彼らがたどり着いた新しい世界の法則について

僕らが生きる20XX年は、大量の情報で溢れていた。情報の数は、地球上に存在する酸素の数とほとんど同じだと、どこかのアナリストがつぶやいていた。

僕らが生きるための手段は、有益な情報を発信することで成り立っていた。情報に見合った代価のお金を得る。そうやって暮らしていた。

情報を発信することに疲弊しても、それを止めることは許されなかった。荒廃した世界では、情報を錬成する以外の仕事は全て失われていたからだ。

衣食住の全てに関わる仕事は、特殊なライセンスを持ったごく少数の会社が世襲制で請負い、製造はすべてロボットが行っていた。洋服も食物も住居もすべてが汚染されていた。そのため人が携わることは危険すぎて、ずいぶん昔に禁じられたのだった。

職業が情報発信しかない世界では、次第に有益な情報を求めて争いが頻発するようになった。公表された情報に、罵詈雑言を浴びせ、阻害しあうことが日常茶飯事になっていった。

・・・

僕らの生きる世界にはこんな原則があった。

欲しいものは同等の代価を支払うことで手にすることができる。対価を払わない限り何も手にすることはできない。

僕らは欲しいものを手にするために、必死に情報を探し、発信することを繰り返した。これが世界の真実だと信じていた。

僕たちは誰もやらないことを探しては必死に行った。そうやって情報を紡いでいった。

もしそれが有益な情報であっても、個人の偏った思想や気に食わない表現が少しでもあれば、「おい、ド三流!」という言葉が浴びせられた。

こんな世界に嫌気が差しても、生きるためにはこの作業を止めることは出来なかった。生きる術がなかったこともあるが、無駄に発達した言葉が僕らを後押しした。

「生きのびる可能性があるのにあえて死ぬ方を選ぶなんてバカのする事だ」

僕らは言葉に毒されては、言葉に救われ、不安定な日々を生きていた。

決してこの作業に飽きないように麻薬のように自分自身を熱中させた。

「何かに一生懸命になれるって事はそれ自体が才能だ」

僕たちを苦しめるのは大概にして言葉なのに、その言葉に励まされながら生きていた。

・・・

ある日、ビニール袋に口をつけて呼吸することで、酸素を二酸化炭素に変え、それを繰り返し、ビニール袋の空気で人間は何度呼吸を繰り返すことができるかについて、笑顔で検証したある少年の動画が大きな代価を得た。

「くだらない」という批判も相次いだが、16回から17回を行うまでの彼の顔が、批判の数以上に評価を得て、世間のツボにハマったようだった。トリガーになったのは、たった一人のスーパースターの「So Cool😂」という反応だった。

こんな情報で安泰を手に入れる人間が生まれるなんて。

そもそも情報を発信することにどんな意味があるのだろうか?孤独な夜に思い老ける内容は幼い頃からずっと変わることはなかった。

命を張って情報を紡ぐ者も入れば、溢れ出る好奇心のままに情報発信をし、ヒーローに上り詰める者もいた。ヒーローに上り詰めた者の不祥事を発信して富を築いた者もいた。

何を発信することが正義なのか?僕たちは何のために発信しているのか?生きるための義務なのに、その答えをだれも知らなかった。

・・・

ある朝目覚めると、僕たちのライフラインであるインターネットに接続することができなくなっていた。情報を司るコントロールセンターでテロが起きたらしい。

13:00。情報が発信できないことで、人々が退屈を感じはじめたころ、タイムラインに2人の兄弟が写ったリアルタイム中継だけが映された。テロはたった2人の兄弟に行われたらしい。

僕たちは、この兄弟にどこか見覚えがあった。

・・・

遡ること5年。いくつものフェイク動画を作って大金を稼ごうとした兄弟がいた。

フェイクはすぐに暴かれ、彼らは厳しく大々的に批判された。

兄は投げつけられた汚染された石を受けて、右足と左腕が紫色に染まっていて使い物にならなくなってしまった。

弟は強いバッシングによって、耳が聞こえなくなり、心を閉ざしてしまった。

やがてこの兄弟は「10歳でフェイク動画を作り続けた悪魔の兄弟」というキャッチーなキーワードと共に世間に認知されていった。

・・・

「僕たちは5年前、フェイク動画を作って罰せられた兄弟だ。」

兄が話はじめた。

「僕たちがこんなことをする理由は2つだ。

1つは、僕たちがフェイク動画を作ったのは本当の事ということだ。僕たちの身の回りの人間はだれも伝えなかったが、大病を患った母を救うために僕たちは危険と知りながら情報発信をしたんだ。母を難病から救うためには同等の代価が必要だったしそれしかなかったんだ。でももう母は死んでしまった。

もう一つ、僕たちが伝えたいことは、僕らが守り続けていることは正しいのか?ということだ。

母を失った僕たちは、クソみたいなこの世界を恨み続けた。

一体、僕たちは何のために情報を発信してるんだ?

