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Lage lund / Terrible Animals

Lage lund / Terrible Animals

ノルウェー出身のギタリスト、ラゲ・ルンドによる4年ぶりの新作『Terrible Animals』が届いた。前作『Idlewild』までのルンドはには優等生という言葉が似合っていたように思う。名門バークリー音大を卒業後、若手ジャズミュージシャンの登竜門セロニアス・モンク・コンペにて2005年に優勝。流麗で巧みなコードワークとソロからはジム・ホールからパット・メセニー、ピーター・バーンスタインやカート・ローゼンウィンケル他現代のギタリストへと脈々と受け継がれるジャズギター史そのものが鳴っているようだし(2016年にはジム・ホールのトリビュート作「Inspired」に参加)、所属レーベルであるCriss Crossだけでも14タイトルという作品に名を連ね、マリア・シュナイダーの現時点での最新作「The Thompson Fields」にベン・モンダーに変わって参加するなどリーダー作の他にも腕利きのサイドマンとしても輝かしいキャリアを誇っている。しかし最新作「Terrible Animals」では優等生的な印象を打破するかのような強烈な作品だ。

これまで作品と大きく違うのは担当楽器にギターに並んでエフェクトがクレジットされていることだろう。音色を歪曲させたり浮遊させダークな質感をもたらしスリリングさを増長されるばかりか、「Aquanaut」では旋律をループされたりとギターに効果をつける以上にバンドの1メンバーとして機能させ奥行きと広がりをもたらし音響面でも大きく作用しているように感じるし、「Octoberry」ではカリンバや打楽器的な使い方までをも披露している。

ルンドがエフェクトを大きく導入したのは現代のジャズギターの役割の変化を反映させたものといっても良いかも知れない。ギタリストのギラッド・ヘクセルマンが参加するジョン・レイモンドの「Real Feel」ではエレクトロニクスやポストプロダクションを思わせる巧みなエフェクトワークを魅せていてたし、ECMに作品を残すベン・モンダーはプリスムを通したかのようにギターの音色を乱反射させ五月雨のような音像を作り出していた。(ルンド自身もサックスのウィル・ヴィンソンとベースのオーランド・レ・フレミングとドラムレスのユニットOwl Trioへの参加している。)

とはいえルンドの優等生ぶりは健全で、全編に渡って、絶妙なアウトフレーズで小節を軽かると飛び越え、エレクトロニクスとアコースティックの狭間を行き来し破綻も隙もない流麗なソロを聴かせるスタイルは圧巻そのものだし、幽遠なバラード「Haitian Ballad」や南米の水々しさを感じさせる「Brasilia」などバリエーションの豊かさも魅力の一つだろう。

そしてこの作品を語る上で欠かせないのはサイドを飾るメンツの豪華さだろう。M-Baseや前衛的な作品へ数多く参加するドラムスのタイション・ソーリーは、リズム面でも音響面のどちらをとっても圧倒的な強度を誇るソーリーはこの作品を彩る上でこの上なく適役だといえるし、ブラッド・メルドーほか現代を代表する数多くのミュージシャンと活動を共にするラリー・グレナディアも参加も注目すべきだろう。

中でも特筆すべきはピアニストのサリヴァン・フォートナーの存在だ。アメリカ中部出身のフォートナーは自身の作品でトラッドから現行ジャズのスタイルを見事に折中しジェイソン・モランを彷彿とスタイルであるが、今作では美しく旋律を彩る一方で、硬質でエッジが効いたボイシングとタッチで瞬時に切り込んできたり、かと思えば電子音のように音を散りばめ響かせたりと、彼の発する音を追っているだけでも満足できるほど。この作品での彼のスタイルは、チリ出身のピアニストであるファビアル・アルマザンと並べて聴いても面白い。

今作でルンドが見せたみせた野心は、自身の音楽性の広さを物語るばかりか、ワールドワイドでジャンルレスに多種多様なジャズが生まれる昨今で、ジム・ホールからパット・メセニー、カート・ローゼンウィンケルを通して現代ジャズにおいてのギタリストの位置や可能性を提示する重要な作品になっているようすら感じるのだ。

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