつは結局、新しいことに取り組むのが苦手な人間だ」
「今まで、リスクの指摘をして賢くみせているつもりで、なんとなく仕事をしてきた人間だ」

というふうに。そしてこんなふうにすら思い始めます、

「あんなふうに、リスクの話ばかりするなんて、なんてかわいそうなやつなんだ。そんな後ろ向きで暗い感じでは、人生つらいだろうな。あんまり、関わりたくないものだ・・・」

このように、上司の観点からすると理解不能、自分の価値観と照らし合わせると、相手の価値観が全く理解に苦しむ。「何を考えているか、本当にわからなくて困惑してしまう」という状況が、今回のテーマです。

■Appreciative Inquiry(AI)という手法
Appreciative Inquiryという手法は、ケースウェスタンリザーブ大学のデビッド・クーパーライダー氏、ダイアナ・ホイットニー氏らが中心となって研究を進めてきた手法。その中でも、今回ご紹介する、インタビューシートを使った1対1の対話方法は、絶大な威力を持ちます。

その概略は、参加する2名が、同じ質問文章が書かれたシートを手元に持ち、その質問文章に沿って、「聞き役」と「話し役」をお互いが交互に担い、相手に関するインタビューを行うという、至ってシンプルなものです。

ところが、この手法を行うと、不思議なほどに今まで理解ができなかった、相手の考えの背景にある価値観を理解し、驚くほどその後の仕事をスムーズに行うことができるようになります。

その秘密は、このインタビュー(AIインタビュー)を通して、普段の仕事では語られる機会のない、お互いの根本にある価値観を互いに理解できるようになるからです。

例えば、ある新進気鋭のベンチャーでの実例。マーケティング部門の若手エースであるMくんは、いつも施策をプレゼンするときに、一番コアな部分の話になると「ここは絶対に、いままでの方法ではだめ。こうした方法に変更するのが、いいに決まってます!」と、なぜかロジックが欠如する部分が見える。

上司としてはそこに抵抗感が強く「あいつは、最後は自分のやりたいことを、理屈抜きに推し進めたいんだろうなあ・・・。本当の意味では、ロジックが弱いのかもしれない・・・」と、ひっかかりを覚えていました。

ところが、このAIでインタビューを相互に行ってみると、意外なことが判明します。
実は、彼の父親は、質実剛健な警察官。その父親の姿に小さいころから影響を受けた彼は、「とにかく、正しいことを曲げずに行う」「周囲が流されていても、自分が正しいと思ったことは、どんどんチャレンジするし、強く主張する」ということを大切にしていることが判明。そして、そういう価値観に触れる話になると、その考えとそぐわないものが、すべて敵に見えるし、腕力でそれを排除してきたという過去も。。。

この内容を深く知った上司は、それ以降、うそのように彼と仕事が進めやすくなりました。
彼の主張がムキになるたびに、いままでのように反射的に「だめだなー」となるのではなく、「だよね、これは許せない感じかもね」と、笑って受け止めることができるようになり、お互いの関係が劇的に改善、議論がスムーズに進むようになりました。

■この理論にある背景構造
①最初に、価値観の背景となった過去の体験を洗い出す
②続いて、無意識に「自分が最高だと思った過去の仕事の体験」を聞く
③②で聞いた場面には、その人のコアな価値観が関連しているに決まっているので、その状況を深掘りする質問をすることで、価値観を明らかにする
④それに沿って、今後何をしていったらいいかの方向性を見る


以上のような構造によって、価値観を短時間で、そして非常に納得感高く知ることができる構造となっています。

具体的には、下記のようなインタビューシートとなります:

===インタビューシートここから===
①過去の経緯・ウォーミングアップ:
「最初に、あなたのこれまでについて、簡単に教えてください。出身地や趣味、なぜこの仕事についたか、などのことをお教えください」

