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僕がそばにいることで、大切な友人は変わってしまったのかも知れない。

僕には高校生の時から仲良くしている友人がいる。

彼は自分の車を持っていて、毎月のように彼の運転で銭湯に行く。

車の中では、お互いの将来の夢とか、勤めている会社での事とか、同級生の話をしていた。

彼はすごく真面目で、優しくて、人の目を気にしがちで、少しだけ勇気のない。そんな男だった。

そんな彼がこの1年で神妙そうに伝えてきたことが3つある。

今年のはじめ、勤めていた会社を辞めたこと。

ずっと別れられなかった彼女に別れを告げたこと。

本当にやりたいことをやるために、
約一年間フリーターになること。

その報告を助手席で聞いた時、ぞわっと鳥肌が立ったことを覚えている。

僕の知る限り、彼はそんな思い切ったことができる人間ではなかった。

僕が、彼にどのくらいの影響を与えていたのかは全くわからないし、確認しようとも思わない。

確かなことは、長い間彼の友人をしているが、彼は今までで1番生き生きしていることだ。

今日は少しだけ、彼の話をしようと思う。

・・・

今から約10年前、彼と出会った。

進学した高校で同じクラスになって、同じサッカー部に入った。僕たちは華やかなサッカー部員というよりは、少しおとなしいサッカー部員だった。

所属していたサッカー部は、強豪校で実力者ばかりが集まる学校だった。部員は120人を超えていて、12軍まで存在するような環境だった。

3年生になると、僕は3~4軍。彼は2~3軍をうろついていた。チームは全国大会に出場したのだが、僕たちが試合に出場することは1度もなかった。でも、たまにトップチームに帯同したりする彼のことを、羨ましいと思うことがあった。

僕たちは大学生を経て、社会人になった。

僕は、クラウドファンディング会社で挑戦者のサポートをする仕事に就いた。彼は、サーバーエンジニアの仕事に就いた。

会社員になってから彼の運転で銭湯に行くようになったのだが、車の中で彼から発せられる会話は、後ろ向きなことが多かった。

「一緒に仕事するメンバーがさ、いくら言っても同じことでミスしてさ。昨日も呼び出されて尻拭いしたよ。何回教えてもだめでさ。」

「もう、いくら言ってもミスするし機嫌も悪くなるからさあ、最近は何も言わなくなったわ。」

僕も当時マネージャーをしていたから、うんうんと頷いたり、その人のことをまず知ってみたら?とか割と真剣にアドバイスをしたりしていた。

その他にも、彼女と別れられない話や、同級生と自分たちを比べたりした。お世辞にも彼は楽しく仕事をしているようには見えなかった。

彼とは真逆なことが多くて、僕はわりとポジティブな体質だ。だから仕事での楽しかった話とか、一緒のチームのメンバーが成長した話とか、今年のはじめに始めたnoteでの出来事をべらべらと話していた。

彼は、僕のことを楽しそうでいいね。とよく言っていた。

だから、話の終わりはいつも「そんなに嫌なら会社辞めて好きなことすればいいのに」だった。

・・・

僕たちが社会人になって2年が過ぎた頃、彼から車の中でこんな話をされた。

「おれさ、学校の先生になりたいかもって思ってるんだけどどう思う?」

いつもは運転しながらでも、チラチラと僕の目を見て話す彼だったが、このときは前だけを見つめて、僕の目を見てこなかった。

きっと、彼なりにとっても勇気を振り絞ってこの言葉を振り絞ったんだと思った。

彼は人の目を気にしがちで、特に誰かのはなしのネタにされるような行動は絶対にしない人間だった。

だから、彼からこんな言葉が出てくるなんて想像してなかった。

「お前がそんな事言うと思わなかったわ。いや、めっちゃいいと思うよ。多分、今の仕事しても楽しくないでしょ。僕なら学校の先生目指すかな」

彼は絶対にその選択をしないと思った。出来ないと思った。だからこそ、あまり考えずに本音をそのまま伝えてしまった。

・・・

それから半年か1年くらいが経過した。

いつものように、お互いの仕事が終わって真夜中に銭湯に向かっていた。

他の会話が思い出せない程に、衝撃的な言葉を彼は発した。

「おれ、再来月会社辞めることにしたわ」

彼は、週に3〜5回付き合いで行っていた飲み会を控え、教育系の資格を取るための通信学校の費用を貯金していたらしい。

自分のやりたいことを見つめ直した時に、高校生のときに数学を教えてくれた先生に行き着いて、先生になりたいと思ったらしいのだ。

「おれさ、なんとなく就職を決めてしまったから、本当にやりたいことを見つけられない生徒に、なにか伝えられるんじゃないかと思ってさ」

また、前だけを見てそう言った。

事実がどうこうの話ではない。

彼はこんな選択ができる人間ではなかった。会社を辞めてもう一度学校に通い直すとか、先生になるために1年間フリーターになるとか、彼の1番苦手なことだった。

友人に「お前、それ大丈夫なの?」「意識たかっ」って思われるようなことが、彼は本当に苦手なはずだった。

でも彼は本当に会社を辞めた。その後、ずっと別れを考えていた彼女にも別れも告げた。

「いい先生になるにはこれからどうしたらいいと思う?」

いつもの銭湯へ向かう道中で、確かそんなようなことを聞かれたことがあった。彼は本当の悩みごとがあると、前だけを見て素直に相談してくる。

「おれならだけど、確か高校の同じクラスに有名な予備校で社員してる◯◯っていたじゃん?おれだったら頼み込んで色々教えてもらいながらバイトさせてもらうかな。で、学校で1番の授業ができるようになって、子どもたちに圧倒的に信頼される先生になるかな。授業つまんない先生に俺なら進路なんか相談しないからね。あとは、高校のときの数学の○○先生に会いに行って、コツとかやっておいたほうがいいこと聞いてやってみるかな。あとは、noteとかに日記をまとめて、発信できる先生を目指すかな。目の前の生徒以外にもなにか影響与えられたら素敵だと思うし。」

