見出し画像

東京ホテル図鑑/御出版に寄せて

この度、環境色彩計画事務所CLIMATの一員である遠藤慧さんが学芸出版社より『東京ホテル図鑑』というスケッチ集を出版されました。発売日は2023年8月25日とのことですが、前評判の高さもあって、一部書店では特典付き/パネル展と合わせ先行発売が開始されています。
書店でのトークイベントやラジオ出演など、今後様々なメディアでも多々紹介されることと思いますので、ぜひ出版社のサイト遠藤さんのSNSなどをチェックしてみてください。

さて改めまして御出版、おめでとうございます。通常の業務と並行し、単著を書き上げる労力は並大抵ではないこと、自信も一度経験したことでもあり、周囲の様々な方の協力や応援あってのこと、ご本人もしみじみ実感していることと思います。
サブタイトルにスケッチ集とありますが、本書は建築士の資格を持ち、現在は色彩計画事務所で活躍する遠藤さんの『構成(配色)を見る/見出す力』を通して『ホテルインテリアという(非日常的な/特別な)空間を味わうための一冊』といえるでしょう。
その『非日常』というスペシャリティには、ホテルや設計者の様々な思考錯誤や解釈が隠されています。日常の延長にある穏やかな調和や落ち着き、強度のある素材が放つ独特の存在感や主張、そしてそうした素材や色彩の『組み合わせの妙』が訪れる人々の心を動かし、安らぎをもたらすのではないかと考えています。

環境色彩計画事務所CLIMATでは、建築の外装のみならず、インテリアの色彩計画に係わる機会も多くあります。ところが私をはじめCLIMATのスタッフにはインテリアデザインを専門的/体系的に学んだ人はおらず、内装の仕上げ素材や家具、ファブリックの『カラーコーディネート』という観点から徐々にプランニングや造作の設計へと領域を拡張してきました(…ここだけの話、私は今だにIllustratorで平面・断面図や家具図を描いています)。
改修・新築、規模も様々ですが、外装の色彩計画と同様に『(調和ある)カラーシステムの構築』がスタートになります。プロジェクトの方針・方向性に合わせ、対比の強度やバランスを整えることができれば、そこからの展開は大変スムーズです。建具の金物の色をアクセントにしたり、徹底的に色相(色味)を合わせ、空間全体が溶け合うような構成にしたり。内装の色彩計画も図と地の関係性がベースになっています。

2021年に事務所の内装を改修した際の塗装色。床、壁の素材と色相をリンクさせています。

こうした実務を通し、何度か遠藤さんに『内装のカラースキムってどうやって組み立てているのか/何を根拠にしているのか』と尋ねられることがあるのですが、外装の色彩計画よりはずっと感覚的/直感的に構成していることが多いように感じます。ただ、そうした感覚/直感にも私なりの裏付けはあって、使用する素材をひと通り揃え、組み合わせて(配色して)みれば、答えは常にそこにあるのだとも考えています。

CLIMATで探求し続けていることは全て色と色/色と素材/素材と素材…の間で起こっていること=色彩の現象性に置き換えられる、と思っています。
その色・その素材自体にスペシャリティが宿っている訳ではなく、組み合わせることにより様々なハーモニーが奏でられ、その波長が見る人の感情を動かします。内装のカラースキムを構築する際は特に(不特定多数の/年齢や性別を大きく問わないことを前提とした)一定以上の心地よさ、を意識していますが、どのようなテーマ・対象であっても結局答えは常に自分の中(=組み合わせから見つけ出した現象性)にしかない、という点がデザインの面白さであり、怖さでもあると感じます。

東京ホテル図鑑にも掲載されているK5。遠藤さんも私も大好きなホテルです。

コーディネート、というと単に既成のものを組み合わせるだけの/簡単なこと、と揶揄されることも少なくありません。しかしながらインテリアを楽しむ・味わうために様々なホテルに宿泊してみると、素材や色の組み合わせには未知の出会いが無限にあり、ほんの少しの匙加減やバランスの(勝ち負けの)塩梅といった設計者の操作(指揮)により、奏でられるハーモニーには実に多様で様々なバリエーションがあるものだなと感じます。
もう少し涼しくなりましたら、この東京ホテル図鑑を携え『色と色の間で起きていること』を見出す小さな旅に出てみたいと思います。

最後に。書籍のおわりに、に『…一介の会社員である私の…書籍出版を認め』と、遠慮と謙遜を交えCLIMATのことを書き記していただきましたが。むしろ会社という存在が遠藤さんの足枷になるようなことがあってはなりませんし、もう私個人としても全面的に(…もちろんメンバーとしてやることちゃんとやってくれています、最大限に)応援する・見守るしかありません。
少し年上の立場として言わせていただくと、人生、やってきたこと(経験とそれを実践に繋げること、そしてそれを継続する力)が全てです。どうかこれからも遠藤さん(だけでなく、CLIMATメンバー全員に言えることですが)が個人の能力を最大限に発揮しつつ、より良い仕事を続けて行けますよう、今後のご活躍を心より楽しみにしております。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?