②過去の最高の体験:
「次に、あなたのこれまでの仕事の中で、最高だったと言える体験を1つ教えてください。そのときの状況が、私にもわかるように、ありありとした状況を教えていただければと思います。」
「そのとき、同僚や仲間、上司、部下、取引先など、どのような人が関わっていたでしょうか?そうした人たちは、そのような最高の体験が生まれる上で、どのように助けやきっかけを与えてくれましたか?」
「その最高の体験を生み出すにあたって、どのような組織体制、企業文化、人間関係などが影響していたでしょうか?」

③大切にしている価値観:
「先程お聞かせいただいた、最高の仕事の体験を振り返ってみると、あなたはどのような価値観や信念を持っているとお感じになられますか?あなたにとって、素晴らしい仕事となるには、どんな点が譲れない要素なのでしょうか?」
「これまで会った人の中で、あなたが特に、優れたリーダーシップを持っている、手本としたいと感じる人物を思い浮かべてください。その人物は、どのような強みや価値観を持っていますか?」
「あなたのことをよく知る人物に話を聞いたとしたら、あなたの価値観や強みについて、どんなことを言ってくれると思いますか?」

④未来へのイメージ:
ある朝、目覚めると、数年後の世界になっていました。その世界は、あなたが理想とし、思い描いた通りの変化が起きている世界です。
「そのとき、あなたの前には、どんな世界が広がっていますか?周囲はどのように変化し、あなたはどのような働き方をしていますか?」
「そのとき、あなたの現在の強みは、どのような形で成長し、活かされて居ますか?」
「そのとき、周囲にはどのような人がいて、あなたとどのように関係して働いていますか?」
「今、思い描いたイメージを実現するために、あなたが今叶えたい夢を3つ挙げるとしたら、どのような要素がありますか?」
===インタビューシートここまで===

実際に試すには、上記の「インタビューシート」の部分を、A4などの紙に印刷して、これを行う2人が、お互いにこのシートを持ちます。
そして、1人あたり30分程度、2人併せて60分で交互にこのインタビューを行います。

6人のチームであれば、3組のペアをつくり、このインタビューを60分行います。そして、終わったあとに、6人が再集合し、1人1人について、インタビューを行った側が、インタビューした相手について、どのような話が聞けたかを、1人あたり5〜10分程度で紹介していきます。

■リアルな現場での応用例
何を隠そう、この方法ですが、私がライフネット生命の立上げに関わっていた2008年の春先、ちょうど開業する直前に、マーケティングチーム内で実施したことがあります。
このとき、鮮烈に覚えているのが、上記の事例で出した「父親が・・・」という話。これはまさに、当時の同僚の1人について、私がインタビューをして聞いた内容そのもの。上記にあるように、強烈に強い正義感というものを、このインタビューで仕事を始めた当初から知っていたため、その後幾度となく、この同僚がいきり立つ場面、譲ってくれない場面で「ああ、この背景には、あの燃え盛るような正義感があるんだよなぁ」と納得していたため、非常にスムーズに仕事を進めることができました。

■実際の仕事で試したい方は・・・
この方法ですが、クイックに試すのであれば、上記で書いたように、「インタビューシート」というところを印刷し、実際に1対1の形式で試してみてください。特に、「この人のことは、自分もよく理解しているだろう」と思っている相手とやってみると、その意外な発見に驚かされるはずです。
注意点を1つだけ挙げるとしたら、必ず「相互にインタビューする」という点を崩さないことです。ここを崩してしまうと「一方は聞かれるだけ」「一方は聞くだけ」となってしまい、絶妙なバランスが崩れてしまいます。

そして、上記の内容で手応えを感じたら、より組織的にアプローチし、全体の内容を網羅的にカバーしている下記の書籍を、ぜひご参照ください。
このアプローチを日本に紹介した、私の古巣でもあるヒューマン・バリュー社による、詳細な解説となっています。
▼参考書籍
ポジティブ・チェンジ〜主体性と組織力を高めるAI〜(ヒューマン・バリュー)

それでは

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P&G→コンサル→ライフネット生命立上げ→現在は自分たちで創業したICJ社にて、ベンチャー投資・支援と大企業の新規事業コンサルを手がけています。MUFGフィンテックアクセラレーター、NRIアクセラレータなど、大企業と連携したベンチャーの事業加速が得意技。

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