Modern New Age, Other Worlds/ノイズとグライムのニューエイジャー

この記事は「環境音楽の再発見」の三章です。目次はこちら

2010年代に入ってから「ニューエイジ」というジャンル名を再び耳にするようになってきた。

2013年にガイド本「アンビエント・ディフィニティヴ」を発行したライターの三田格はOneohtrix Point Neverの「Returnal」がひとつのきっかけだったと回想している。

OPNが『リターナル』をリリースした頃からアメリカでは「アンビエント」ではなく「ニュー・エイジ」という単語がよく使われるようになっていて、アメリカの宗教観がぐらぐらに揺れているのがよくわかる。

2013年12月25日、ele-king「Ambient Patrol」より

2013年10月15日、世界最強の発掘レーベルNUMERO GroupのA&Rをつとめ、みずから設立した再発レーベルYoga Recordsからたんたんとニュー・エイジの再発をつづけていたDouglas McGowan。そして写真家、彫刻家であると同時に熱烈なニューエイジのコレクターAnthony Pearsonのふたりが監修したLight In The Attic「I Am the Center: Private Issue New Age Music in America, 1950-1990」のリリースは、音楽シーンのニューエイジへの接近を注意深く察知したものだった。

ロサンゼルスのスピリチュアリズム

2015年9月22日、Brainfaderからデビューしたロサンゼルスの電子音楽家 Matthewdavidは自身のレーベルLeaving Recordsから現代のニューエイジを模索するカセットテープ・シリーズ「Modern New Age」を開始する。

ノイジーなサウンド・コラージュを得意としたMatthewdavidは2014年6月27日の「In My World」から本格的にニューエイジへの接近をみせる。

Matthewdavidはうつ病の治療中にニューエイジのセラピー効果を発見した。ヒップホップとR&Bに融合させた「In My World」の制作にあたって、彼は自身の結婚と第一子の誕生(2013年12月)という人生の変化を反映したという。

“I still practice practical new age philosophy with my raising my child,” he explains. “You know, living in an urban environment and being responsible. Being present and have a sense of center and self.

IMPOSE「MATTHEWDAVID THE ADULT」より

子育てによってニューエイジの哲学を実践していると述べるMatthewdavidの Leaving Recordsは新しいニューエイジを模索しながらも、伝統的なニューエイジの方法を踏襲している。シンセサイズへの好奇心や「あえて」の文脈で再解釈するのではなく、かつてニューエイジがやろうとしたことを続けようとする意思を、そのアートワークやパッケージに示している。

モダンではない、そもそものニューエイジ思想は1960年代のアメリカではじまった。公民権運動の高まりを受けて加熱するアメリカン・インディアン運動、1962年に刊行されたレーチェル・カーソン「沈黙の春」の影響下で高まる環境問題への関心、そして1965年、ベトナム戦争への本格的な軍事介入。これらの社会背景の中、ヒッピー・ムーブメントとウッドストックから生まれたものが、物質にとらわれた現代から霊的/精神的な新時代へ移行しようとするニューエイジ思想だった。

ロサンゼルス在住のMatthewdavidにとってトレイボン・マーティン射殺事件からはじまったBlack Lives Matterもまた「都市環境に生きるものの責任」を考えさせる一因だっただろう。Brainfaderからの2015年5月5日リリースのKamasi Washington「Epic」や Sun Raやアフロフューチャリズムへの傾倒をみせるRas G、スピリチュアル・ジャズ・バンドBuild An AhkのCarlos Niñoら、ロサンゼルスのコミュニティや、その発信地であるロサンゼルスのパーティLow End Theoryなど、Matthewdavidの周辺にはスピリチュアルへの傾倒があった。

Leavingは間違いなく私自身の延長線上にありますが、それよりも重要なのは、人類の現在そして未来の漸進的な可能性を描写しているように思える点です。これこそニュー・エイジの全てと言えるのではないでしょうか。調和、相互のつながり/非二元性、偏見のないこと、愛。こういったことが、自分の発見へとつながり、また癒やしへとつながるのだと思います。

