キンカクとギンカク、~ニンジャスレイヤーにおける精神と肉体とは~

Twitterにたまに呟いている内容がなんとなくまとまってきたので一旦整理したいと思う。


ニンジャスレイヤーという作品はサイバーパンクニンジャSFであると自称しているが、サイバーパンクにおいては精神と肉体の関係が度々重要になる。

その際、果たして「精神」「肉体」とは何か、というのは大抵自明のものとして扱われてしまうが、そこを極力演繹的に導き出したものがキンカクとギンカクと思われる。

まあこれだけで終わってもいいのだけれど、もう少し踏み込んで、キンカク、ギンカクおよびニンジャスレイヤーの世界というものがどういう基本法則に従って動いているかを考えてみたいと思う。

1.キンカク、ギンカクは情報を解釈、単純化する

キンカク、ギンカクやオイランマインド等の情報集積体(便宜的にコトダマ天体と呼称する)は周囲の情報を吸収し、自己を拡大しようとする。これ自体は様々な例を見るに間違いないだろう。そしてキンカク、ギンカク自体は中身のわからない「箱」であり、内部にどのような情報が含まれていようと、外部からは単一のものとして見えてしまう。これが「単純化」である。しばらくは基本ルールに拒絶と共感、カラテとジツが存在していると考えていたが、おそらくそれすら根底にあるわけではなく、ギンカクへの引力がキンカクからみて「反発力」に見えているだけなのだと考えられる。

何故そう考えられるかというと、カラテ、反発力がギンカクから来るものだとすると、そもそもカラテの源泉がギンカクという情報集積体として存在するのが矛盾することになってしまう、極論を言ってしまうとモータルやナラク・ニンジャが誕生した途端(あるいは誕生せずに)雲散霧消、爆発四散してしまうはずだからである。

おそらくこれがほぼ唯一の基本法則であり、それらの相互作用によってニンジャを含むニンジャスレイヤーの世界が構成されているのではないだろうか。

2.自己と他者としてのキンカクとギンカク

キンカク、キンカクは情報を解釈し単純化する存在と述べたが、じゃあ「情報」「解釈」とは一体なんなのだろう。自分は情報科学の専門家ではないのでウカツなことは言えないのだが、まず観測者と観測対象がなければ情報も存在し得ない。そして観測対象の中から「情報」を取り出し、「ノイズ」を切り分ける行為こそが「解釈」と呼べるだろう。

つまり観測者の内部構造と観測対象と何らかの相関が「情報」であり、観測対象から情報とノイズを分離することが「解釈」と呼べるだろう。だから自己と他者の区別が無ければ情報は存在しない。そして観測対象、他者自体も観測者に対して解釈を行うことはあり得る。(キンカクから見た場合に)解釈を返してくる観測対象、作中用語で言えばPingを返してくる他者、それがギンカクと言えるのでは無いか。そしてギンカクからすれば何を情報としノイズとするか、という解釈はキンカクとは異なるのである。そういった二者の異なる解釈の間で浮かんでいるのが忍殺の世界であり、コトダマ空間、物理空間なのだろう。では具体的にどのような物が両者の間で情報、ノイズとして扱われているのかを考えてみたい。

3.肉体≒物理空間≒ギンカク、精神≒コトダマ空間≒キンカク

まず、作中においてキンカク・テンプルにはニンジャソウルが、ギンカク・テンプルにはモータルソウルが収容されている、と述べられている。これらの「ソウル」とはこれまでの考察によれば単純化し、ノイズを削ぎ落とした情報のことである。そして、キンカク内のニンジャソウルとモータルソウルには相関が無い、両者にとって予測不能であり理不尽なノイズであり、だからこそニンジャソウル憑依は「ランダム」に起こるのだ。

キンカク、ギンカクは相互にとってのノイズであり、情報の取得、コミュニケーションを阻害するのだが、(キンカクから見た場合の)阻害要因とはカラテであり、肉体の差であり物理空間の距離である。

これらは全てギンカクによって生じるものなのではないか。つまり、モータルの肉体のみならず、物理空間そのものがギンカクによって定義されているのではないか、と考えられるのだ。コトダマ空間戦闘において、タイピング速度が速いこと、回線が太いこと、距離が近いことが重要な要素となっているが、これらは別の要素なのでは無くて同一の物なのではないだろうか。通信のノイズを廃する、という点において通信速度を上げること、高品質の通信網を用意すること、距離を近づけることは同義であり、その極端な例がポータルなのではないだろうか。

