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自分の言葉にしたい。古賀史健×柿内芳文「あのころのオレ」との戦い方を聞いてきた #神保町編集交差点

(今回のnoteは、12月6日に行われた#神保町編集交差点 のイベントレポートです。写真はToru Kawarazuka@書評好きマーケターさんにお借りしました。)

『嫌われる勇気』の著者として知られる古賀史健さんと、『嫌われる勇気』『漫画 君たちはどう生きるか』の編集者である柿内芳文さんの対談イベントに参加してきました。

このイベントは、おふたりの後輩にあたる今井雄紀さんが企画する「神保町編集交差点」だからこそ実現できたといえる、かなり貴重な対談です。
おそらく後日、詳しいレポート記事が公開されると思います。

企画の経緯はこちら。


過去のイベントレポートはこちら。


今回は、対談の内容が非常に深いもので、Twitterの#神保町編集交差点で流れてしまうのはもったいないと感じたので、印象に残っている部分を中心にまとめました。

編集者として、ライターとして、言葉や文章と向き合う姿勢が読む人の何かヒントになればと思います。

柿内さんが優れた編集者である理由は「フィナーレ感」!?

対談は、古賀さんと柿内さんの出会いから、古賀さんが考える「優れた編集者の5条件」の話へと進みます。

優れた編集者の5条件
1.原稿を受け取ったら1秒でも早く返信する。
2.ほめ言葉は感情的に、直しの指示は論理的に。
3.ほめることに照れない、直すことにおじけづかない。
4.直しの指示は「答え」ではなく「選択肢」を提示する。
5.本を出したあとのアフターフォローをきちんとする。

古賀さんによると、実は柿内さんもすべて完璧というわけではないようですが、2と4の「ほめる」ところが特に上手なのだとか。
逆に、直しの指示は「フィナーレ感がほしい」とかなり独特な部分もあるという話が。ただ、もちろんその要望も意図があってのこと。

古賀さん:本は導入が命。立ち読みから、いかにレジへ持って行ってくれるかを必死に考えていた。逆に、カッキー(柿内さん)は出口を考える人。
柿内さん:本を編集するときのイメージは映画。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とかを意識して、本を編集していた。読後感や没入感を意識している。
古賀さん:「フィナーレ感」も、本を出した後のクチコミを意識してのことで、本をどう広げるかを学ばせてもらった。

それぞれライターと編集者として役割が違うからこそ、お互いに補完しあいながら1冊の本を作りあげることができるのだなと感じました。

余談ですが、対談を通じて柿内さんがわーーーっと話した後に、古賀さんがわかりやすい言葉で翻訳してくれるといったやりとりが何度かあり、お互いが考えているイメージをよく理解し合っているんだなという印象を受けました。


柿内さんが考える「編集者」は没頭と俯瞰ができる人

さらに話は、柿内さんの「編集者とは?」という話へ進みます。

編集者の仕事について、柿内さんは「没頭」と「俯瞰」という2つのスキルが必要と話します。

柿内さん:「没頭」は文章の強さを作る人、つまりディレクターやライターといった職人的な役割。
逆に「俯瞰」は文脈を作る人、つまりプロデューサーとして「強さ」を広める役割。自分はその両方をもってる自負がある。
いくら強さのあるものができても、正しい文脈のある場所に置かれないと意味がない。
古賀さん:カッキーと一緒に仕事をすると、俯瞰してるというのをすごく実感する。原稿を書く前から、目次を見ただけでだいたいの完成形が見えるという特殊能力ある。

柿内さんは、複数の本を同時に進めるというのはあまりせず、1冊の本に没頭していくのだそうです。一方で、本の中の文章に限らず、本という商品を市場へどういう文脈に置くかというマーケティング能力が高い人なんだろうなと感じました。
映画の中から文脈のヒントを得ることも多いようで、どういう作品が世の中に必要とされているのか?を常に考えている印象でした。


