見出し画像

歯ぎしり(ブラキシズム)と歯周病の関係

「歯周病患者には、”力のコントロール”が必要」
「歯を守るために、噛み合わせを調整しましょう」
「歯ぎしりがあるのは、噛み合わせが原因かもしれません」

エビデンスを見せてください…

え?この症例がエビデンス?

私の経験によると?

(うーん…)


というわけでこんにちは!Miyabiです★

今日はブラキシズムと歯周病の因果関係を明らかにすることを目的としたレビューを紹介します


Bruxism is unlikely to cause damage to the periodontium. Findings from a systematic literature assessment.

J Periodontol. 2015 Apr;86(4):546-55. doi: 10.1902/jop.2014.140539. Epub 2014 Dec 5.

【Introduction】

・2013年、専門家によりブラキシズムの定義が決定された…⑴

・ブラキシズムとは、
「歯のグラインディング(歯ぎしり)やクレンチング(食いしばり)、
または下顎の緊張(食いしばり)や突出を特徴とする反復性の咀嚼筋活動」

・ブラキシズムは睡眠中と起床時に生じるものの2つに明確に区別される

定義が決まったのは2013年なんですね
定義が書いてある論文がこれです
 ⑴ Lobbezoo F. J Oral Rehabil 2013; 40: 2-4.

・過去の学説は、ブラキシズムは歯周組織に過剰な負担を来たす可能性のある
 因子であるとされてきた

・半世紀以上、歯周病と、いわゆる咬合性外傷の関係に関するいくつかの
 研究が行われてきた

・一般的に、近年の文献は、歯にかかる過剰な力は歯周組織の健康にほとんど
 障害を与えないと示唆しており、咬合性外傷の存在には疑問がある
・本研究の目的は、「ブラキシズムが歯周組織の破壊を生じる証拠があるのか」という臨床上の疑問に回答を与えることである

歯周病学の大家、Dr.Lindeがイヌの実験で示唆してから、今日まで続く議論…

古くからあるテーマに終止符を打とう、という意気込みなのでしょうか??

【Methods】

Search Strategy:論文の検索、抽出方法

・National Library of Medicine’s Medline and ScopusやGoogle scholarで「bruxism」と検索して論文を抽出

・さらに「clenching」または「grinding」と一緒に、「periodontium」「periodontitis」「bone loss」「tooth/teeth mobility」「bone resorption」のいずれかを組み合わせて検索した

・論文抽出の基準は、論文の種類、対象がヒトや動物であるもの、
 ブラキシズムの診断が臨床所見や質問票、問診、ポリソムノグラフィ、
 エレクトロマイオグラフィで行われたもの、を歯周組織への障害と
 関連のあるものとした

Systematic Assessment of Papers: 論文の体裁の評価

・PICOの各項目全てが満たされるもの

満たされないものは、P(Patient)の基準がはっきりしていないもの、C(comparison)を規定していないもの、などでしょうか(ありがちですね)

Quality Assessment: 論文の質の評

・Clinical Appraisal Skills Programme (CASP)Cohort Study Checklist
 を用いて評価した

Verification of causality criteria :因果関係の検証

・Hill’s criteriaを用いて評価した

Hill’s Criteria(Bradford Hill基準):
 因果関係なのか、単なる相関なのか考えるための枠組み
 診療ガイドラインなどでエビデンスの質などが書かれていることがあるが、その基準となるもの
 以下の9つの項目からなる
 
1. 関連のつよさ strength of the association
2. 一貫性 consistency
3. 時間的関係 temporality
4. 生物学的用量反応勾配 biological gradient
5. 特異性 specificity
6. 生物学的妥当性 biological plausibility
7. 整合性 coherence
8. 実験 experiment
9. 類似性 analogy

昔から使われて、徐々に修正されているようですが、全て満たしたからと言って
エビデンスレベルが高いとも言い難いのですが、基準としてよく用いられます

【Results】

・National Library of Medicine’s Medline and Scopus検索により、2,835件の
 論文と3,767件の引用文献が得られ、その中の2,562件が重複していた

・そのため対象となったのは4,040件である

・タイトルとアブストラクトで3,995件を除外し、英語でない、レビューである
 などの理由で36件を除外した

・残った9件のうち、5件は研究デザインの問題で除外した

・Google scholarの検索で2件追加し、6件が本レビューの対象となった

4,040件の論文のうち、レビューに耐えうる論文が6本…???

