廉太郎ノオト書影おびあり

『廉太郎ノオト』(中央公論新社)のさらなるノオト⑳同じ時代を生きている人々へのひねくれた愛情

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 『廉太郎ノオト』で書きたかったものは沢山あるのですが、一番わたしが紙幅を割いたのは、黎明の時代を生きる人々の姿でした。
 人間はいついかなるときも内ゲバにエネルギーを割くものですが――、あえて本書ではそういった要素は削り、上を目指す人々のスクラムを描きました。
 実はこれ、わたしの心象風景そのものでもあります。

 わたしは現在七年目の作家です。ライバル作家さんたちと鎬を削りながら、ハードな椅子取り合戦(サバイバル的な意味で)と激しい椅子取り合戦(賞とか人気作家の地位的な意味で)を戦っています。けれど、口ではいろいろと申しますが、同じ場で戦っているだけの他の作家さんたちには恨みはありませんし、個人的なしこりはほとんどありません。
 むしろ、すごい作家たちと同じ時代を生きている、という心強さの方が大きいですし、みんなの力で新たな時代の扉を開いている感じがひしひしとするのです。

 『廉太郎ノオト』に漂う和気あいあいとした空気、そして、その空気の外からやってくる不協和音……。本作を思い起こしたときに気づかされるのは、もしかしてわたしは自分の観測している小説家の世界を投影させているのではないかということなのです。
 今、小説の世界、ことに文芸部門は総体として長い苦難の時代にあります。今、本に関わる人々は、これを一時的な落ちくぼみとするべく、皆でいろんな案を出して行動に移しています。わたしもまた、その業界の一員として微力ながら動き回っているところです。
 これから日本に新しいものを紹介し、根付かせようという黎明期の日本西洋音楽の世界とはずいぶん状況は違います。けれど、皆が素晴らしい作品を世に問い、ときには協力し合って本を売りに行こうとしている今の状況と、瀧廉太郎さんを中心とした人々の群像が織りなすスクラムに、相通じるものがあったのです。

 もしかすると本書は、同じ時代を生きる同業者や業界の皆さんに対するひねくれたラブレターなのかもしれません。
 ――間に合ってる? そりゃ失礼しました。

 さて、これにて、『廉太郎ノオトのさらなるノオト』は終了となります。今後は何か動きがあった際にご報告する形となりますが、とりあえず、これにていったん、『廉太郎ノオト』のプロモート活動は終了となります。
 『廉太郎ノオト』、なおも販売中ですのでなにとぞ!

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