小説 開運三浪生活 24/88「宅浪志望」
『竜馬がゆく』で歴史小説の面白さに目覚めた文生が、司馬遼太郎の次に手を着けたのが井上靖だった。『敦煌』『天平の甍』『風林火山』といった薄手の文庫本を、勉強そっちのけで次々に読み漁った。本はすべて書店か古本屋で購入した。自分が読む本は常に手元に置いておきたかったし、高校の図書室にはどうしても足が向かなかったからである。一年生の頃に二、三回図書室を覗いてみたが、黙々と自習する上級生たちで室内はいつも張り詰めており、文生はまったく気後れしてしまった。劣等生の自分にとって、およそ場違