廉太郎ノオト書影おびあり

『廉太郎ノオト』(中央公論新社)のさらなるノオト⑲廉太郎さんの姉、利恵と作中の大ウソ

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 『廉太郎ノオト』はあくまで小説なので、いくつか大嘘を仕込んでいます。幸田幸さん(というか幸田一族)との関係についてはかなり脚色がありますし、羽織破落戸はあの時代ほぼみられなくなっているというのもここでお話しているとおりです。なぜ史実通りに描かないのか? それは、そこにこそ著者の願いや思いがあるからです。読者の皆様からすると不可解に見えるかもしれない改変にこそ、作家としての息遣いが潜んでいたりするのですねー。とまあそれはさておき。

 実は、お話を分かりやすくするため、またお話の構造をクリアにするために、廉太郎さんの家族回りに関する部分ではいろいろ嘘をついています。
 例えば、小学校当時、廉太郎さんは祖母のミチさんや、次姉とも同居していたというのがそれでしょう。登場人物が増えすぎて読者さんを混乱させないために登場させませんでした。また、祖母・ミチさんに関しては、死亡時期が長姉の利恵さんとほぼ同時だったという事情もあって、彼女を登場させてしまうとテーマがぼやけてしまうがために、あえて登場させませんでした。

 というか、実は利恵さん廻りでは相当嘘をつきまくりました。
 利恵さんが結核で死ぬのは史実の通りなのですが、実は廉太郎さん、利恵さんが死んだときには既に東京にいませんでした。史実では、祖母のミチ、そして利恵さんを遺して他のところに旅立っているのです。
 なぜこんなことをしたのか?
 既に本書を手に取ってくださった方には頷いていただけると思いますが、本書の理恵さんは廉太郎さんにとって重要な地位を占めています。良くも悪くも、廉太郎さんの未来を指し示す存在なのです。である以上、彼女の死に廉太郎さんを立ち会わせないと、物語における円環の輪が閉じないのです。

 もっと言うなら、利恵さんの遺品を焼くあのシーンは、結核で死にゆく人の運命を読者さんに明示するために必要だったんですね。そして、利恵さんの遺品を自らの手で焼く少年廉太郎さんの姿を描きたかったのです。

 もっとも、この作為が認められるかどうかはある意味受け取り手である読者さん次第です。こればかりは著者であるわたしも首を垂れ、審判を待つ以外にありません。

 歴史小説を書く時、常に覚悟はしているものですが――。

 首を垂れ、ひたすらに皆様の反応を待っている今日この頃です。
 そのためにも「廉太郎ノオト」、買ってね!

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