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コミュニケーション手段の使い分け

■電話は迷惑ツール説

 最近、電話というコミュニケーションツールについて頻繁に盛り上がっていますね。ざっとネット上の話を読んでいると「電話は迷惑」という意見が多数のようで私もその1人。

 しかし文字、対面、電話というのは所詮手段であって目的達成のために適切なものを選べという話に落ち着くもので、電話にだって少しくらいはいいところがあるのはわかっている。

■じゃあ整理してみよう

 ということで、文字、対面、電話という3つのツールについてそれぞれの一長一短を整理してみました。予め書いておきますが、すべて個人の見解です。

(1) 文字

速度・緊急性:★★ 伝達量:★★★★ 論点の集中:★★★★ 意外性期待:★★ 非同期:★★★★★ 記録・共有性:★★★★★

 かつては紙とインクで作られた手紙であり、郵便として物理的に輸送されて初めて情報が伝わるという、作りやすさ、伝達速度、伝達量などどの特徴をとっても今となってはいいところがほとんどない手段でしたが、当時は唯一の遠距離コミュニケーションで重宝されてきました。ご存じのとおりインターネットの登場によって手紙はEメールにとって代わられ送受信のタイムラグはほぼなくなり、通信速度の発達にともない文字に加えて大量の情報処理を同時にこなすことができるようになりました。現在はEメールすら旧文明になってしまい、Skype, Slack, Messenger, LINE, WeChatのような長文ではなくチャットに最適化されたツールが隆盛しています。

 こういった文字を使ったコミュニケーションの優れるところは、何を差し置いても非同期性と記録にあります。非同期性というのは、情報の授受が同時である必要がないという特徴であり、受信者はメッセージをいつ読んでも良いという自由度のことです。連絡をとりたいまさにその瞬間に相手が暇であるかどうかわからないのが普通ですから、相手のことを尊重すれば文字という選択は自然なものになります。

 文字は記録に残るというのも優秀なポイントです。仮に他の利便性を優先して口頭のコミュニケーションをとったとしても、その記録はほぼ必ず文字起こしされます。言った・言ってない論争は起きませんので、大きな取引契約や証明などの行為は文書上で成されます。今では電子データがほとんどですので、検索しやすいというのもまた記録に残る文字の良いところです。記録に残ることで、その情報を第三者が入手できるという共有性にも優れます。むしろ複数の第3者に周知することが主目的な用途として文字は不可欠です。

 非同期性、記録という2点に次いで文字の良いところは、論点の集中に向いている点でしょう。文章を書くとなると、その過程で意識せずともある程度推敲するものです。最初は思いつくままに書くでしょうが、送信する前に自分の文章を読み直したときにもともと伝えたかった要点がきちんと伝わるだろうかと無意識に考え直します。そして文章の脈絡を整えたり、不足した情報を付け加えたり、余計なものをそぎ落としたりすることで要点に特化したものに洗練されていきます。これによって話が発散することを避け、論点に集中した議論ができるようになります。文章ではなくスピーチの機会が待っているとしても、やはり一度紙の上に書き起こしてどのようなストーリーに仕上げるか推敲し、話が脱線しないように準備しますよね。

 一方で、文字によるコミュニケーションが苦手とする点を挙げましょう。やはり最大の弱点は、緊急な局面で役に立たないところです。先ほど文字が非同期性に優れるという話の中で受信者が読むタイミングが自由である利点を述べましたが、緊急な局面ではこれがまったくの裏目にでます。「親戚が倒れた」「現場で事故があった」など、関係者に1分や1秒でも早く知らせたいときに悠長にグループチャットなどを打っていては、偶然リアルタイムでメッセージを読めた人しかそのアクションに移れません。

 意外と気づかれていない文字によるコミュニケーションの他の弱点として、これも利点の裏返しではあるのですが、予想外の話に発展しづらい点が挙げられます。文字を書くと推敲するので論点が集中されると既に書きましたが、話が発散しづらいことによって予期しない情報にありつく可能性を小さくしてしまいます。例えばAという製品を急いで作らねばならないという状況で必要な材料を調達したいという相談があったとして、推敲した結果材料の調達方法に絞ったことしか文章にしなかったとき、実は相談相手はB製品用にも同じ材料を使っていて別管理の在庫があることを知っていたとしても、それを伝えることをせず、ただ調達先の担当者の連絡先を教えるだけに留まってしまうかもしれません。

(2) 対面(打合せ)

速度・緊急性:★ 伝達量:★★★★ 論点の集中:★★★ 意外性期待:★★★★★ 非同期:★★ 記録・共有性:★★★

 次に、対面での口頭コミュニケーションを考えます。ここでは事前にアポイントをとってある打合せを想定します。目の前にいる人に予告なく話しかけるものはだいぶ性質が異なり、どちらかというと後述の電話のほうが近いのでそちらを参照ください。

