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<序章:その8>再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』

愛知県で墓石の施工などを手掛ける矢田石材店の矢田敏起社長は、2012年に本を出版しました。『心が強くなるお墓参りのチカラ』(経済界)。お墓を通じて、家族の絆、先祖供養の大切さを伝え、「お墓参りこそ最高の人間教育」と説き、「命のつながりを知ることで、あなたの生き方は一瞬で変わる」といった想いや、そこに至った自身の半生などをまとめたものです。発行から10年以上が経ち、改めて、みなさんに読んでいただければと、このnoteの場で再録することにしました。少しずつ連載します。

無償ではじめたお墓そうじ

  これは商売っ気なしの気持ちからスタートしたものです。とにかく何かしなくてはならないが、設備もないから石の仕事はできない。ともかく墓の近くにいたい、ということから、それなら墓のそうじだろうとなったのです。
 とはいえ、まったく知らないお宅の墓をいきなりそうじするのもいけませんから、まず、掃除する対象は、過去に数は少ないのですが、私が職人として建てさせていただいた墓です。施主様に連絡して、
「無償でいいですから、お墓を掃除させてください」
とお願いしました。
 お墓を建てた職人ですから、まったく知らない人間ではありません。施主様のほうでもすぐに諒解してくれました。
 それが済むと、知り合いの葬儀社に電話をして、葬儀社さんのサービスということで、近くご遺骨を納める予定のお墓を無料でそうじさせてくださいとお願いしました。
 こうした経験の中で得た、お墓そうじの仕方については、第4章で紹介しますから、参考にしてください。ひじょうにきれいに、お墓を傷つけずに仕上げる方法です。
 一つひとつのお墓を、丹念にそうじして、それはそれは見違えるようにきれいにしました。
 と同時に、私の行ったお墓そうじでは、1回、全体を解体してきれいに組み直す仕事もありますが、雑で粗い仕事にもずいぶん出合いました。基礎も打たずに墓石を載せただけのものもあり、
「何でこんないい加減な仕事をするんだろう」
とあきれたものでした。
 いくつかそうじをしていくうちに、お墓の持ち主が、
「石屋さん、それだけやってくれるのなら、お墓のここを直してくれないか」
と声をかけてくれるようになりました。石が欠けていたり、変な色が浮き出ていて気持ちが悪いようなところの修復です。
 また、若い者がお墓のそうじを毎日しているという評判が立って、いろんな方が見に来ます。すると、その若い者が石屋だと知って、
「お兄ちゃん、うちの墓の修復も頼むよ」
「うちのお墓、ここんとこが壊れているんだが、何とかならないか」
と小さな仕事が次から次に舞い込むようになったのです。
 そのうちに、小さな仕事ばかりでなく、新たに建てる仕事や建て替えの仕事などもいただくようになりました。
 総計で2千件を超える仕事になったときに、「これなら」と店を借り、弟を誘って本格的に会社の再建に乗り出したのです。
 借金の返済は、10年くらいかかりましたけれども、最近になって完済しました。その基礎を築いたのは、お墓そうじでした。お墓のそうじについては、いまでも特別な思いがあります。

<つづく>


「再録『心が強くなるお墓参りのチカラ』」は、月曜日に不定期(2週間おきくらい)でリリースする予定です。

前回まで
はじめに
・序章
 母が伝えたかったこと
 母との別れ
 崩れていく家
 止むことのない弟への暴力
 「お母さんに会いたい!」
 自衛隊に入ろう
 父の店が倒産

矢田 敏起(やた・としき) 愛知県岡崎市生まれ。高校卒業後、自衛隊に入隊する。配属された特殊部隊第一空挺団で教育課程を首席で卒業後、お墓職人となるため、地元有力石材店で修業をする。1956年に創業された家業の石材店を継ぎ、「人生におけるすべての問題は、お墓で解決できる」ことを見出し、「お墓で人間教育」を提唱する。名古屋の放送局CBCラジオで、平日午前の番組『つボイノリオの聞けば聞くほど』に2012年から出演を続けており、毎週火曜日に「お墓にかようび」というコーナーを持ち、お墓づくりや供養に関する話を発信している。建て売りで永代供養の付く「不安」の少ないお墓を提供する「はなえみ墓園」を2020年に始め、愛知県内25カ所(2023年末現在)となっている。2022年にお寺の本堂を使った葬儀をサポートする「お寺でおみおくり」を始め、2023年にはお墓じまいなどで役目を終えた墓石の適正な処分や再利用を進める「愛知県石材リサイクルセンター」を稼働させた。

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