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枯れた技術の水平思考

今回は「枯れた技術の水平思考」についてのお話しです。

この言葉は、かつて任天堂の開発第一部部長を務めた故横井軍平氏が用いたものです。

横井氏は任天堂で「ゲーム&ウォッチ」(1980年)や「ゲームボーイ」(1989年)を生み出したクリエイターとして名を知られており、コントローラーについている十字キーを発明したのも彼です。
ちなみに十字キーはゲーム&ウォッチの「ドンキーコング」で初めて用いられました。
※ゲーム&ウォッチと言われてもアラフォー世代以上でないとピンと来ないでしょう。分からない人はググってくださいね。

枯れた技術 = 最先端のものではなく、使い込まれていて安く手に入る技術
水平思考  = 既成の枠に捕らわれずに自由な角度から問題解決を図る思考方法

彼と彼のチームはこの2つの考え方をミックスして商品開発に情熱を注ぎ、数々のヒット作を世に送り出しました。
先に紹介した彼らの代表作もこの哲学から生まれています。
参考 NINTENDO:社長が訊く『ゲーム&ウォッチ』 (任天堂による開発秘話)

では具体的に枯れた技術の水平思考とはどのような発想なのでしょう?

ゲーム&ウォッチを例に説明します。

ゲーム&ウォッチは横井軍平が、新幹線の中で暇潰しに電卓のボタンを押して遊んでいる人を見て発案したそうです。ゲーム付きの時計というコンセプトで「誰もが説明書を読まなくても遊べるゲーム」を目指して、電卓を模したポケットサイズの携帯用ゲームとして開発されます。余談ですが「誰もが説明書を読まなくても」って、Appleの製品(iphoneやmac)の哲学と非常に似通っています。
このゲーム機は5年早く世に出そうと思ったら10万円の価格になっていたと言われています。それが3800円~5000円程度で販売できるようになった背景には小型電卓の技術の熟成があり、この技術が年月を経て進歩し量産可能になったことでどんどん安く作れるようになったという過程があります。つまり「おもしろいゲームが安く手に入る」状態がヒットに繋がったわけで、もし「斬新でおもしろいけど10万円もするゲーム」だったら売れていなかったでしょう。
後の「ゲームボーイ」も、小型の液晶TVが先に世に出て、その技術が枯れてきた頃に発売されています。着想自体はゲーム&ウォッチと同時期でしたが当時は価格の折り合いが付きませんでした。

何でもそうですが最先端のものってだいたい値段が高くて手が出せません。
だから彼らは一般消費者が買い求めやすい金額設定とするためちょっと古めの技術(枯れた技術)を使います。
でも、たとえ安くてもありふれた商品だったら消費は分散してしまい、ヒットに繋がりません。
その対策として、他では真似できないアイデア(水平思考)で勝負するのです。
つまり、古い(安い)技術に斬新なアイデアを用い、付加価値に対して消費を促す、という図式です。
たとえ安くても陳腐なものであったら意味がありません。おもしろいものであることが肝心です。

任天堂のヒット作は他にも「ファミコン」や「DS」「Wii」など様々あります。他には「バーチャルボーイ」「NINTENDO64」「ゲームキューブ」なんて一部の人には思い出深いゲーム機もありました。このすべてに横井氏が携わっていたわけではないですが、彼の哲学が息づいていることがわかるはずです。
プレイステーションと比較してグラフィックはチープだけど遊び方は斬新、というのが任天堂のポジションである、と説明すると感覚的に理解しやすいでしょうか。
今年発売された「ニンテンドーラボ」なんてその典型例ですよね。任天堂らしさ全開って感じで脱帽です。

さて、この事例からわたしたちは何を学べばよいのでしょう?

①あえて古い技術を使うというタイミングの妙。ずらしのテクニック。
②常識にとらわれないアイデア(水平思考)
③おもしろいものを世に広めようというという目的意識。情熱
④やり切る力。行動力。勇気。

これくらいは簡単に思いつきますね。みなさんの心の中には何が思い浮かんだでしょうか?

昨今ではビジネスの世界を中心に「イノベーション」という言葉がもてはやされています。
「枯れた技術の水平思考」もその一つと言えるでしょう。

ただ、こういった専門用語に不慣れなわれわれは、これらの言葉から「革新的」というニュアンスを受け止めてアレルギー反応を起こしてしまいがちです。
ですが、今回のように掘り下げてみると、実際のところはわれわれの日常生活に紐付いていて、ふとした折の気づきが原点となって始まっているケースが非常に多いことが分かります。
生活が原点だからこそ一般のわれわれにその「革新性」が響くのです。

あなたは「新しいことをはじめよう」「はじめの一歩踏み出そう」としたときに、火星にでもいく覚悟になっていたりしませんか?
チャレンジってそんなに重たいものでしたっけ?

パチンコにでも行くように、近場に、ラフな格好で、お小遣いの範囲内で、運試しに、今日こそは勝てる! と、気軽にやればいいんじゃないですか?

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