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「ドリンクバー」の歴史を調べた

画像は先日見つけたファミレスの広告的なもの。「ジェラート」にまで「バー」の時代かー!と思って調べるとアメリカにも店名としてはいくつかある模様。

この日本語の「バー」って「セルフサービスでのおかわり自由」を意味すると思いますが,アメリカのGelato Barにそういう意味があるのかは知りません(たぶんない)。

ところで日本でドリンクバーはいつ誕生し,広まったんでしょう?ウィキペディアには次のように載っています。

1987年にショッピングセンターのニチイに出店しているハニーという店の責任者である西田英隆が、コカ・コーラとの話し合いで始めた。1992年、すかいらーくの子会社グリーンテーブルが「ガスト小平店」のプロトタイプ店舗を作り、低価格路線のメニュー、ドリンクバーの設置を行いオープンした所大ヒットとなり、バブル後の消費環不況で低迷していたすかいらーくは翌年ガストへの大規模な転換を行った。

80年代後半に始まり,92年にガストで導入し大ヒットとありますが,これには出典がありません。そこで調べてみました。

かつていろんなドリンクバーがあった

ざっくりNDL Ngram Viewerを見てみましょう。

ウィキペディアに書いている1987年ごろ「ドリンクバー」は登場しています。たしかに新聞記事を調べてみると,1989年の記事に同じ仕組みのものを「オール・ユー・キャン・ドリンク」と呼んで設置したことが書かれていました。

日本のファーストフードでは初の飲み物を何杯でもおかわりできるドリンクバー「オール・ユー・キャン・ドリンク」を設置した

「フレンドリーまず大阪・箕面に、ハンバーガー店展開――4年間で30店に。」
『日経流通新聞』(1989/05/23)13ページ

しかし,これより前に今の「セルフ・おかわり自由」という意味のドリンクバーは見つかりません。

実はそれ以前の「ドリンクバー」は別のもので,いわゆる飲み屋の「バー」のようなものとして使われていました。

海岸は二段式になっており,上段は高台(こうだい)の平地で遊園地となっており,自動車のパークされたるもの数千台道路の左右に並んでいる,カフエーや,いろんなドリンクバーが露店式に軒を並べて賑やかな光景だ。(注:表記を改めている)

外山与治郎(1932)『世界の古物市場と珍商売を尋ねて』

この使い方は1980年にも見られます。

"カフエー"の名は,コーヒー(カフイ)から転じたもので,コーヒー専門店としては明治21年に東京上野で開店した"可否茶館”が珈琲店(今日の喫茶店)の最初である。これがカフエーとなり,美人女給をおき,ビールーや西洋酒類を飲ませる店を生んだが,日本で最初のカフエーは,明治44年東京橋にできた"カフエー。プランタン"といわれている。然し大正初期までは,このようなカフエーは殆どなく,ドリンク・バーやビヤホールの名で開店している。

咲山恭三(1980)『博多中洲ものがたり 後編』

このように,今の意味の「ドリンクバー」という言葉は1990年以前だとほぼ登場しません。

それでは1980年代後半に見られる山はなにか?LA internationalという雑誌の1990年6月号にはこう書かれています。

最近ドラッグストアなどに,いわゆるドリンクバーが設けられ,若い女性の人気を呼んでいるが,「チョコラBBドリンク」もまさにこのブームをとらえた格好。

(1990-6)『LA international 』27(9)(329)

「いわゆる」とあることから「ドリンクバー」という言葉はあるけれど,見ていても少なくとも今の意味ではないことが窺われます。この「いわゆる」というのはこの時代に「健康ドリンクバー」というものがあったようで,それを指していそうです。

つまり,1990年頃まではドリンクバーで指していたものは別のものだったというわけです。

ようやく登場

しかしそんな中『産業動向』1993年9月号にガストのことが登場しました。

たとえば,おかわり自由の「ホットドリンクバー」は,180円で12種類のホットドリンク[…]を自在に楽しめるというものである。

「外食 新業態で低迷打破へ」『産業動向』1993-9

文脈もたしかにバブル崩壊で高価格帯は苦戦な中で安いガストは人気というのが読み取れますし,ガスト1号店が92年3月開店というのも載っているので,それなりに正しそうです。

また,この後出てくる「ドリンクバー」はことごとく我々がよく知るドリンクバーです。

つまり,NDL Ngram Viewerの結果は1993年を境に別のものを指しているいると考えた方がいいわけです。

バーはどこから?

最後に「バー」の「セルフサービス・おかわり自由」というのはどこから来たのでしょうか。知らなかったんですが,「サラダバー」は英語にもあるんですね。

日本語でも「サラダバー」の方がドリンクバーよりちょっと早く見つかります。

ランチタイム(午前11時30分~午後2時30分)は、690円の日替わりランチから。 サラダやフルーツを自由に取り分けられるサラダバーが、サラリーマンやOLに人気がある。 月曜定休、夜は午後9時30分まで。

「美味小家(うまごや) シェフ自ら買い出し(味な味) 東京」
『朝日新聞』(1988/09/02)

あまり私にはなじみがなかったのでちょっと驚きました。


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