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トップの無言はメッセージである

  こんにちは、新しい仕事はハードですが学びが多くて充実しています、いづつです。今回もマネジメントについて書きます。

  日系の大企業にいたわずか1年4ヶ月の間で、海外含むグループ会社全体で残念なことに2名の労働中の死亡事故が起きました。とても心痛ましいことです。

  しかし心痛むことに加えて強く気になったことがあって、それはこれらの死亡事故の後、社長から何もメッセージがなかったこと。実際のところビジネスは数字なので、亡くなることも含めた労災コストくらいは織り込み済みなのが現実なのはわかっていますが、従業員に事故の詳細、その後の対応や対策といった誠意を伝えるメッセージがない。この社長の無言は「人が年間に2名死ぬことは織り込み済みで事業をやっています。今後も年に数人死ぬかもしれませんが、想定内です」という、言ってはいけないことを言ってしまっているのに等しいのです。社長は1人でも従業員が亡くなった時点で緊急事態であることを明確にし「死亡事故がありました。たいへん責任を感じております。皆さんに安全な職場を提供できるよう、頑張ります」という一言を、本音かどうかはともかく全社に発信するだけでその後の信頼がまったく変わります。

  この社長の態度だけで従業員が辞める理由としておかしくないほど決定的なミスです。「社長の対応が不満だ」「死亡事故が多すぎる」というのは辞意を伝える相手である上司や人事部の人たちに改善できることではないので、面倒な引き留めに発展する余地があまりありません。「こいつが辞めるのは社長のせいで、私は悪くない」とも言い訳ができますから。私がこの会社を辞めた理由は多岐に渡りますが、本件もひとつです。

  こんな社長が「安全第一」とか掲げちゃいけません。いや、いいのですよ実際は「安全二の次」でも。真の安全とは事業を一切やらないことなので、実際のところ安全第一なビジネスの現場などあり得ません。でもそれならそう表明しましょう。本音と建て前の矛盾は、必ずばれます。

  深刻なトラブルは、当然起きないに越したことはなく予防措置が大事なのは言うまでもありません。しかし何をするにもリスクをゼロにはできません。万が一にもそういったトラブルが起きた時の対応こそ、トップの性格がその後の組織の行方を大きく左右します。記憶に新しいところでは、Volkswagenの排ガス不正、日本大学のラグビー悪質ファウル、複数の自動車メーカーの新車検査不良、医学部受験の結果操作、ソフトバンクの通信障害、スルガ銀行の不正融資、Facebookの個人情報リーク、レオパレスの施工不良、セブンペイの脆弱セキュリティ。いくらでも出てくるので挙げるのはこのへんにしておきますが、丁寧に誠意を見せたトップと言い訳が先行したトップで、大きくその後の信頼度が異なったのが明らかです。

  このとき誠意を見せるべき相手は、顧客や株主だけではありません。従業員も大事なステークホルダーです。「ヤバイ会社だ」とレッテルを貼られれば一瞬にして顧客を失い、株が売られるのと同じで、従業員が離れます。前のエントリーでも書きましたが、従業員の会社への帰属意識という考え方はとっくに過去のもの。例えば東京電力の作業員だというだけで原発事故後に差別的バッシングをされるような世の中で、末端従業員が個人の名誉を賭けてまで会社を守る理由なんてないのです。経営層のチョンボを見たら、さっさと逃げるが勝ち。

  コンプライアンスというワードが広まってそこそこ経ちますが、まだその意味をわかっていない人も多いようで。判断基準は合法か違法かではありません。誠実か不誠実かです。「弁護士が合法と言ったから大丈夫だ」では甘くて、「ステークホルダーは許してくれそうだろうか」という考え方をしましょう。


Yoshiyuki Izutsu

https://www.linkedin.com/in/yizutsu/


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