 ヒト科は口と舌を巧みに使うことで成し遂げる発音能力をもって高度な意思疎通ができる生き物であり、対面での会話というのはコミュニケーション手段の原点です。

 対面の特筆すべき利点は、意外性期待にあります。対面で話すと、相手の表情や口調の変化が読み取れます。すると言葉の裏に何か考えが隠れていると察することがよくある。こういう場合にはなぜその言葉を発したのかを考えたり問うたりすることが多くなり、自然と予期しない話に発展します。そうやって発散した話の中で得られた情報は必ずしも有意義ではありませんが、新しい発見を求めるような場合ではこの対面での会話はとても有効な手段です。だから顧客との議論やアイデアを出し合うような件では対面の打ち合わせを設けて、意図的に話題を広げていくことを目指します。相手が隠している真意、当人すら気づいていなかった発想を引き出すような新しい発見につなげるのです。初めから買う本を決めているときはAmazonで書籍のタイトルを検索バーに入力するという購入までの最短距離を目指すものですが、こういう時に他の推薦商品に目を向けることはあまりありません。しかし漠然と興味をひかれる本がないだろうかと考えているときには、本屋に行って商品棚を眺め、ピンときたものを買って帰ります。これに似ていますね。

 対面での会話は、複数人で行われることで文字ほどではないですがある程度の記録と共有性を確保します。誰か1人が忘れてしまっても、他の誰かが覚えている確率が上がるからです。しかしそれでは参加者以外への共有が不可能ですので、やはり忘れないうちに文字に起こしておくのが大事になります。

 対面打合せの弱点はアポイントをとってからになるという性質から、スピード感で他の方法に圧倒的に劣るということですね。

(3) 電話

速度・緊急性:★★★★★ 伝達量:★★ 論点の集中:★★ 意外性期待:★★★ 非同期:★ 記録・共有性:★★

 最後は電話。それまで手紙しかなかった1870年代に登場したこの新技術は、画期的な遠距離コミュニケーションであり、手紙にあったタイムラグがないというメリットによって瞬く間に普及しました。

 電話の利点は誰も疑う余地がないでしょう。相手がどこで何をしていようと「話がある」と呼び出すことができるため、緊急用途に向いています。LINEやMessengerで連絡手段は事足りるこの時代、携帯電話代を抑えるためにネット通信のみでSIMを契約したい人でも、110番や119番へかけられる利点を捨てきれずに通話機能付与を選択する人は多い。

 しかしそんな電話ですが、他の特徴は軒並み点数が低いですね。伝えられる情報量は推敲された文章に劣り表情が読めない対面にも劣る。一対一なので録音しない限り記録にも残らない。そして何よりの問題は本投稿冒頭で挙げたとおり、相手がどんな状況であれ呼び出すという性質から非同期性が皆無な点がまずく、現代では電話嫌いが多いわけです。まったく急ぎでもない件で電話をかけることは、相手の時間を奪う迷惑行為だという考え方ですね。

 文章を推敲するという作業が煩わしいと思う人ほど、すぐ電話に手が伸びてしまうようです。調査によっては先進国で初歩的な文章が読めない成人が50%もいるそうで、読めない人が書けるわけもなく、「話したほうが早い」「話したほうがよく伝わる」という人は、ただ要点を整理するのが下手なだけです。読み書きできない人が仕事の上司だったりすると大変です。報告書を作っても読んでくれないからです。

■そろそろまとめておく

 結局アンチ電話で終わるのかよと突っ込まれそうではありますが、冷静に考えてやっぱり平時に使うツールとしては文字が優秀です。ただしこれは、双方が正しく文章の読み書きができることが前提。日本でi-modeから始まったモバイルインターネットが普及した頃を境に、音を発せない電車やバスの中でもコミュニケーションがとれるとか、通信量が少ないためコストが低いという理由から始まった携帯電話を使った文字通信が始まりました。しかし、文字を打つと同じ情報量を伝えるときに喋る場合より時間がかかります。それでも電車の中で文字を打たざるを得ないので、こういう時のメッセージの特徴は要点が端的に書かれるようになります。まさに論点の集中です。この文字というツールを10代から積極的に駆使して訓練してきた世代は、長文はともかくチャットレベルであれば相当に慣れている。なるべく短い文字数で伝えたいことを伝えるにはどうするかを瞬時に考えられるよう日頃から訓練されているのです。私は高校生から携帯電話を持ち始めたので、小学生や中学生からがデフォルトになっているより若い人たちにはきっと劣るのでしょう。

 この世代に電話をかけるときには注意してください。電話をかければ、相手のスマホに表示される発信者であるあなたの名前を見て緊急な要件の可能性があるかどうか数秒考えるでしょう。考えた末に電話に出たところで緊急でない件の話をされようものなら、短気な相手であれば二度目はないかもしれません。「この人は相手を思いやれない人だ」と認識され、以後あなたからの電話に出なくなり、本当に緊急な件で電話をしたときに助けてくれなくなる恐れがあります。今や家族でさえ、「いま電話してもいいか」とあらかじめチャットで確認するものですよ。

 いつの時代も、常識はテクノロジーが変えます。手紙、電話、Eメール、チャット。新しいものは便利だから受け入れられるのですから、その便利な点を理解して活用し、頻繁に自分の常識をアップデートしていきましょう。


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