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バイオプラスチックの作り方(例)

 引き続き、プラごみ削減の話題に乗じてみる、いづつです。本当は「植物性プラスチックの作り方」というタイトルにしたほうが閲覧されやすいと思うのですが、やはり技術屋のはしくれとして、定義の曖昧なワードを使うことは避けたいと思いました。JBPAという協会がしっかり定義を掲載していますよ。

 記事につくPickやLikeが私のコメントに集中しているようなのでそこまで悲観的にならなくてもよさそうではあるのですが、植物性プラスチックだの木製ストローだのをワードだけ見て手放しで絶賛歓迎する人々がまだ多いようだし、たぶん私のコメントにLikeをくださった中にもそんなに詳しくわかっていない人がいると思うので、プラスチックってどうやってできるのかを解説してみます

■工場は魔法じゃない

 「植物がプラスチックになる!素晴らしい!」という人は、たぶんこういうイメージでしょう。植物を工場という得体の知れない施設に放り投げると、ストローやポリ袋になって出てくる。

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そんなわけあるかい。工場は魔法の箱ではありません。残念ながら現実はこうです。

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これを見てあなたがドン引いてくれれば手間をかけて図を作った甲斐があったというもの。これでも相当簡略化していますし、たぶん私の専門外の細かいところに間違いがあります。そもそも植物からプラスチックにするルートはこれだけではありません。生産技術やプラント設計のプロに怒られそうなくらいの粗さであることは最初に断っておきます。

 注目してほしいのは赤い箇所。燃料を消費して熱をかけてCO2を排出している箇所のなんと多いこと。この図を見てしまったが最後、もう「植物性プラスチックは実質CO2排出ゼロ!」とか二度と言えませんね。なぜ植物からプラスチック製品を作るとハイコストになるのか。それは工程でたくさんエネルギーを使うからです。見落とされやすいところを、化学が苦手な人でもわかるように書いてみます。

■そもそも植物が化石燃料でできている

 原料となる植物が化石燃料の塊だとしたら、根本から話がひっくり返りますよね。残念ながらひっくり返るんです。
 さきほどの全体図を見て、原料となる植物の前に長い工程があるのに気づいたでしょうか。そして遡ってたどると、途中で登場するのは合成肥料で、行き着く先はなんと天然ガス。世界的な人口爆増のこの世界は、農作物を育てるのに必要な合成肥料の材料になるアンモニアを合成するのに必要な触媒を開発した昔の偉い人あってこそ。これがなければ瞬時に世界的な食糧危機が起きて全人類で殺し合いが始まること間違いなしなくらい、欠かせない技術です。食用でさえ使いまくっている合成肥料、プラスチック用途であっても当然使います。だって早くたくさん育てないと全然量が足りないから。そしてその合成肥料は原料としても加工に必要な熱源としても大量の石油や天然ガスを注ぎ込んで出来ているから、植物を育てる時点ですでに相応のCO2を排出しています。こんどスーパーの野菜売り場に行ったら、天然ガスが姿を変えたものだと思って見てくださいね。

■お酒からアルコールだけを抜き取るには

 めでたくトウモロコシが育ったとして、その先へ進みましょう。いきなりつまづくポイントですが、植物はそのままでは加工できません。天日干しして燃やせばせいぜい熱源になるかもしれませんが、だったらそのまま食べたほうがマシ。プラスチックへのルートとして、まずは発酵させてアルコールにしないといけません。そう、お酒です。しかし原酒のアルコール濃度っていくらですかね。せいぜい20%くらいで、ほとんど水。さあここで問題です。この混合物からアルコールだけを抜き取らなければいけませんが、どうしましょう。中学校で習いましたね、答えは蒸留です。熱をかけて沸点が低いアルコールを優先的に蒸発させて、冷やして液体に戻すあれです。

 おや、いま大事なワードが出てきました。そう、「熱をかけ」るのです。ここにもふんだんに化石燃料が注ぎ込まれ、CO2を排出しています。「温めて、冷やす」という蒸留工程って凄まじくエネルギーロスが大きいのですが、純度を高めないとあとで出来るプラスチックが臭くなるのでやらざるをえません。臭いストロー吸いたくないですよね。

■ヤバい薬品を使う必要もある

 純度の高いアルコール(エタノール)を得ても、まだまだプラスチックへは遠い道のり。ポリエチレンの原料、エチレンにするには水を取り除いたエタノールという分子から更に水分子を強引に絞り出さないといけません。そこで登場するのが硫酸です。聞いたことくらいありますよね。触ると肌が変色して爛れるヤバい薬品です。純粋な硫酸というのは水分を強力に吸い取る効果があるのですが、同時に強力な腐食性劇物でもあるので設備の耐久性は強固なものでなければいけません。さきほどの図には出てきていませんが、当然材質が特殊になりますから、その設備費やメンテナンスにもエネルギーが投入されます。水を含んだ硫酸も何らかの方法で処理しなければいけませんからここにもエネルギーが必要です。

■ついにポリエチレンにして成形する

 さあ、高純度なエチレンを繋げてついにポリエチレンにしましょう。ここでも昔の偉い人が開発した画期的な触媒を使いますが、やはり熱は必要です。この段階で、一口にポリエチレンといってもどれくらいの密度や純度で仕上げるかで用途が変わってきます。

 お望みのグレードのポリエチレンを選んで、ストローに成形しましょう。生のポリエチレンはカチカチなので、熱をかけてドロドロにしてから、型を使って成形し、ようやくバイオプラスチック製ストローの完成です。

■このストローはエコなのか

 さて、振り返りましょう。いったい何回熱をかけましたかね。もちろんさきほどの図に登場するところ以外でも熱をかける工程はありますのでもう数えられません。よってどれだけエネルギーを注ぎ込んでCO2を排出したのかわかりませんが、燃料代は安くはありませんから、少なくとも価格に表れているはずです。ふむふむ、ふつうのストローより高いですか、そうですか。

 私は思いますよ。「ストローにするくらいだったら、直接食べろ」って。


Yoshiyuki Izutsu

https://www.linkedin.com/in/yizutsu/


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