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オーシャンズ19(もしくは中華街でおかゆを食べたという記憶録)


それは牡蠣を食べている最中のことだった。

「そういえば先週るつたさんと会った時に話題になったんですけど」
先週、るつたさんとお会いしたときも牡蠣を食べたと言っていた冴木さんは
その時もオイスターバーで牡蠣のコースを食べながら私へ話し始めた。
「中華街の高級なおかゆって知ってます?人数が集まらないと食べられないやつなんですけど」
「あー、「アレ」ですか」
私も牡蠣を堪能しながら頷く。

デイリーポータルZで初めて読み、Twitterでも時折レポートが回ってくる
南粤美食(なんえつびしょく)さんの高級おかゆである。
孤高のグルメでお店が紹介されたこともある大人気店だが、
私自身一人でふらっと中華街に行ったときに一時間並んでエビワンタン麺を食してあまりの旨さにとんでもない衝撃を受けた記憶がある。
だがしかし、このおかゆは16人以上集まらないと食べられないという友達いない人間には一番つらいハードルが立ちはだかっているのだが、
JJGに声を掛けていて……という話を聞いてそれは達成できるのでは?と思っていたところで
「おだまきさんもいかがですか」とご提案いただき、16人も集められない友達いねーぜな私には渡りに船、蜘蛛の糸。
「ぜひ!!!!」と力説して冴木さんに参加の意思を示すと
「じゃあるつたさんに報告しておきますね……あれっるつたさんもう10人ぐらい集めてる!」
「コミュ力高くねえッスか」
オイスターバーの片隅で、我々は始まったばかりのこの壮大な企画が着々と進んでいることを実感しながら、まだ見ぬ美味なる中華に思いをはせていたのであった。

いざ行かん、中華街。

るつたさんからの毎回かっちりした定期連絡を確認し、結果19人になったという報告に驚きながらいよいよ前日を迎え(私はその日もJJGとオフ会をしていたのだが)(さいむらさん、瑠璃猫さんとベトナム料理屋さんで薬膳を食べてスタバでフラペ飲んでましたありがとうございます)夜のタイムラインはJJGが幾人かそわそわとした様子を見せていた。
ネイルを塗るかどうか、洋服はどうする、緊張して手汗が止まらない……。
さすがに大人数のJJGに会う×すごいおかゆが食べられるという相乗効果は半端なく、多くの百戦錬磨の大人女性たちが戸惑っている様はどこか愛おしく
みんな同じ緊張を味わっているんだな……と嬉しさを覚えながら私も嬉々として洋服を選び天候を気にしながら靴を選び、ネイルを塗り替えどきどきとしながら布団に入りつつバナナマンのバナナムーンGOLDを聞いていたはずなのだが、週末の疲れや薬膳鍋の効果か思ったよりあっという間に寝落ちてしまったのであった。

思ったより早く目が覚めたのでなるべく冷静になれるように朝ご飯を作る。
大根をかつらむきにして千六本にしたら油揚げと一緒にお味噌汁、
細かく刻んだネギを入れた甘辛い卵焼き、
炊けたご飯の上には配偶者が好きで買ってきた筋子。
のっそりと起きてきた配偶者は「ありがとうねえ」と言いながら細々とした乳製品の準備だったりを整えてくれてあっという間に食卓の場が完成する。
配偶者は私よりも少し早く家を出て、鎌倉まで好きな作家の記念館を見に行くらしい。なんでも年に数回しか開かないらしく今日がそのチャンスだという。
「鎌倉混雑してるだろうから気をつけてね」
「あなたも、中華街の混雑はすごいから気をつけて」

私が「あなたは16人もお友達を集められないだろうけれど私はコミュニティのおかげでおかゆを食べに行けるんだからね」
と得意げに言っているのを「きいぃ」と歯噛みしているはずなのに優しいものである。
切らしたから買ってきてと頼まれていた赤花椒と緑花椒だけじゃなく何かお土産になりそうな物があったら買っていってやろうと心に決めつつ、土曜の朝の情報番組を見ながら箸を進めていた。

二人ともまだまだ時間に余裕があったので録画したバラエティ番組を見た後で配偶者も出かけ、私もラジオを聞きながらメイクをし終える頃にもう一度電車の時間を調べてみると、どうやら私の乗る路線が遅延をしているらしい。買い物もあるし余裕を持たせた時間にして良かったと安堵してメイクの仕上げにかかり諸々の準備(主にアクセサリー)を終えると更に一本余裕を持たせようと早めに家を出る。
ーーまあそんなときに限って、電車遅延はもう終わっていて予定通りに運行しているし、すいすいと走っているもので。若干心配性なところが出るときだけは上手くいくものだと痛感する。

かくして、私は電車に揺られて中華街へと到着するのだった。

雑踏、行列、19人の「どこかミステリアスでファッショナブルな」女達。

到着した中華街の門を見ながらぶら下がっている横断幕を見る。
「カンフーシューズ飛ばし世界大会開催!」
かんふーしゅーず、とばし、せかいたいかい、かいさい……。
初っぱなから中華街の謎イベントにあっけにとられながら横断歩道を渡る。
昼過ぎの中華街は人であふれかえっていて、メインルートはそれはもうすごい人だかりだった。
私が配偶者から頼まれていた買い物は少し遠回りをすれば混んだルートを通らずに目的の店まで行けるので安堵しながら目線の先で店の場所を再確認してから買い物に向かう。
集合の時間を考えると目的の買い物も早々に終わらせなければと少し脚を急がせて店まで向かってさっと買い物を終わらせて元の道に戻って店へと向かう。
集合の場所にはすでに幾人かが集まっていてその集団はお会いしたかどうかはともかくぱっと見でJJGだとわかるこだわりのファッションが伝わってくるメンバーばかり。
るつたさんが用意してくれた名札のおかげですぐに顔と名前が一致してあっという間に会話が盛り上がる。
徐々に集まってくるメンバーも各々ファッショナブルな格好だが共通点があったり統一性があるわけでもなくかえって「この集団は何の集団だ?」と思わせるねと笑う。(とりあえず「別々のアパレルショップが入っているファッションビルの本社研修前の集合」という表現でおちついた)

