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<序章:その7>再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』

愛知県で墓石の施工などを手掛ける矢田石材店の矢田敏起社長は、2012年に本を出版しました。『心が強くなるお墓参りのチカラ』(経済界)。お墓を通じて、家族の絆、先祖供養の大切さを伝え、「お墓参りこそ最高の人間教育」と説き、「命のつながりを知ることで、あなたの生き方は一瞬で変わる」といった想いや、そこに至った自身の半生などをまとめたものです。発行から10年以上が経ち、改めて、みなさんに読んでいただければと、このnoteの場で再録することにしました。少しずつ連載します。

父の店が倒産

 自衛隊を除隊してから 、いよいよ本格的な石屋修行です。
 
これも、自分の家では修行にならないので、別の石屋さんに、3年ばかり弟子入りしました。また、夜は職業訓練校の石材科に通い、石の加工などイロハのイから勉強しました。
 見ていると石屋の適性と言いますか、石との相性のいい人悪い人がいることがわかりました。
 墓石は比較的向き不向きが少ないのですが、彫刻や灯篭関係になると、センスの有無が決定的なポイントになります。ごく一般的な灯篭、雪見灯篭などをつくるにしても、美的センスや、目に見えていないものをイメージする能力、右脳の力がないとできません。今削っているところが、全体の中でどういう位置関係にあるのかわからないと、きれいな曲線がつくれなかったり、アンバランスな出来の悪いものになってしまいます。
 私自身はあまり美的なセンスがないのですが、一緒に仕事をしているすぐ下の弟は、右脳タイプの特徴である左利きで、もともと絵もうまかったのですが、イメージ力も高く、造形力がありました。たとえば猫の姿を石で掘るときも、イメージをもとにダーッと石を削っていくと猫になるのです。
 しかしイメージ力のない人だと、どんなにいい彫刻家について2、3年修行しても、全然ものになりません。
 さて、修行が終わってから、矢田石材店に戻りました。
 父が山から仕入れた石を加工して職人が墓にするのですが、私も先輩職人について、加工の仕事に携わりました。
 ところが数年ほどして、事件が起こります。何と父が大きな借金を背負って、会社が工場ごと競売に掛けられてしまう、という事態になったのです。一切合財がなくなったのです。
 借金は、過剰設備と石の買い付けの失敗でした。そもそも石を山から買うのは、よい石を掘り出す宝探しという面もあるのですが、むしろ一種のギャンブルに近かったのです。その一か八かのギャンブルに、スッテンテンになるまで負けたような失敗でした。
 というのは、父は一時、いちばん値の張る石を出す山を買い切ったこともあるほど、大きな商売をしていました。山の状態がいいときはそれでよかったのですが、あるときからいい石が出なくなったのです。それでも父はそこにお金を出して、買い続けたわけです。
 売り物にならない石ばかり買っていれば、石屋は当然ながら破産です。まさにその落とし穴に父ははまってしまったというわけでした。
 当時、私は28歳くらいでしたが、一気に何もかもなくなりました。しかも結婚していました。働かなくてはなりません。
 しかし、よその会社に入って働こうという気持ちにはなりませんでした。墓石屋を続けたい気持ちが強かったし、迷惑をかけた人たちに残った借金を返済したいと考えました。
 でもすべては競売に掛けられて、徒手空拳です。
 何から始めたらよいのだろう。
 そのときに思い付いたのが、お墓そうじでした。

<つづく>


「再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』」は、月曜日に不定期(2週間おきくらい)でリリースする予定です。

前回まで
はじめに
・序章
 母が伝えたかったこと
 母との別れ
 崩れていく家
 止むことのない弟への暴力
 「お母さんに会いたい!」
 自衛隊に入ろう

矢田 敏起(やた・としき) 愛知県岡崎市生まれ。高校卒業後、自衛隊に入隊する。配属された特殊部隊第一空挺団で教育課程を首席で卒業後、お墓職人となるため、地元有力石材店で修業をする。1956年に創業された家業の石材店を継ぎ、「人生におけるすべての問題は、お墓で解決できる」ことを見出し、「お墓で人間教育」を提唱する。名古屋の放送局CBCラジオで、平日午前の番組『つボイノリオの聞けば聞くほど』に2012年から出演を続けており、毎週火曜日に「お墓にかようび」というコーナーを持ち、お墓づくりや供養に関する話を発信している。建て売りで永代供養の付く「不安」の少ないお墓を提供する「はなえみ墓園」を2020年に始め、愛知県内25カ所(2023年12月現在)となっている。2022年にお寺の本堂を使った葬儀をサポートする「お寺でおみおくり」を始め、2023年にはお墓じまいなどで役目を終えた墓石の適正な処分や再利用を進める「愛知県石材リサイクルセンター」を稼働させた。

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