自閉スペクトラム症当事者が「指示語(こそあど言葉)」を理解するためのアイディア

自閉スペクトラム症の人間は「指示語」(こそあど言葉)、つまり「これ」「そっち」「あの人」のような言葉の理解が困難だとよく言われます。私にとっても同様で、理解しづらい表現ではあるのですが、自分なりの工夫を編み出した結果、ある程度は理解ができるようになりました。「脳をフル回転させて、数少ない情報から言わんとすることを推測する」というやり方なので、脳が非常に消耗します。ですので健康で疲労が少ない状態でしか実行できませんが、日常会話が成立しやすくなりました。その工夫について書きます。

(注)この記事をよりわかりやすくしようと試みた記事がブログにあります。

日常会話における指示語の使われ方

日常会話において、指示語は
1.直前の単語を示す
2.慣用表現
3.その人が思い浮かべている物事を示す
という使われ方をしています。

指示語の使われ方1.直前の単語を示す

(例文)
「今朝、晩ごはんにシチューが食べたいって言ったでしょ。あれさあ、やっぱやめるわ」(あれ=「シチューが食べたい」)

あまりいい例文が思いつきませんが、このような感じで直近の発言で出てきたことを示す使い方です。

「それ」「あれ」なら物や事象(場合によっては人)、「そいつ」「あいつ」はだいたいにおいて人(場合によって物事)、「そこ」「あそこ」なら地名や位置や部位など、とおおまかに対応するものがあります。文章読解とだいたい同じなので、少し頭を使えばわかるという人もいるのではないかと思います。

指差しているもの、目線の先にあるものなどを示している場合もありますので、相手の様子を見てみるのもいいかもしれません。他の人の発言に関連している場合もあります。他の人が言った物事に関して「それさあ…」などとコメントするような場合ですね。

指示語の使われ方2.慣用表現

2の慣用表現は、「うまくアレする」のような表現のことです。「憎いあんちくしょうをアレする」「ハサミでアレする」「体に気をつけてアレする」のような表現は、なんのことかわからないと感じる人も多いのではないでしょうか。

私の個人的な解釈は、「アレする」という慣用表現があり、「あれという指示語の内容の行為をする」という意味ではない、というものです。具体的に何かを示すわけではない「あれ」が日常会話においては存在します。

はっきりと言いづらい行為の婉曲表現(遠回しな表現)である場合もありますので、文脈によるのですが、具体的な内容が無い指示語も存在するということを覚えていると、意味不明な指示語を深く追及せずに済みます。

指示語の使われ方3.その人が思い浮かべている物事を示す

(例文)
「昨日のあれ、どうなった?」
「あいつ、どこに行ったのかな」

これは最も理解しようのない使われ方であると思います。「この間のあれさあ」などと言われても、なんのことだ、という感想しか出てきません。しかしながら、それは実は自閉スペクトラム症でなくても同様で、一発で通じ合うような人たちはそうそういません(通じる場合「ツーカーの仲」などと言われます)。わからなかったとしても劣等感を感じる必要はありません。

ですので、唐突に指示語で発言が始まったときなどは「なんのことだよ」と言うのを耐えて、もう少し話を聞いてみるのが無難な対応です。相手も話が通じてなさそうだと思えばもう少し詳しく話そうとしてくれます。そのうちに厳密な表現がでてきて、なんのことかの特定ができる場合があります。もし自分なりに頭に浮かんだものがあれば、それが合っているか質問してみるのも良いでしょう(「〇〇のことで合っていますか?」など)。思い当たらない場合には「ごめん、なんのことだっけ…」というような「話が通じなくてごめんなさい」という姿勢で話の内容がわからないとアピールすると、さほど気分を害さずに教えてもらえる可能性があります。

理解する努力をしたいと考えるのであれば、もう少し推察をする必要があります。例えば「昨日のあれ、どうなった?」と聞かれた場合、発言者が状況を知りたくなるような何事かを自分が知っているはずです(昨日任された仕事や、自分が昨日取り組んでいたことなど)。もしくは、昨日大きく話題になって先行きが気になるようなニュースがあるのかもしれませんね。

「あいつ、どこに行ったのかな」であれば、発言者が行先を知りたくなるような人などがいるようですね。その場の状況(場所、時間帯など)も合わせて考えると、答えに近づくかもしれません。仕事中の話なら、休み時間でもないのに職場に戻ってこない同僚のことかもしれません。友人同士の数人グループで外出中のときだったら、はぐれてしまって行方の知れない人がいるのかもしれませんね。

このような感じで、唐突な指示語には「その人との間に最近あった出来事」を思い浮かべると答えがあるかもしれません(ないかもしれませんが)。その人が関心を持つ話題をもし知っていれば、ニュースなどと重ね合わせることで正解が出てくる場合もあります。ですが、そこまでできなくても大丈夫です。先の方にも書きましたが、自閉スペクトラム症でなくても通じない場合があるような話し方なのです。

指示語の理解は完璧でなくてもよい

指示語が示す内容は、完全に通じていて会話が成立している場合もありますが、雑談においては
「わからないが、わかったことにして適当に相槌を打っている」
「わからないが、わかるまで根気よく聞き役に徹している」
「わからないので、自分の思い浮かべたものと合っているか聞いてみる」
のような対応で会話が進んでいることがあります。

一方、完璧主義で生真面目な自閉スペクトラム症の人たちは、「あれって何?」「そこってどこのこと?」といちいち質問をして完璧な理解をしようとしがちです。会議など、情報の行き違いがないほうが良い場所ではそれでもいいのですが、雑談においてはそのような反応は好まれません。

というのも、定型発達者は雑談においてはさほど脳を使っていないらしいのです。「深く考えずに話している、深い意味のない会話」というのが雑談なのだそうです。雑談では指示語の内容が重要なのではなく、何か言いたいということが重要なので、指示語を追及するよりは「相槌を打ちながら話を聞く」というほうが無難な対応かと思います。よくわからない話を聞くという行為は非常にモヤモヤしますが、詰問調になって事を荒立てるよりは、「我慢して聞き役になる」というほうが、人間関係が不必要に悪化することを防ぎやすくなります。

この記事をもう少しわかりやすくしようと試みた記事がブログにあります。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?