おかゆという狂乱の宴、大いなる山への挑戦。

予定よりも少し遅れて店内へ案内されて階段を上る。
二つに分かれた円卓から少し離れたテーブルにおかゆの入った鍋が二つ並んでいるのを確認して慌てて席に着く。
荷物を整理し飲み物の注文では青島ビールを勧められたが私自身があまりお酒が得意ではないこと、あと全員が「(ビール飲んだら炭酸でおなかが膨れておかゆどころではなくなる……)」と察していたのかウーロン茶でまとめて乾杯をしたところで前菜の鶏肉料理にかぶりついている間にお店のお姉さんが具材を見せにやってくる。

具材たちその1

えび、あわび、ほたて、名古屋コーチン、肉団子、魚団子

具材たちその2

A5ランクの牛肉、いか、センマイ、しいたけ、あさり、かぼちゃ、

具材たちその3、そして完成したおかゆ

だいこん、山芋が出汁をとるための食材としてほぼ重湯のようになっているおかゆの中で一品ずつ火を通されていく。
「全部の食材がいつも買ってる奴と全然違う」「しいたけがパンみたい」「いかってこんなに柔らかかったでしたっけ?」「牛肉がでかすぎる!!」「箸上げだー!」「美味しすぎる。何より一番これを食べて欲しいのはあきやさん」「あきやさんにも食べて欲しかった」「なんか偲んでない?」「あきやさんは今日も明日も元気にお教室ですよ!」
Twitterのレポートで思わずちいかわのような反応になってしまったということも聞いていたが我々ももれなくちいかわになっていた。
「こんな美味しいもの食べながら難しい話なんて出来ないですよね」と、時折具材の到着に生まれた空白で身体を動かしながら、果たしてこの具材ラッシュはどこまで続くのかと不安を覚えている間に最後、おかゆに投入される干し貝柱のほぐし身と揚げパンが出て来たことで全員がホッとした空気に包まれた。
「「もう八合目まで来た」」という同意で残りのおかゆを食べるための元気がもくもくと湧いてくる。
さすがに、一人数切れずつとはいえ沢山の具材を食べるとおなかも満ちてくる物で、どこか不安げな顔をしていた人もほっとしたようにおかゆを待っていた。

最後に、揚げパンを載せたとろりとしたおかゆは米粒の形が一切無く、出汁が出切った食材の色が混ざりなんとも言えない表情をしている。
だが一口食べると過去に煮込まれた具材の味がはっきりと際立ってくる。
あの時のエビの味、あさりの味、野菜の甘み……。
「なんか……大ボス戦で今まで倒してきた各ダンジョンのボス達が現われてくるみたいな……」
という身も蓋もない感想を呟きながらレンゲですくったおかゆをあっという間に平らげた私は満足に包まれていた。
周囲を見れば他のガールズ達も同じように満足げに微笑んでいる。
美味しいものがあれば平和になり、仲良くなれるということを痛感する瞬間だった。

最後、家のお土産用として注文したちまきを貰い、おかゆの支度をずっとしてくれていたお母さんが店の前で集合写真を撮ってくれるという。
「おかゆを堪能したミステリアスでファッショナブルな19人の女達」は笑顔で、写真に収まったのだった、

いつまでも喋っていたい。

るつたさんは徒歩圏内の近場で貸し会議室を借りてくださっていて、おかゆ堪能後のトークタイムも確保してもらえた。
待機時間に銘々に飲み物を買って会議室に入るとるつたさんは席割りも決めてくれていて15分ごとに交代しながら4-5グループで会話をしたが、どのグループでも違う話になるのが面白いところで、
それぞれのnoteやツイートを読み込んでいるからか「○○で書かれていた話ですけど……」とか「あの時のお写真が……」と話題に事欠かなく、なにより自問自答ファッションという共通事項があるのでほぼ初対面でも一気にディープな話にまで取り込める状態になっていたのが面白い。
この会議室にいるみんなが全員悩み悩んでファッションとぶつかり、鍛えてきたのだと思うと感無量だった。
笑い声が絶えない柔らかい空間を作っていたのは、しっかりと場を仕切ってくれたるつたさんと何より私たちが出逢ったきっかけになったあきやさんの存在に他ならないだろう。

退室ギリギリまで話し続け、なんならまだ足りないからと一部メンバーは近くのカフェチェーンで閉店まで話し込み、それでもまだ帰り道で楽しく話し続け……気付けば7時間も横浜で食べ、飲み、話し続けていた。

駅へ向かう、細かな雨が時折落ちてくる夜空の下で「おかゆで何が美味しかったか」「しいたけ!」「いか!」「かぼちゃ!」と銘々に話し、「記憶を消してもう一度初めての状態でおかゆが食べたい」「今日を最初からやり直してみたい」と楽しかった記憶をもう一度噛みしめながら電車に乗りそれぞれの帰路に就く。
私は一人だけ違う路線だったので横浜駅で別れひとりぼっちになってしまったが、悲しみは少なく充足感でいっぱいだった。

「きっとまた何かのきっかけで直接会って楽しくお話出来るはず」

大人になってからそう思える人たちに出逢えたことは本当に貴重だと思う。
自問自答ファッションというコミュニティに入れたことをありがたく思いながら、一人また電車に揺られて土産と頼まれた買い物を片手に配偶者の待つ自宅へと帰っていくのであった。

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