「あのころのオレ」と戦う方法は、話し続けること

また、おふたりに共通していたのが「考える」方法について。

柿内さん:考えるときにメモは取ったりするけど、人とすごく話をする。昔、先輩に話しかけてばかりいたので「柿内……仕事していい?(笑)」とよく言われた。ぼくは仕事してる認識だったんだけどね。とはいえ、話しすぎるところあるので、もし自分が隣りにいたら自分でもちょっと嫌かな(笑)。
古賀さん:考えるときは独り言。口をパクパク動かして、自分インタビューみたいなことをやってる。「ライターってなんですか?」とか「そばとうどんは、どっちが好きですか?」とかまで。いろんな質問を想定するのは、自分の言葉で答えたいから。
大学時代に彼女と別れて傷心旅行したときに、うつむいて歩いてたので自分の唇が見えた。そこで初めて「あ、おれずっと独り言を言ってたわ」と気づけたくらい。
柿内さん:ぼくもそう。人と話すのは自分の言葉にしたいだけ。誰に何を話したか覚えてないから「この話、したっけ?」が口癖。

これが、まさに今回のイベントのテーマである「あのころのオレ」との戦い方になるのかなと感じた部分でした。
おふたりとも、「人に話す」と「自分に話す」というアプローチは違うものの、考えることを常に続けているのだなという印象でした。


最後までこだわるから強さがうまれ、文脈に沿った人に届く

最後は、「こだわることができるのはなぜ?」という今井さんからの質問について。

古賀さん:良い本をつくるというのは、最後の最後までどう粘るか、根性論的なところがある。自分が3年後に見たときに後悔する可能性があるなら直す。最後の最後まで追求したい。
柿内さん:(質問に対してう~んと考えながら)「こだわる」ことに努力してない。やめることのほうが大変なことをしてる。「サーフィンよく続けられますね」と言われるけど、ぼくにとっては行くことを我慢するほうが難しい。

と、それぞれのスタンスが垣間見える返答でした。

また、柿内さんについては質疑応答でひとつ印象的な場面がありました。

『君たちはどう生きるか』で、映画を意識した部分というのはありますか?という質問に対して

柿内さん:原作の強さと、漫画を描いた芳賀さんの強さを、どういかすかを考えた。80年前の作品なので、芳賀さんとは「道徳臭」のようなものがあるねと話していて。それを、どう今の文脈にあわせるか。
原作と1番変えたのが、叔父さんとコペルくんの関係性。上下じゃなくて同列に置けたことが大きかった。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でいうとドクとマーティンのような関係性というか。
あとは、「日本を代表する歴史的名著の初マンガ化」という文脈を考えた。「歴史的名著」という言葉をつけたのは自分が初だと思う。ちなみに、本のイントロは『ブレイキング・バッド』のイメージ。

といった、具体的な話が聞けたことで、「文脈」のイメージが理解しやすくなりました。

イベントの帰り道でふと考えたのですが、『嫌われる勇気』も『漫画 君たちはどう生きるか』も、100万部を超えるミリオンセラーです。単純計算で10億円を超える売上をつくりだした商品なわけです。
もちろん、編集者とライターだけでつくれたものではないですが、そういう規模の商品をつくる人たちのこだわりや考え方の一端を知ることができたのが、なによりの収穫でした。

細部の言葉ひとつひとつにまで気持ちを込めるからこそ強さがうまれ、届けたい人のところまで文脈に沿って広がっていく。
その状態をつくるために、考え続けることの大切さを学べた気がしました。


まとめ

「あのころのオレ」との戦い方=日本を代表するライターと編集者が日々やっていること

・どういう作品が世の中に必要とされているのか?を常に考える。
・「考える」とは、自分の言葉にすること。
・最後の最後まで、良くなる可能性がある限り直す。それは努力ではない。


最後に

発言の内容は、録音して確認したわけではないのでもしかすると表現がふさわしくない場所があるかもしれません。もし、なにかあればご指摘いただけると幸いです。

また、神保町編集交差点のイベントに初めて参加しましたが、今回が最終回とのことでした(来年に復活したりしないのかな…)。普段、あまり聞くことができない編集者やブックライターの話が聞ける貴重な場でした。

(この記事も最前線のノウハウがぎっしり詰まってます)

今回の古賀さん×柿内さん対談も、きっと読み応えのある記事になると思います。楽しみにしてます。

参加させていただき、本当にありがとうございました。

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