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4. 意識の神秘

意識の神秘

最初に最も神秘的かつ重要な「意識」というテーマを扱います。意識は人間の最も根源的なものとして、自分の心と身体、また外に存在するあらゆるものに対して注がれ続けています。意識をどこに、どのように向けるか、それをどのように用いるか、それはこのマガジンの最重要テーマといっても過言ではありません。

「意識」と「認識」の違い

ではまず始めに「意識」と「認識」の違いを考えてみましょう。私たちは「意識」を何かに傾けた時、そこで五感を通して何らかの反応が受け取られ、印象が生じ、理解しようという知性の働きが生じます。その一連のはたらきを通して「認識」は形成されます。
実際に30年近く前にあった、私の経験を例としてあげておきましょう。

ある日、家にあったヨガの本を眺めていたら「足の指を一本一本小指までグッと開いて!」という指示がありました。私はそれまで、足の小指に意識を向けた事が無いことに気づきました。当然小指は動きません。しかし、しばらく小指に意識を傾けていると、小指が反応を始め、やがて意識的に指を広げることができるようになりました。ものの数分の間に起こった出来事です。意識することで小指と対話ができるようになったという、その事実に私は驚きました。
その時私の中に、足の小指に「意識」を傾けるなら、その小指と対話ができる、動かせるようになるという「認識」がうまれたのでした。

その時、私の意思と足の小指との間の回路が目覚めて活性化したのです。30年近く経った今も、その状態は保たれたままです。

ここにすでに演奏技術を身につけるプロセスのエッセンスがあります。

身体の様々な部位に意識を傾ける。

音楽家は常に様々な部位に意識を注ぎます。下半身の安定、背骨の状態、頭部の安定、呼吸のコントロール、聴覚、喉、肩、脇、腕、関節、手首それから指…と実に様々なポイントに対し、意識は同時並行的に、意識的・無意識的にかかわらず注がれ続けます。
身体の部位に気になる問題がある時、そこへ意識を強く傾けることもできます。その場合、慣れないうちはどうしても意識は一点に集中しがちですが、これも不思議なことに、慣れてくると次第に他のポイントへの意識も保ちつつ、バランスをとりながら、集中することができるようになります。

意識を自覚的に用いる

意識については、意識的、無意識、潜在意識など関連した言葉があるのですが、このマガジンはそこに深入りするものではありません。ここではそれよりも意識の二つの状態の違いに焦点をあてています。

1.意識が無自覚な状態で働いている
  いわゆる自動制御運転状態
2.意識を自覚的に用いる。意識を傾ける。
  普通なら”意識的に”と言うのですが、
  ここでは混乱を招きそうなので、
  ”自覚的に用いる”あるいは”意識を傾ける”と言い換えます。
  それは意図的に扱うということでもあります。
  何らかの意図をもって意識をあるポイントに傾けるのです。

この二つの状態は優劣ではありません。必要に応じて常にその状態は切り替わります。通常は1の状態、何か必要が生じると2の状態、それが慣れてくると1の状態に戻って安定し、また何か必要が生じると2の状態に切り替わり、それからやがて1の状態に戻ります。
何のことは無い、皆当たり前にやっていることです。
ただこの状態を自覚的に、意思を持って切り替えられるか?というと、必ずしもそうではないようです。

この二つの状態の切り替えを、ハッキリと自覚的に用いることができるようになった時、私たちの意識の扱いが活性化します。

意識はどこへ向かっているか

先ほどは、足の小指という身体の一部だけを例にとりましたが、今度はその意識が向かう先について考えてみましょう。

私たちは意識によって身体のみならず、自分自身の心の声に耳を傾けたり、外の世界の様々な光景・姿、その動きに目を注いだり、耳を傾けたりしています。そして意識をそこに集中して傾けてゆくと、今まで気づけなかったものがそこ現れることに日々気づかされ、体験し続けています。

ここでもう少し自分自身に向けられている意識を掘り下げてみましょう。よく自分自身を観察すると、意識のはたらきが重層的で多岐にわたっていることに気づきます。
ここで音楽演奏を例に考えてみましょう。私が現在気づいているのは次の3層です。(まだあるのかもしれませんが…)

1.知覚・感覚領域
  音を感じる、呼吸を感じる、声帯や腕や指先などの感覚、etc.
2.動きを生じさせる領域
  身体を動かす。呼吸のスピード・コントロール、声帯のコントロール、
       指先のコントロール、etc.
3.イメージ領域
  これから生じる音に先行する音楽イメージを捉える。
  リズム、音色、和音、旋律のイメージ、
  それらの統合イメージを捉え、生成する。

演奏時、以上の三つの層は同時進行します。意識はこれらの各層の中でほぼ同時に、かつ広範囲で細やかに働いています。
しかしそれだけではありません。さらにもう一つ上の次元の領域があります。心の領域です。

心の領域

心の領域について私が知っているのは次の三つの領域です。

1.思考
2.感情
3.意思

いわゆる知・情・意です。これらの分野に対しても意識は常にそれぞれの中ではたらいています。私たちは意識によって、自分自身の思考・感情・意思の姿を観察することができます。

意識を自覚的に心の領域へと、細やかに注意深く傾けるなら、身体同様、細やかな内的対話へと導かれ、その領域は次第に拡大し、それが進むにつれて心の世界に対する理解も深まるようになります。もちろんそれも誰もが体験していることです。

次回は意識と身体の対話について、実際に私がギター練習で経験したことを記します。私自身の備忘録でもあります。

本節のおわりに

こうして考えるとつくづく意識というものは不思議です。身体と心・外の世界に向かって、同時かつ重層的にはたらき、自覚・無自覚にかかわらず、際限なく注がれ続けているのですから。
しかもその扱い方…つまり自覚的に用いることによって、その範囲は広がり深度は深まるのです。



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