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第26話 手紙

「殺された?」

 それは、6歳の女の子の口から告げられるには、余りにも凄惨な話だった。

 平日の昼下がり。父親が会社に仕事に行き彼女の家には、母親と風邪を引いて寝ていた彼女のみがいた。

 そこに、配達業者を名乗る男が一人訪れたそうだ。

 その男は、いきなり母親に襲いかかると、隠し持っていたナイフで母親を刺し殺したのだという。
 
 彼女は、それを扉の影からただ見ていた。
 何度も何度もナイフが彼女の母親を刺し貫く。
 身動きすらしなくなった母親にそれでも執拗に傷跡を増やしていく。
 やがて、満足したのか、男は洗面所に入っていくと、シャワーを浴びはじめたという。

 彼女は、その間に、家から飛び出し助けを求めた。
 しかし、隣人は仕事で家を空けており、誰もいない。

 結局、1番近い交番に駆け込むのに10分以上かかったそうだ。

 その頃には、男はもう居なくなっていたという。

「紀美丹君。」

「なんですか?」

「いきなり過ぎて受け止め切れないわ。」

「奇遇ですね。僕もです。」

 しかし、ママもいるの意味はなんとなく理解できた。
 もし幽霊がいるなら、ママも幽霊になっているかもしれない。そういう意図での発言だったのだろう。

「ねぇ、お姉ちゃん!ママに会わなかった?私ね、ママにお手紙書いたの!」

 尾張さんは、とても渋い顔をしている。

「紀美丹君。どうすれば良いのかしら、この場合。」

「僕に聞かれても。」

 未来ちゃんは、そんな僕たちの様子を見てとると、目を潤ませて、下を向いた。

「・・・・・・ママにお手紙渡したいの。」

 尾張さんは、それを見ていられなかったのか、ため息をつくと、

「わかったわ。その手紙を渡しなさい。もし、会えたら渡してあげるから。」

 と、しぶしぶと言った様子で言うのだった。
 
 未来ちゃんは、パッと顔を輝かせると、肩から下げていたポシェットから、桃色の封筒に入った手紙を出して尾張さんに渡す。

「ありがと!幽霊のお姉ちゃん!」

「あまり、期待はしないでね。あと、その呼び方はやめなさい。」

 尾張さんは、手紙をポケットにしまうと、ひらひらと手を振り、

「子供はそろそろ家に帰りなさい。もう日が暮れるわ。」

 と、照れ隠しのように言うのだった。

「よかったんですか?」

 未来ちゃんが見えなくなってから、尾張さんに尋ねた。

「何のこと?」
 
「手紙。あんな安請け合いしちゃって。」

「しかたないじゃない。あんなの。」

 反則よ。と尾張さんは苦々しげに呟いた。

「あなたの心を揺さぶる物語を。」  あなたの感情がもし動かされたなら、支援をお願いします。  私達はあなたの支援によって物語を綴ることができます。  よろしくお願いします。