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インターネットのPlastic Love

2017年7月5日にアップロードされた竹内まりや「Plastic Love」の再生回数が1500万再生を超えている(2018年8月3日、初稿執筆時)。

追記・2018年12月22日、第三者による異議申し立てによって削除。申告者はカバー写真を撮影した写真家のAlan Levenson氏。12月20日時点の再生数は2400万超。

Plastic Loverを名乗るこのアカウントは当然、公式のものではない。

何と、竹内まりやの「プラスティック・ラブ」が半年で500万再生を超える人気とのこと。

2018年3月27日の記事で500万再生が報告されている。つまり、半年を待たずして、さらに1000万回以上、再生されたことになる。

説明するまでもないが「Plastic Love」は、1984年にリリースされた竹内まりやの6枚目のアルバム「VARIETY」に収録された楽曲。休養からの復帰後、初の音源であり、これまでのアイドル路線からの決別を宣言するのにふさわしいアーティスト・アルバム。前編の作詞・作曲を竹内まりや、アレンジが山下達郎という、我々からすればおなじみになったゴールデン・コンビのお披露目でもある。

和製レア・グルーヴとしてはクラシックであり、和モノイベントのみならずダンス・ミュージックのシーンで愛されている楽曲だ。足繁くクラブに通えば、深夜三時を過ぎたチルアウトの頃、彼女の歌声を耳にする機会は一度や二度ではないはずだ。

国内では老若男女から熱心な音楽ファンにまで、広く認知されている「Plastic Love」だが、YouTubeを通して、海外のコアな音楽ファンだけでなく、さらにその外側へ広がっている。

2018年7月29日に投稿された「What is Plastic Love ?」には「いかにしてYouTubeのアルゴリズムが知られざる日本の名曲を現代のクラシックに変えたか」というDescriptionがつけられている。

経緯をたどってみよう。GoogleTrendsによると、2017年6月から検索ヒット数が上昇し始めている。

きっかけと思われるのはRedditのスレッド。

2017年6月21日に立てられたスレッドにリンクされている動画はHAL.Bというユーザが2017年4月12日にアップロードしたものだが、すでに削除されている。

I found Maria Takeuchi through a Youtube suggestion. This song is so killer!

YouTubeのレコメンドから「Plastic Love」を発見したユーザーが、曲の素晴らしさを広め、語り合おうとしている。スレッドの閲覧者らによる評価も概ね好評のようで、未知の音楽を発見する喜びで賑わっている。

I eagerly await the Future Funk remix getting 10 times as many upvotes when posted sometime next week.
Whats Future Funk?

Future Funkのリミックスを待ち望むポストがあり、韓国出身のトラックメーカーNight Tempo( @nighttempo ) の動画がリンクされている。

このNight Tempoの動画も「Plastic Love」のバイラルの影響を受けている。2017年4月時点で500万だった再生数が、2017年10月時点では3倍の160万再生を記録。2018年8月3日時点では500万再生を超えている。ところでNight Tempoは「Plastic Love」のバイラル現象から再生数を得るだけでなく、あるトラブルにも巻き込まれてしまうのだが、それは後述するとしよう。

次に大きくはねているのは2018年6月13日。これはnoiceyの記事がきっかけだろう。

noiceyの記事は現象としてでなく、純粋な音楽レビュー。日本語詞にまで立ち入った念の入ったテキストだが、イントロダクションでYouTubeに触れている。

YouTube-recommended videos: slide, slide, slide, slide. Then, as if the algorithm Gods are in attendance, a tune appears: “Plastic Love”

「What is Plastic Love ? 」でも触れられていたYouTubeのアルゴリズムとはいったい何のことだろうか。

Twitterを「Plastic Love YouTube algorithm」で検索すると「YouTubeで何を再生してもPlastic Loveがレコメンドされる」というtweetが数多く見られる。

どうやら動画の再生が終了した時、自動的に再生される次の動画に「Plastic Love」が頻繁に現れるようだ。よほどエンカウント率が高いのか、Googleの陰謀ではないかと疑うジョークまである。