いくらなんでも少なすぎないか!?

・6件の論文の内容は様々であった
 ブラキシズムと歯周疾患の関係を、歯間の知覚(コンタクト?)の変化として
 評価していたり、グラインディングをパターン分けしていたり、
 ブラキシズムであるかどうかの診断を自己申告に頼っていたり、など

・研究デザインが様々であったためメタアナリシスは諦めた

歯間の知覚、としか訳せなかったのですが、当該論文を読まないと分かりませんね

というか、読まなくても分かるように書いて欲しい!
ちなみにこの論文はいきなり略語が出てきて説明がなかったり、
関係代名詞を多用していたりと、全体的に読みにくくてイライラしていて、
誰だよ書いたのって見たらイ●●ア人だったので仕方ない

ブラキシズムと歯周病との因果関係を考える前に、
診断基準やアウトカムの評価方法など、変数の定義が論文によって様々で、
比較できなかったようです

ブラキシズムの定義が定まったのが2013年ですから仕方ないのかもしれません

2013年以降のブラキシズムの研究は、歯周病との関係には目もくれず
(実際、レビューの対象となった論文は全て2013年より前)
補綴のチッピングなどにフォーカスしています

診断基準が統一されていないのは、研究結果の比較が難しくなってしまいますから厳しいですね

・研究の質の評価では、不適切なものが半数であった

・欠点としては、ブラキシズムの診断が自己申告で評価していた点である

・一つの研究は、エレクトロマイオグラフィでの評価をしていた

質が低いこと、診断基準が曖昧で信頼性が乏しいということでしょうか

唯一、定量的な評価をしている論文があったようです

 Ono Y. Cranio 2008; 26: 282-6

日本の論文ですね!この論文はCASPでも高評価(質が高い)、Hill's criteriaは5/9で、6本中最も高いスコアでした

【Discussion】

・一般的に、咬合が歯周疾患の発症と関係がないことは合意されているにも
 関わらず、議論は未だ活発である

・不幸なことに、この点に関する文献の欠点により、明確な結果とはならなかった

確かに咬合は、歯周炎の”発症”とは関係ありませんね

本レビューの欠点として3点、指摘しています

・1つめ、レビューに耐えうる論文が6本しかなかった
 ブラキシズムの診断の特異度が低く、自己申告制が多くの論文で採用されていた
・2つめ、論文の質が低い
 特に、6本中4本の論文では、ブラキシズムのスタンダードな診断基準を用いていなかった
・3つめ、因果関係の結論としての有効性は限定的である

とにかく、診断を自己申告に求めている点は、かなり問題がありそうです

質問票である程度はスクリーニングできるでしょうけど、ブラキシズムが「反復性の咀嚼筋活動」と定義されていますから、筋電図などで筋活動を数値化したり、あるいは脳波計を用いて覚醒度との関連などを明らかにする必要がありそうです

因果関係を明確に指摘することは出来ないとしています

・サルを用いた研究では、不正咬合はブラキシズムを誘発していた
・サルを用いた研究では、ブラキシズムと慢性辺縁性歯周炎との関係は認められなかった
・一方で、人間を対象とした研究では、不正咬合はブラキシズムと関係は認められていない
・上記のような点を考慮すると、ブラキシズムと歯周疾患との間に因果関係はないことが示唆される

サル:不正咬合→ブラキシズム       ○
        ブラキシズム→歯周病   ×

ヒト:不正咬合→ブラキシズム                    ×
        ブラキシズム →歯周病  ?だけどたぶん× と考えるのが普通

雑に言うとこんな感じでしょうか


要するに、現在の科学では、歯周病と咬合に因果関係は認められておりません

・今後、歯周病患者でのブラキシズムの有病率を評価することで、因果関係が認められるようになるかもしれない

こんな研究デザインでしょうか?

P:歯周病患者
E:ブラキシズム あり
C:ブラキシズム なし
O:アタッチメントロス

ただし、論文でも指摘しているように、ブラキシズムの診断は、筋電図で行わなければ、すなわち定量的に評価(数値化)されていなければいけません


ここまで分かった上で、安易に歯を削ることはもちろん、患者さんへの質問にも十分な慎重さで取り組みたいものです

ありがとうございました!

スキ、フォローお願いします!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?