情報が気に食わないと罵詈雑言を浴びせて一体何になるんだ?

この未来に幸せはあるのか?

欲しいものは同等の代価を支払うことでしか手にすることができないのか?対価を払わない限り何も手にすることはできないのか?

そんなこと、ないんじゃないか?

だって僕たちは欲しい情報を、無料で手に入れているじゃないか?何の代価も払わずに情報を得ているじゃないか!

僕たちは新しい法則を見つけたんだ。

「10もらったら自分の1を上乗せして、11にして次の人へ渡す。小さいけど、これが僕らがたどり着いた新しい世界の法則だ」

情報に罵詈雑言を浴びせる必要なんか、きっとない。情報に自分が持っている1を加えればいいじゃないか?気に入らない表現があるならば、気に入るように修正して発信すればいいじゃないか?間違っている情報は、正しい情報で正せばいいじゃないか?すげー情報にはとびっきりのすげーを上乗せしたらいいんじゃないか?

何かを生むために同等の何かを犠牲にしているかぎり何も生まないことに、いい加減僕たちは気がついているだろう?僕たちを幸せにするのは引き算じゃない!小さな足し算じゃないか!?

もし、僕たちが大切にしてきたものを捨てることで、この法則の証明になるのなら。未来が変わるんなら。こんなものいらねーよ!

そういって兄弟は、この時代を生きるために必須であるデバイスを渾身の力を込めて遠くに放り投げた。

・・・

彼らの中継が終わるとインターネットは息を吹き返した。

同時に彼ら兄弟に対する罵詈雑言で溢れていた。

しかし、批判に対して少しづつ変化が起き始めた。

確かにインターネットをジャックして中継することは良くなかったと思う。でも彼らの言う足し算の法則はいいなと思った。

そうやって、罵詈雑言は誰かの1を足した情報になっていった。

そのトリガーになったのは、たった一人のスーパースターの「So Cool😂」という反応によるものだった。

次第に情報は、誰かに何かが足され、大きくなり、やがて人類が到達したことのない新しい気付きへの足がかりになっていった。僕たちの毎日は高速でそれが行われるようになった。

いつの間にか僕らの毎日に蔓延っていた争いは消え、荒廃した世界は輝きを取り戻していた。文明が発達し衣食住の職業の危険性も限りなく小さくなり、僕たちは情報発信に頼らない生活を取り戻したのだった。

・・・

そして20XX年、人類史上はじめての出来事が起きた。

新しい年号に彼ら兄弟の名前である「エルリック’S」が掲げられることになった。そして、この意思決定を行った総理大臣の口癖は「So cool😂」であった。

<完>

・・・

非常に拙い文章ですが、初めてフィクションを書いてみました。お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、鋼の錬金術師という漫画をイメージして文章を書いてみました。所々に出てくる言葉も、作中の言葉を使用しています。

鋼の錬金術師は、等価交換という原則に従って物語が進んでいきます。何かを得るためには同等の何かを払わなければならない。そう信じていた主人公ですが、物語の最後には、等価交換の法則を否定する新しい法則として「10もらったら自分の1を上乗せして、11にして次の人に渡す。小さいけど僕たちがたどり着いた等価交換を否定する新しい法則です」という言葉を残し、新たな旅に出るところで物語は終わります。

僕が小学生か中学生の頃、たしか土曜日の夕方18時から鋼の錬金術師が放送されていました。

当時の僕には内容が難しく、ラスボスを倒して、弟の体も取り戻してハッピーエンドとしか理解できていませんでした。

しかし、鋼の錬金術師という漫画を通じて作者が伝えたかったことって何だたんだろう?急に思い立って最終巻を読み直すと、僕は何も理解してなかったんだなと思って、自分なりにできる1を足してフィクションという形で表現をしてみました。

幼少期の僕はきっと、退屈な毎日という時間を埋めるために、漫画や音楽を利用していた節が少なからずあって、作り手が本当に伝えたいことなんかなんにもわかっていなかったのかもしれません。むしろ大人になった今も、真意を理解できていないのかもしれません。

だから少しずつ好きだったものを見直して、本当に好きなものに変えていきたいなあと思いました。

鋼の錬金術師の荒川先生が何を伝えたかったのか?それは荒川先生にしかわからないし、読者によって受け取り方は自由なのかもしれません。あくまで個人の見解によるものとしてお読みいただけたら幸いでござます。

※この物語はフィクションです。

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うすい よしき

肩書:READYFORマネージャー/Voicyジャーナル編集長/25歳 エモい感じの文章を夜な夜なゆっくり綴っています。

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