2016年3月24日、Ableton「Matthewdavid:新しいニュー・エイジ」より

調和、つながり、そして愛。かつて人々がニューエイジに見出したものが今、切実に必要とされている。Matthewdavidによる、その実践がModern New Ageだった。

MatthewdavidのLeaving Recordsは2016年5月16日、日本のプロデューサー Seiho「Collapse」をリリース。Modern New Ageシリーズからは2016年9月29日、チルウェイブのアーティストToro Y Moi によるニューエイジ・プロジェクトPLUMがリリースされている。

ロンドンのアトランティス

2015年、ロンドンにも新しいニュー・エイジのコミュニティが生まれていた。

2015年3月7日、ニューエイジの大手mp3blog「Sounds of the dawn」がロンドンのラジオ局NTSに番組を開局。

2015年4月20日、UKグライムのプロデューサーDeadboy (Wooton)がUKのレーベルLocal Actionから「White Magick」をリリース。

Magick, sounds a lot like this celestial music, bringing together New Age and ambient influences with grime to further advance current developments in the contemporary evolution of the genre.

2015年5月7日、juno plus「Deadboy – White Magick EP」レビューより)

ニューエイジとアンビエントをグライムに融合させた進化的な楽曲として評価された「White Magick」。Deadboyのニューエイジへの傾倒は2015年2月16日にリリースされたシングル「It Did Not Feel Right」の瞑想的なサウンドスケープにもみることができる。

Deadboyは前述のSounds of the dawnやCrystal Vibration、Hidden Valley Of The Sunなどのmp3blogを通してニューエイジを発見していた。

I came across a couple of blogs, one called Crystal Vibrations and one called Hidden Valley Of The Sun, which is wholly dedicated to the label Valley of the Sun Publishing. It was exactly what I wanted to hear at that time, then when I found Sounds Of The Dawn I felt like I had struck gold.

2015年4月30日、Red Bull「Bliss Out To Deadboy's White Magick Mix」より

Valley of the Sunは1970年代から活動を続けるニューエイジ初期の代表的レーベルである。Deadboyはmp3blogを通して初期のニューエイジを知った。そして、それはDeadboyがその時、求めていたものだった。

2015年5月にDeadboyはおなじくロンドンのグライム・シーンで活動する DJ/プロデューサーのYamaneko、Murlo、Tom Lea(UKのレーベルLocal Actionの主宰であり元FACTのチーフ・エディター)とともに、パーティをはじめた。南ロンドンのレコードショップRye Waxで月に一度だけ開催される、アンビエントとニューエイジに特化したパーティ、New Atlantisである。

New AtlantisはアンビエントのBoiler Roomを目指していた。タイムテーブルは発表されず、少数の人々のあつまるパーティを2016年8月16日、FACTの記事はこのように描写している。

万華鏡のように次々に変化するVJをバックに、テレビゲームのサントラやニューエイジ、アンビエント、フィールドレコーディングが入り混じって流れ、レイヴが終わってチルアウトした部屋を思わせるような、まさに日曜日のくつろぎのイベントだ。

2016年8月16日、FACT「The new wave of new age: How music’s most maligned genre finally became cool」ブログ「CAHIER DE CHOCOLAT」のショコラさんによる翻訳記事より

New Atlantisのプレイリストに「テレビゲームのサントラ」が含まれていることが、New Atlantisのニューエイジ観を表している。Mathewdavidがロサンゼルスのコミュニティに基づく調和を目指したのとは相対的に、テクノロジーによって異なる世界、外なる世界を幻視したのが、New Atlantisなのである。

2016年4月19日、ロンドンのインターネットラジオ局Rader Radioにてアンビエント/ニューエイジの番組「The Sounds of ...」シリーズを主催するIndia JordanがMurloとコラボレーションして「The Sound of Other Worlds」を発表。

テレビゲーム「クロノ・トリガー」の曲がつかわれていることで日本でも話題になったこのミックスはIndia JordanがたまたまMurloのプレイをみて実現されたようだが、それはNew Atlantisでの出来事だろう。