また、キンカクに収容されている情報にはおそらく物理空間座標は記載されていない。だからこそどこにいてもニンジャソウルはランダムに憑依するし、逆にギンカクの「角」が物理座標として存在しているのだろう。

結論としては、キンカクにはコトダマ空間の情報(コトダマ)が、ギンカクには物理空間の情報(物理座標)が記載されてるのではないかと考えられるのだ。

4. ギンカクと時間の矢、熱力学第二法則

空間座標自体がギンカクにより定義された情報である、と述べたが、では時間情報はどうなのだろう。

そもそも時間とは何か。熱力学においては時間経過により必ずエントロピーが増大し、情報が失われるとされている。これこそが先ほど触れたノイズと情報に関連した事象であり、ギンカクが介入することでキンカクの情報が劣化すること≒時間なのではないか。

熱力学第二法則において「熱化」してしまった物は情報が失われている、とされている。しかし少なくとも忍殺世界においてはこれは正しくはない。ギンカクに近づき、相関を得てしまった状態こそが「熱」であり、キンカクから見た「無意味」なのだ。

忍殺世界の物理法則としては意味と無意味、ひいては精神と肉体、ニンジャとモータルの違いは視点の問題であり、等価な存在なのだ。

地球がギンカクの表面に張り付いているために、物理空間においてはギンカクの引力が勝り、通常では熱力学第二法則が守られ、時間は過去から未来へ一方通行で流れるようになっている。しかしこれには例外が存在する。ご存知、ニンジャソウル憑依である。

5.ニンジャソウル憑依

そもそもニンジャソウル憑依とは何か。言ってしまえば人間、モータルが突然、不連続的に強くなる現象、である。

通常の修行を経てモータルがリアルニンジャになるプロセスにおいては、最終的にどれだけ強大な力を得ることになろうとも、時間の連続性は保たれている。ではなぜニンジャソウル憑依という時間の連続性を無視した現象が起こるのか。それは当然、ニンジャソウルがキンカクの中に保存されており、それがモータルの肉体に移動したからだ。

だったら時間の連続性は保たれてるじゃないか、と思うだろうが、そもそも「キンカクの中身が物理空間に降りてくる」という事態自体が通常あり得ないことなのだ。キンカクは中身がわからない、決して開かない箱だからこそ時間の連続性が保たれているのだ。これはギンカクにおいても同様であり、通常中身のソウルが物理空間に出てくることなどあり得ない。ではなぜそんなことが起こったか。これはイチロー老人のナラク・ニンジャ憑依がヒントになると思われるのだが、確かな事は分からない。一つありそうなのは、(ニンジャではない)ギンカクの中身である「ナラク」をイチロー老人が(キンカク由来の)「ニンジャ」であると勘違いしたからこそ「天と地が逆転」してニンジャソウル憑依が起きたのでは、という事である。天と地の逆転、「ヴァーティゴ」はしばしば作中で触れられる現象であり鍵となっているのは確かである。

あるいは、キンカクとギンカクの間の力関係、物理空間とコトダマ空間の差異そのものが揺れた結果として、熱力学第二法則そのものが揺らいでいるという先触れがニンジャソウル憑依なのかもしれない。そして物理とコトダマの差異を揺らす手段として一つ挙げられるのが第3の存在、オイランマインドである。


6.第三の天体、オイランマインド

オイランマインドとはキンカクともギンカクとも異なる、おそらくはUNIXとインターネットの発明によって誕生した類似の情報集積体、コトダマ天体である。これはキンカク、ギンカクよりは小型であり、それらから独立して周囲に対して「解釈」を行なっている。Y2K以降にニンジャソウル憑依が急増したのもおそらくはこれが原因で、あたかも太陽と地球の間に浮かぶ月のように、両者を覆い隠したり、キンカクからソウルを引き寄せたりする事で操作しているのだ。

(実のところ、コトダマ天体はオイランマインドだけではなく、類似の物が過去にも存在したことが示されている。その一つはキョート城である。)

これらのコトダマ天体の行く末が4部以降の忍殺世界の運命を決定するであろう事は間違いないだろう。

この他にも、イチロー老人の接触した「ナラク」の正体とかカツ・ワンソーとサツガイの関係とか言いたい事は色々あるのだが、長くなりすぎたのでひとまず今回はここまでとしたい。

スシッ!スシヲ、クダサイ!