「なるほどね〜」

彼はそういった。

彼は、同じクラスだった友人に会社を辞めて先生になるとか言えないはずだった。だからアルバイトを紹介してもらうとかは出来ないはずだった。

彼の持つブレーキの存在を知った気でいたから、彼にだけは安心して、いつもそのままの想いを伝えてしまう。

翌週、また彼と銭湯に行った。

彼は、予備校で働く同級生に、会社を辞めて学校の先生になることを伝えて、有名な学習塾でアルバイトすることを決めていた。

一週間でそんな行動ができる人間ではなかったのに。

・・・

最近、彼と銭湯に行くとずっと塾での授業の話になる。ついこの前まで会社での事とか、彼女と別れられない話をしていたのに。

そして次に銭湯に行くときにはもう、車の中での会話は授業の反省会なのだ。彼はあっという間に階段を駆け上がっていく。

「俺ってどういう授業が合うかな?なんか熱血って感じのは合わない気がしてさ」

と相談され、ストレングスファインダーというものを紹介する。自分の個性を知れば、自分の特性に合った授業のヒントがわかるかもよと伝えた。2000円くらいするから気が向いたらやり方教えてあげるよ。そう言って2時間ほどお風呂に浸かった。

お風呂からあがった深夜1時過ぎ。彼は僕のパソコンで130問近い質問を答えはじめていた。帰り道は、こんな授業がいいかも知れない。こんな先生像が向いてるかも知れないとずっと授業の話をした。

彼はいま、塾の教壇に立ちながら、通信学校の授業を受け、教育実習の授業を考えながら、アルバイトをしている。

彼はいつの間にか僕の知っている彼ではなくなってしまった。

大学生になってからつい最近まで、彼のことを羨ましいと思う感情は抱かなかった。でも高校生の時以来に、僕は彼のことが羨ましいと思っている。

・・・

僕は、彼を変えてしまったのかもしれないし、なにも変えていないのかもしれない。車の中での会話達が彼を変えてしまったのかもしれないし、全ては彼の中だけで変わっていったのかもしれない。

答えはわからないし、聞く気もない。

でももし、僕が彼の何かを変えたのだとしたら、それはきっとnoteに依るものが大きい。

彼が会社を辞める数ヶ月前、僕はnoteを書き始めた。僕から発する会話の多くはnoteによって生じた事象の数々だった。

noteのコンテストで入賞して大量のチャーハンをもらったこと。たくさんの尊敬する書き手や編集者が使うnoteで史上2番目に反応をもらう記事が書けたこと。noteを読んで涙を流してくれた人がいた事。頑張ろうと思えましたと伝えてくれる人がいたこと。noteが仕事に繋がったこと。小説を書こうと決めたこと。たくさんの友達ができたこと。書くことが楽しいと思えるようになったこと。

心を許している友人だから、嬉しいと思ったことはオブラートに包まずに伝えている。

彼はいつもすげぇじゃんと褒めてくれる。

#noteでよかったこと を考えているとき、noteのおかげでそばにいる大切な友人の人生に、少しだけ良い影響を与えられたかもしれないなぁと思った。

友人からしたら、いやいや自分で決めたことだし違う違う。と言われるかも知れない。

でも、noteから生じた事象の1つ1つが、少しづつ僕自身を変え、行動や言動を変えていることは確かな事実だ。だから間接的にnoteが彼に影響を及ぼしたのかもしれないと思う。

noteでよかったこと。

正直、たくさんある。いまはもうnoteがなかった過去も、noteがない未来のことも考えられない。

たくさんのnoteでよかったことを掻き分けて、最深部で僕が見つけたもの。

それは「オーラ」だった。

noteを積み重ねていくと、やがて自分自身にオーラが宿ると思う。これはTwitterやFacebook、その他のブログサービスで得られるものとは違う。利益やPVに囚われないありのままの文章の積み重ねは、やがて自分だけの美しいオーラになる。

1年間noteを続けて、以前の自分には無かったオーラを少しだけ纏えた気がする。その状態で人と話したり、文章を書くことで、伝えられる事やできることが増えた。

noteはインターネット上のサービスだ。でも、noteを続けて手に入るのはフォローワーという空虚な数字やSNS上の強さだけではない。noteで得たものは現実世界の自分を少しだけ強くしてくれるんだ。

・・・

次に彼と会うとき、教育実習が終わっているらしい。きっと彼は楽しそうにその事を語ってくるだろう。もっと良い授業をするためにどうしたらいいかと相談してくるだろう。

それに負けないように僕もnoteを書き続けようと思う。

全ては僕の勘違いかもしれないけれど。

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