オーロラを見た日

別にアラスカとかグリーンランドとかに行ってオーロラを見たわけではなくてあるバンドについての話。

去年の8月10日。BUMP OF CHICKENが一番好きなバンドと公言してはばからない私は日が差し込みどことなく暑い台湾桃園空港で朝早くから集合時間までのおよそ6時間を潰すためにスタバでサンドイッチとラテを飲みながらだらだらとYouTubeで動画を漁る自堕落なトラベラーと化していた。親にとってもらった最安のチケットの出発時間は朝6時ととても早かったためそうするほかなかったのだ。時間制限がある無料Wi-Fiを何度つなぎなおしたかわからなくなり始めたくらいの時、一本のLINEが来た。落ち続けていたBUMPのツアーの最終日のチケットの当選連絡だった。「注釈付指定席」といういわゆるちょっと見にくいですよ〜となる残念席(と思っていた)だったため「お、当たったか」というのが正直なところだった。(多分指定席に当選していたら空港で歓喜に狂いセキュリティに捕まっていただろう。)BUMPのツアーの人気はとても高くてその前まで最終日の公演は何回か応募して全落ちしていたのでまあ行けるだけマシかと思い、そこで一区切りつく。まだ本番まで3ヶ月あるため現実感がなさすぎたのもあるだろう。

9月11日。台湾から帰ってきて2週間たつかたたないかの頃、私はまたも朝早くから羽田に行き関空にたどり着いていた。京セラドームで行われるBUMPのライブに参戦するためだ。日差しが強くて暑くて空港の中も息苦しかった。高校のクラスメイトとグッズの列に並び欲しかったものを買ってホクホク状態になった私は初めてBUMPのライブに参加した。興奮と「ついに来てしまった」という感慨に包まれながらスタンド席から自分の目を通してBUMPを見た。好きでよかったと心の底から思った瞬間だった。BUMPを好きになることができた自分はなんて幸運なのだろうと。BUMPを好きでいる自分が誇らしかったし、好きだなと感じた瞬間だった。

初めて自分でチケットをとった寝台特急で大阪から東京に戻り初めてのBUMPライブは終わった。慌ただしくタスクをこなす日々に戻った。そんなある日8年間愛用していたwalkmanの基盤に雨水が入り壊れてしまった。これは買い替えのチャンスだと思い、新しいwalkmanを買うことにした。御用達のケーズデンキに行って少しながら値引きをしてもらい、16GB(+α)というとんでもメモリーを搭載した相棒を手にした。この新型相棒のメモリーの大きさに全幅の信頼を寄せ安心しきった私はとりあえずBUMPの全アルバムをぶちこみ、いつでもどこでもBUMPの曲を聴き、歩くBUMPサイクロペディアになるべく、11月のライブに備えて9月のセトリを常に頭の片隅に置きながら2ヶ月を過ごした。この2ヶ月の話はまたいつか時間がある時にしたいと思う。

そしてD-DAYがやってくる。東京ドームだ。2代目相棒と共に地下鉄を乗り継ぎながら向かうと、あの白いデカイのが眼前にそびえ立っていた。「ほあ〜はえ〜おおきいなあ〜」などというどうしようもない感想しか出てこなかった。そしてテンションが盛り上がり買う必要もないのにグッズを買った私は予想以上に時間を持て余しお気に入りスポットの銀座のソニーパークに遊びに行くことにした。(これはまたいつか話したいな。)

LINEに開場時間だから早く入れと急かされた私は「はいはいわかってますわかってます」と一人ブツブツ言いながらドームの中に入った。完全に不審者である。そして指定された席に行くと見事な天井席だった。天井の方が床より近い。しかし、あれ?と思ったことがある。天井席すぎて機材がそれほど邪魔ではないのだ。この疑問は良い意味で私に驚きをくれた。

オーロラが見えた。

ツアーのタイトルは「aurora ark」、そして最新のアルバムタイトルは「aurora arc」といいオーロラがキーワードだったのは明白だったが9月の私は薄ぼんやりとしかわからなかった。下の方の席でBUMP本人をみることに注力していたからだ。この日は違った。上から見た時に、みんながつけているPIXMOBという光るブレスレットとスモークと照明の演出によって色とりどりの光が自分の眼前に現れた。天井席じゃないと見られない光景だった。美しいと心の底から思った。

今ではこうやって考える。アリーナ席がよかったと思う気持ちもあるけれど注釈付指定席でしか見られない光景を見たというのはなんて素敵なことなんだろう。BUMPがアルバムやライブに込めた思いを可視化しようとしたスタッフの方々の努力を目撃したのだと。

今でもあの日の光景はなんとなくだが思い出せるし、曲のセットリストは手帳に書いて時々見直している。

でもその時の感情は保存できないし言葉にはできない。あの時、オーロラを見た時に感じたたくさんの感情の混合物は今の私の思考の一部となって残っていてほしいなと切に願う。


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