YouTubeで何を見ていても、また「Plastic Love」に還ってしまう。アフター Vaporwaveの2018年、AIのアルゴリズムが繰り返し響かせる都市のメロディは、1984年とは異なるイメージをリスナーに与えているようだ。

Devian Artを「Mariya Takeuchi」で検索すると「VARIETY」のジャケットを二次創作したイラストが大量に並んでいる。この風景はインターネット・ミームにふさわしいものに見える。

「What is Plastic Love ?」のラストで扱われるYubinの「淑女」は、ポストVaporwaveを思わせるMVと共に鳴らされる、シティ・ポップの流れを組んだ都会的なファンクが心地よい作品だ。淑女はYubinの1stシングル「都市女子」として2018年6月5日に配信された。

最近、何の知識もなくこのPVを見た時はなぜ日本のバブルをパロディしているのかわからなかったのだが、なんのことはない。インターネット・ミームに乗った旬のレア・グルーブを取り入れていたのだ。

AIのアルゴリズムによって繰り返し再生され続ける1984年の日本が、インターネットを通して世界中に広がり、産み落とされた「淑女」。この楽曲にはシティ・ポップよりもVaporwaveの文脈こそがふさわしい。

Plastic Loveと都市愛

インターネット・ミームとしての「Plastic Love」については一通り語り尽くしたが、蛇足としてYubinの「都市愛」にも触れておこう。

Yubinの1st シングル「都市女子」には「淑女」しか収録されていない。一曲だけなのに、なぜタイトルがつけられているのか。実は本来「都市女子」にはカップリング曲として「都市愛」が収録される予定だった。

(正式なタイトルは「도시애」(愛)」。「도시애」をGoogle翻訳にかけると「都市愛」になる。日本語圏では「都市愛」と表記される方が多い印象)

5日に1stソロデジタルシングル「都市女子」とタイトル曲「淑女」の公開を控えているユビンが本日(3日)、YouTubeなどを通じて「都市女子」の収録曲「都市愛」のリリック予告映像を公開した。
この映像は、都市の風景をミニチュアで表現し、スタイリッシュな映像美を演出している。
ビンテージシンセサイザーとドラムマシーンを使い、80年代の雰囲気を再現する。

非常に興味をそそる紹介だが、すでにティザー動画は削除されている。

しかし「都市愛」に盗作疑惑が勃発する。「Plastic Love に酷似している」とも言われているが、実際には前述のNight Tempoのリミックスを盗用したものだったようだ。

デビューシングルからいきなりの災難だが「淑女」は名曲なのでぜひ聴いてほしい。

ポスト・インターネットのPlastic Love

2018年12月から2019年1月にかけて、国内でも「Plastic Love」に対する応答が相次いだ。「インターネットの Plastic Love」に対する国内外の反応を時系列順に紹介しておこう。

2018年2月にアップロードされた台湾の若手ソウル・シンガー9m88による Plastic Loveカバー。この音源、リリースはなんと2017年12月まで遡る。

ところで、9m88の「Plastic Love」はインターネットの「Plastic Love」を受けての応答なのだろうか?

リリース次期が「Plastic Lover」の動画アップロード日から半年も離れていないこと。また音源がリリースの後方が日本に向けられていることを考えると、台湾のアーティストを日本で売るために広く人気のある楽曲として「Plastic Love」が選ばれただけなのではないか?

