オールウェイズマイノリティ〜どこまで行っても少数派〜

2021年3月20日
くも膜下出血により救急搬送。
即時緊急手術。
約50時間後、ICUで覚醒後
麻痺や意識混濁等の障害は見受けられず
同年4月19日、退院。
今に至る。
その時の記憶と記録。

第1話 脳の反乱

「無駄だ ここは元から楽しい地獄だ
生まれ落ちた時から 出口はないんだ」
星野源の「地獄でなぜ悪い」を聴きながら思い出している。
3月の土曜祝日のあの日の事を。

その日も早く目が覚めました。
何となく、頭が重かったので二度寝したけど
1時間も経たないで起き、手元に置いてた
コンビニで買ったタリーズの缶コーヒーを飲んでました。

具のない、チーズとケチャップだけの
ピザトーストを食べました。
朝食は食べないから食欲はないけど、
食パンの消費期限が切れるので。

録画したコロナ禍の高校生体育部員達の
群像ドキュメント番組を見て
その中の登場人物と関係の深い人にメッセージを書き
返信を頂いてすぐ、変な声が聞こえてきました。
声自体は良いんですが、抑揚に欠けた冷たい口調です。

「もういいだろう 楽になれ 
お前の悩みや不安は 私が解決してやる」

次に僕の脳が、僕の意志を離れて
脳自身が自我を持った様に暴れ出しました。
視界の先は天井ですが、やけにチカチカしてます。
学生の時に友人の部屋で見た
安っぽいプラネタリウムを思い出しました。

とにかく立たないと。立って歩けば少しは落ち着くはず。
ダメでした。歩くどころか立つ事すらできません。
腕も思った様に力が入りません。四肢を封じられた様です。
あ、これもうダメなヤツだ。チェックメイトだ。俺の生命が。

「人生にもう悔いはなかろう やるだけやった
お前もこの現実を嫌ってる だから私と行こうか」

吹き出す悪寒混じりの汗、あっという間にシャツは濡れ
身体がじわじわ冷えて行くにつれ、聞こえる声に答えました。

わかった。救急車呼ばせてくれ。この家で死にたくない。
「なぜだ 家の布団で死ぬのはそんなに嫌か」
この家を事故物件にできるか。
「お前もなかなか強情だな」
どうせ検死解剖されるんだ。
だったら病院に運ばれた方が手間省ける。
「いい心がけだ」
こう見えて合理主義者なんだよ俺は。

自分で救急車を呼び、隊員の皆さんが運びやすいところまで
仰向けのまま肘や膝、足首の可動域が
動かせる限りの力を使い
部屋の扉まで、尺取り虫の様に動き、
そして待ってた。
サイレンを。

外はパラパラと雨が降っていました。
救急車に乗せられ、酸素マスクを口に当てられ
ずっと可動ストレッチャーの上で仰向けになり
搬送される病院までゴトゴト揺られていました。

四肢に力は入りませんし、少々息苦しくもあります。
でも、口だけは動き、どうにか声も出てます。
人の声も、音も聞こえています。

津田ケンはいつ迎えに来るんだ?
雨降ってるから傘でも持ってくるのか?

津田ケンとは僕に話しかけてくる
棒読み口調のイケてる声した変な声の主です。
声優の津田健次郎の声に良く似ていたので
便宜上名付けてます。

病院に着いてCT、MRI撮って、採血されて
痛み止め打たれてカテーテル入れられて
どうせ保たない急患1人にここまでしてくれるなんて
医療従事者って大変だな、なんて思っていたら。

ものすごい吐き気に襲われました。
すいません。ちょっと吐かせて下さい。
胃の中にあった消費期限切れの食パンとチーズで作られた
ピザトーストが僕の喉を通って出て行きました。
人生最後に食ったのがこれじゃ、締まらないなぁ。
あと本当にすいません。朝食は取らないんですよ普段は。

手術室に送られました。
医師が簡潔に説明をしてくれています。
「頭皮を捲り、頭蓋骨を切開して処置をします。」
言うが早いかバリカンで側頭部と右前頭部の
髪を刈られました。
聴き慣れたグラインダーの音がしてます。

「お前、結構髪の毛薄くなったんだな」
おいそこの津田健次郎、最近気にしてるんだ。うっせぇわ。
「タカティン石井先生か嶋ちゃんに
死亡診断書書いてもらうはずだったのにな」
ライザップじゃないけど理想にコミットしないってのも
人生だよ津田ケンさんよぉ。

「じゃあ、待ってるからな。せめて良い夢みろよ。おやすみ」
僕の意識はそこで離れていきました。

続く、と思います。

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