India JordanはNew Atlantis の熱心なファンであり、2016年5月には DeadboyにかわってNew Atlantisを任されることになる。

2016年9月2日、Murloは「The Sound of Other Worlds」の続編ともいえるミックスをNinja Tuneに提供。このミックスでは聖剣伝説2「儀式」、クロノトリガー「樹海の神秘」が使われている。

偶然にもこの時期、カルト映画サントラの再発レーベルMondo/Death Waltz Recording Co.iam8bitなどのレーベルがゲームのサウンドトラックをアナログで再発しはじめている。

そしてLight In The Atticは 2016 年11月18日に「I Am The Center」の続編「The Microcosm: Visionary Music of Continental Europe, 1970-1986」をリリースする。監修は同じくDouglas Mcgowan。収録アーティストはブレードランナーで有名なVangelisや1970年から活動を続けるクラウド・ロックのAsh Ra Temple、イタリアのGigi Masinら。

Pitchforkのレビューによると、複数のアーティストが「コンピレーションにニューエイジの文字を入れるなら収録を拒否する」と主張したことから「Continental Europe Of Visionary Music」と題され、編集された。

2016年12月7日NTSに提供された「Cinematic Special」サウンドトラックに特化したミックス。AKIRAのサウンドトラックで有名な芸能山城組、川井憲次による攻殻機動隊のサウンドトラック、久石譲、聖剣伝説2やクロノトリガー、ゼノギアスなど映画やゲームのサウンドトラックで構成されたこのミックスは、1980年から活動していた日本の音楽家・吉村弘によるアンビエント作品「Green」で終わる。

Deadboy、Murloらグライム・シーンのニューエイジ、アンビエント、ゲーム・ミュージックへの接近の背後にあるものはなんだろうか。

そのヒントはhyperdubからリリースされたゲーム・ミュージックのコンピレーションアルバム「Diggin' In The Carts」にあった。

情報は伝染する

2017年11月17日、hyperdubから発売されたゲーム・ミュージックのコンピレーションアルバム「Diggin' In The Carts」は2014年9月4日に公開されたRed Bull Music Academyによる同名のドキュメンタリー番組から企画されたものだ。この音源のリリースインタビューでhyperdubのオーナーKode9が興味深い事実を証言している。

その辺りを掘るようになったのは、実は5年ほど前からなんだ。『FAIRLIGHTS, MALLETS AND BAMBOO』という、1980年から1986年までの日本のエレクトロミュージックを集めたDJミックスがあってね。監修はヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランがやっているんだけど一言でいうと “オーガニック”と“シンセティック”の融合……具体的にいえば、80年代に一世を風靡したYAMAHA DX7と、日本の伝統的な音楽をミックスしたサウンドスケープに、ものすごく感銘を受けたんだ。そこから、例えば坂本龍一や細野晴臣のソロ、ムクワジュ・アンサンブル、ロジック・システム、清水靖晃などを聴くようになったんだ。

2017年11月30日、QeticによるKode9へのインタビューより

Fairlights, Mallets and Bamboo- Fourth-world Japan, years 1980-1986」はmp3blog兼レーベルrootstrataにて、2010年7月13日に発表された、Visible CloaksのSpencer Doranによるミックスである。ミックスには坂本龍一や細野晴臣のソロ、ムクワジュ・アンサンブル、ロジック・システム、清水靖晃らの1980年台の音源が収録されている。

Kode9が「Fairlights, Mallets and Bamboo」を通じて日本の音楽を発掘している様子は2016年3月26日のVinyl Factoryの記事にも発見できる。

hyperdubからアルバム「Oh No」をリリースしたインディーR&BのJessy Lanzaによる日本のレコード紹介。YMO、¥EN、アルファ人脈の音源をエレクトロニックとファンク/ソウルの視点でセレクトしている。

細野晴臣「PACIFIC」(1978)の紹介では「インターネットを通して初めて出会った」と述べられている。また、越美晴「チュチュ」(1983)の紹介には興味深いエピソードがある。

Kode9 sent this record to me and I fell in love with it.