その疑問にはリリース元「2manysound」のオーナーがインタビューで応えている。

日本のリスナーに向けてリリースしたいという気持ちがまずあったので、リリースの情報は実は最初台湾向けに広報もしてませんでした(笑)
カバーを歌うというアイデアはレコードを制作する中で出てきたモノですが、最終的には彼女の提案でPlastic Loveを歌いたい、ということでこうなりました。候補としては大橋純子などもありましたね。

なるほど、カバー企画自体は日本へ向けたものだったが、楽曲の選択は9m88自身によるものらしい。9m88自身、もともと自ら動画をアップロードしたところからキャリアが始まったアーティストであることを考えると、9m88はインターネットの「Plastic Love」を知っていた可能性は高そうである。

さて国内で早かったのは 2018 年12月、R&BシンガーFriday Night Plansによるカバー。

プレス記事でも軽くバイラル現象に触れられている。

抑制されたファンクが深い夜を感じさせる好カバーである。

また、2018年12月30日に放送された「山下達郎サンデーソングブック」の年末夫婦放談ではインターネットの「Plastic Love」とtofubeatsによるカバーへの言及があったようだ。

同日、tofubeats自身もTwitterでリリースを発表。

ちなみにtofubeatsは2012 年頃にもPlastic Loveを打ち込んでいる。URLは https://soundcloud.com/tofubeats/plasticlove-demo だが削除済みである(一時期bandcampでも配布)。

コードとかの練習にプラスティックラブを打ち込んでいたところ完成させたくなってボーナストラック(zipで落とせば入手可)に。表題曲も自分にしてはちゃんと進行したポップスになってるんじゃないでしょうか。プロの女性歌手などに歌い直して欲しい。

( https://twitter.com/tofubeats/status/202951471174660096 削除済み)

これらの経緯とインターネットの「Plastic Love」を"文脈"として組み込んだものがtofubeats自身によるハウスRemixとなる。

さて2019年1月23日にtofubeatsの「Plastic Love」カバーがリリースされるや否や、日本の音楽メディアも同時多発的に「Plastic Love」の記事をアップロードしはじめる。

こうしてURLを並べていくと、緑色のtofubeatsが並んでキモいのだが、2019年1月23日にはもうひとつ「Plastic Love」への応答がある。
ジャズ・ファンク・バンドBLU-SWINGのヴォーカリスト田中裕梨のカバーアルバムにもPlastic Loveが収録されている。

2017年に企画されたシティ・ポップのカバーアルバムの第2段としてリリースされたようだ。かなりオリジナルに忠実なカバーとなっている。

そしてこれは音源ではないく、かせきさいだぁ、おとぎ話での2マンライブの告知。

かせきさいだぁによるカバーだが、リリースはなさそうだ。

アルゴリズムの映し出すもの

Vaporwaveの映し出す失われた未来と、高度経済成長期のシティ・ポップの発掘と再評価から、YouTubeのレコメンド・エンジンが導き出した「Plastic Love」はインターネット・バズに留まらず、音楽ビジネスにまでエフェクトを与えた。

イギリスの音楽ジャーナリスト、アダム・ハーパーはVaporwaveのようなインターネットを発信地としたマイクロジャンルの隆盛を「オンライン・アンダーグラウンド」と呼び、彼らをインターネット時代のパンク、「ニューパンク」と定義した。ハーパーの受けた感銘は、日本におけるネットレーベルのムーブメントとも重なって見える。

「Plastic Love」はニューパンクの勝利だろうか。アンダーグラウンドでの隆盛が、メジャーシーンに埋められたインターネットの影を通じて、メジャーレーベルを動かした日本における一連の現象には、まさしくニューパンクの輝きを見ることができる。

音楽はサブスクリプションの時代に入り、その商品としての形を円盤からデータへと変貌させた。アダム・ハーパーはSoundcloudやBandcampなどのプラットフォームを含めて、そのDIYの蒸気の中にパンクの幻影を視た。

しかし、情報の流通にはアルゴリズムの影がある。

Amazon、Google、Apple、Spotifyに限らず、巨大化した流通プラットフォームは強い権力を帯びる。データは自らを流通に、プラットフォームを必要とする。だから忘れないでほしい。アルゴリズムはユーザーの欲望を映し出し、導き、また、飼い、馴らすのだから。

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コメント1件

竹内まりやが外人の間で流行っているのに気づき、検索してこちらのエントリーでこれまでの経緯が把握できました。非常に助かりました。ありがとうございます。
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