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第30話 幕間:終わった世界の始めかた。

 トイレのドアを叩かれる。
 いつのまにか、だいぶ時間が経っていたようだ。

 トイレから、出ると駅員さんが立っていた。

「どうかなさいましたか?」

 そう、声をかけられた。

「ぃぇ、大丈夫です。」

 声は掠れていたと思う。
 一礼して、外に出る。夕焼けが目に染みた。
 
 そのまま、フラフラと家に帰る。母親は、仕事から戻ってきてはいないようだった。

 そのまま、ベッドに倒れ込む。何故かとても眠かった。
 
 翌日。早朝に目が覚めた。
 前日の夕食だったのか、ラップがかけられたカレーライスがテーブルに置かれていた。

 お腹が鳴る。死にたいくらいに気分が沈んでもお腹は減るようだ。

 ラップを剥がし、冷たいままのカレーライスを口に運ぶ。

 久しぶりに口に入れた食べ物の味は、よくわからなかった。

 ただ、いつのまにか、頬を水が伝っていた。

「なんで、泣いてるの?」

 いつのまにか、扉の前に立っていた母親に声をかけられる。

「別に泣いてない。」

 服の袖で水を拭う。母親は黙ってカップスープにお湯を入れ差し出してくる。

 スープに口をつける。暖かさが身体全体を暖めていく。

「泣いてるじゃん。」
 
 いつのまにか、また水が流れていたようだ。どうやら、蛇口が緩くなっているらしい。目をこする。

「なんかあったの?」

 何の気なしに母親が聞いてくる。
 その無神経さは、昔から変わらない。

「昨日、飛び降りを見た。」

「ふーん?まぁ、犬に噛まれたとでも思って、忘れなさいな。」 

 犬に噛まれたら、割と大事だけど。と続ける。そんな、能天気さにイラついてつい口が滑った。

「友達が、殺された。」

「・・・・・・仲良かったの?」

 うなずく。

「そう。なら、その子の分もあんたが人生を楽しみなさい。」

「・・・・・・。」

「その子に何があったかは知らないけど、その子だって別にあんたに落ち込んで欲しいわけじゃないでしょ。あんたが落ち込んでこのままダメになったって、一念発起して犯人捕まえたって、その子はもう戻ってこないんだから、」

 それなら、もっといい人を見つけてその子と仲良くなりなさい。その言葉に僕は流石にキレた。

「尾張さんに、代わりなんていない!!」

 そう叫んで、立ち上がる。それをジッと見ながら、母親は、

「その子の事、そんなに好きだったの?」

 そう言った。僕は、口をパクパクと金魚のように動かしながら、自分の失言に気づく。

 母親は、ニヤニヤしながら、

「怒る元気があるなら、もう大丈夫だね。」

 と、呟いた後、

「食べたら、今日こそ学校行きなさいよ。」

 と、付け足すのだった。
 どうやら、昨日サボった事はバレていたようだ。

 その後、適当に身嗜みを整えて、家を出る。
 学校には、自転車で行くことにした。昨日の今日で電車を使う気にはなれなかった。

 学校に着くと、クラスメイト達が気遣ったような目を向けてくるのが鬱陶しかった。

 担任が教室に入ってきて僕をなにやら優しげな目で見ているのが気持ち悪かったので、窓の外に目線を向けて頬杖をつく。

 尾張さんのいない教室は、それでもいつもと同じように続いていた。

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