<序章:その8>再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』
無償ではじめたお墓そうじ
これは商売っ気なしの気持ちからスタートしたものです。とにかく何かしなくてはならないが、設備もないから石の仕事はできない。ともかく墓の近くにいたい、ということから、それなら墓のそうじだろうとなったのです。
とはいえ、まったく知らないお宅の墓をいきなりそうじするのもいけませんから、まず、掃除する対象は、過去に数は少ないのですが、私が職人として建てさせていただいた墓です。施主様に連絡して、
「無償でいいですから、お墓を掃除させてください」
とお願いしました。
お墓を建てた職人ですから、まったく知らない人間ではありません。施主様のほうでもすぐに諒解してくれました。
それが済むと、知り合いの葬儀社に電話をして、葬儀社さんのサービスということで、近くご遺骨を納める予定のお墓を無料でそうじさせてくださいとお願いしました。
こうした経験の中で得た、お墓そうじの仕方については、第4章で紹介しますから、参考にしてください。ひじょうにきれいに、お墓を傷つけずに仕上げる方法です。
一つひとつのお墓を、丹念にそうじして、それはそれは見違えるようにきれいにしました。
と同時に、私の行ったお墓そうじでは、1回、全体を解体してきれいに組み直す仕事もありますが、雑で粗い仕事にもずいぶん出合いました。基礎も打たずに墓石を載せただけのものもあり、
「何でこんないい加減な仕事をするんだろう」
とあきれたものでした。
いくつかそうじをしていくうちに、お墓の持ち主が、
「石屋さん、それだけやってくれるのなら、お墓のここを直してくれないか」
と声をかけてくれるようになりました。石が欠けていたり、変な色が浮き出ていて気持ちが悪いようなところの修復です。
また、若い者がお墓のそうじを毎日しているという評判が立って、いろんな方が見に来ます。すると、その若い者が石屋だと知って、
「お兄ちゃん、うちの墓の修復も頼むよ」
「うちのお墓、ここんとこが壊れているんだが、何とかならないか」
と小さな仕事が次から次に舞い込むようになったのです。
そのうちに、小さな仕事ばかりでなく、新たに建てる仕事や建て替えの仕事などもいただくようになりました。
総計で2千件を超える仕事になったときに、「これなら」と店を借り、弟を誘って本格的に会社の再建に乗り出したのです。
借金の返済は、10年くらいかかりましたけれども、最近になって完済しました。その基礎を築いたのは、お墓そうじでした。お墓のそうじについては、いまでも特別な思いがあります。
<つづく>
「再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』」は、月曜日に不定期(2週間おきくらい)でリリースする予定です。
<前回まで>
・はじめに
・序章
母が伝えたかったこと
母との別れ
崩れていく家
止むことのない弟への暴力
「お母さんに会いたい!」
自衛隊に入ろう
父の店が倒産
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?