2016年3月26日、Vinyl Factory「Jessy Lanza’s 6 essential Japanese electronic pop records」より

知っての通り越美晴の「チュチュ」は細野晴臣のプロデュース作である。

Kode9は自らhyperdubを「情報ウイルス」と定義するほどにカルチャーによる思想と情報、スタイルの伝染に意識的な人物である。情報伝達、いや、感染の事例はJessy Lanzaへの直接的なものだけではない。

2016年7月30日、FACTによる「グライムの前史」として紹介されたトラックにはDavid Sylvianと坂本龍一「Bamboo Houses」、一風堂「悲しみ」が紹介されている。「Bamboo Houses」はKode9、「悲しみ」はUKグライムの Mumdanceがプレイしたようだ。

この二曲はSpencer Doranが「Fairlights, Mallets and Bamboo」に続いて発表したミックス「Fairlights, Mallets and Bamboo Vol.2」(2014年1月8日)と YMO人脈ミックス「野生の野望: YMO-RELATED JAPANESE POP MIX」(2012年8月11日)に収録された楽曲である。

Local Actionは2019年3月9日、ゲームミュージック・クリエイターLena Raineのアルバムをリリースする。Lena Raineは2018年1月25日にリリースされ、全世界で高く評価されたMatt Make Games「Celeste」のサウンドトラックを担当したアーティストである。

グライムにおけるエキゾへの憧憬はEskibeatや、東洋的なメロディをグライムにのせるsinogrimeにも見ることができる。Murloの「Cinematic Special」は芸能山城組にはじまり、吉村弘「Green」で終わる。グライムのエキゾ感覚は東洋から日本の電子音楽、映画音楽、ゲーム音楽、環境音楽を通して新しいニューエイジ、Other Worldsを目指しはじめたのである。

新しいニューエイジ、新しいニューエイジャー

2016年8月16日、前述のFACTによるニューエイジ記事(ショコラさんによる翻訳記事はこちら)。Music From MemoryやRVNGによるニューエイジ・クラシックの再発やLight In The Attic「I Am The Center」からLeaving Records、New Atlantisの流れを踏まえて、なぜニューエイジが注目されているのかを社会的背景から考察している。

2016年10月12日、ガーディアン誌に掲載されたカリフォルニアとニューヨークにおけるニューエイジ・リバイバルを特集した記事。ヨガやマインドフルネスの流行に触れながら、Laraajiのライブが20代から30代のファンで賑わっていた様子をMatthewdavidや電子チター奏者のLaraajiのコメントを交えながらレポートしている。

さて、そもそもニューエイジ・ミュージックとは何だろうか。EM Recordsから再発されたニューエイジの始祖Iasos「Inter-Dimensional Music」(1975、再発2005)の日本語ライナーノーツにはこう書かれている。

ニューエイジ・ミュージックとは、"ニューエイジャーの好む(支持される)音楽"、"ニューエイジャーが作った音楽"のふたつが前提となり、ゆるやかな定義はあるが音楽的形式はない。

EM Records、Iasos「Inter-Dimensional Music」ライナーノーツより

要するに何の定義も存在しない身も蓋もない言い方だが、The 5th Dimension「Age of Aquarius」も代表的ニューエイジ・ミュージックなのだから、そうなのである。

しかし、であるならば、Matthewdavidがロサンゼルスからはじめた伝統的ニューエイジの継続と、Deadboy、India Jordan、Murlo、Tom LeaらがロンドンNew AtlantisからはじめたOther Worldを目指すニューエイジ、これらは正しくニューエイジャーによるニューエイジ・ミュージックに相違ない。

さらにはカナダの実験的ダンスミュージックを目指すレーベル1080p、ノイズからアンビエント・ハウスへ到達したMood Hutなど、同時代の動きに支えられながらニューエイジは新しい時代へ突入した。

そしてKode9を通してロンドンに日本の電子音楽を浸透させたSpencer Doranの「Fairlights, Mallets and Bamboo」は「環境音楽」の再評価へ繋がっていく。次回、いよいよ最終章である。


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