特製のなにかをきみに

20180516

遊び疲れて眠るこどもを後ろに乗せて、家に向かって車を運転していると、空き地や田畑にかこまれてズドンと建つ大きなカフェレストラン、その駐車場に建つこれまた大きな看板が見えてきた。ここは昔はとてもおいしくて安い和食のお店で、大学生のときはよく友達とランチに来たものだ。そこがつぶれて、安っぽくてそのとおりに安いチェーンのカフェになってしまい、それからは行っていない。
看板には880円のランチについて書いてあり、【特製スープ付き】の文字が通りぎわに目に付いた。880円のスープならばわかる。が、こんな格安のチェーン店のランチのおまけでついてくるスープが、果たして特製という肩書きにふさわしいのか、と思えてきて、だんだんとその看板が洒落のように感じられた。皮肉のこもったコントのワンシーンのような。

改めて考えてみると、特製、というのはきらびやかな、それでいて手の届く、なんともうれしい言葉ではないか。それを受け取る相手のために、時間をかけたかどうかはわからないが、手間を惜しまずこころを込めて作られたという感じがする。たった二文字で。
特製のバースデー・ケーキよ、なんていつか娘や夫にふんふんときげんよく言ってみたいものだ。大皿にのった、あっというほど相手の好みで固めたデコレーションケーキを持って。
…などと考えていたら、ますますあの大看板のカフェからは足も心も遠ざかるのだった。

今日は図書館で乳幼児向けのお話会があると広報誌で見たので、朝からいそいそと出かける準備。昨日の晩は鯖缶とトマト缶、大豆のゆでて冷凍していたものと、野菜をいろいろ入れた煮込みだった。コンソメを入れたら鯖缶の味もあって塩辛かったので、今朝になって大豆と玉ねぎと水を足して煮込み直す。それをすこし小鍋にとってさらに水を足し、ショートパスタを直接入れて茹でるというか煮て、お弁当にした。ショートパスタが水分をすいとるのでもれにくいし、柔らかくなったパスタはこどものお弁当にしやすい。りんごとブロッコリーも持って、エプロンやレジャーシートやお手拭きなんかも慌ててリュックに詰めて出かけた。

こどもはこのごろプーさんのぬいぐるみのことが大好きで、それは妊娠中に、もしこのぬいぐるみを気に入ってくれたら素敵だ、という下心のもと買っておいた原作のほうのデザインのプーである。大人になってもぬいぐるみ好きのわたしとしては、いつまでも持っていても恥ずかしくないような、かっこいい(?)ぬいぐるみが最初から好きならなおいいよね、なんて思ったのだった。
その思惑通りというか、想像を超えてこどもはプーを気に入っていて、お風呂に入るためにいったん別れるのが悲しくて泣く日もあったほどだ。遠出しても、散歩しても、イオンで買い物をしていても、「プー?(プーはどこ?)」ときいてくる。しかし、お弁当やらりんごやら万が一の着替えやらでパンパンのリュックに、身長三十センチもあるプーは入らない。そこで身長八センチくらいの樹脂のような素材でできた、おもちゃの一部のアニメ・プーをとってリュックの隙間につめてきた。
案の定、家を出て最初の信号にさしかかるとき、後ろから「プー?」と声がかかった。はいはい、ここにいますよ。赤信号の隙にちいさなプーを手渡すと、なんだいたんじゃないかとばかり、にやりとして受け取り、「じーっ」とプーに窓の外の景色を見せてあげていた。

図書館には同じくらいのこどもたちとそのお母さんやお祖母さんが大勢いた。お話会は人気なようで、前後にグループ分けされているらしい。後のグループになったので、しばらく館内で待つことに。と、そこにはなんとプーが三匹もいた! こどもの絵本のコーナーにはぬいぐるみや、季節のものが飾られているのだ。すこし時期は過ぎたけれど鯉のぼりまであって、本でしか鯉のぼりを知らない娘は大喜びで、黒、赤、青のを「パパ、ママ、ちゃん!(自分のこと)」と、二匹のプーを抱きしめながら指差して笑っていた。
お話会は暖色の電気がついた10畳ほどの部屋へ靴を脱いであがり、それぞれ親の膝に座って本を読んでくれる司書さんのほうを向く。女性の司書の方がはじめの挨拶をしてくれ、一同もこんにちはと返したのだが、そのこんにちはの合唱が怖かったのか、うちの娘だけが火のついたように泣き出した。そしてこの部屋から出たいと訴える。結局、靴を履きながら横目で二冊分だけ聞いて出た。大人しく座って集団でなにかするってあんまりうれしくないよね、とこども時代を思い出しながらわたしは思った。せっかく来たので五冊ほど適当に見繕って借りて行く。

さあ、ピクニック! というと娘のきげんもよくなってきた。公園の遊具や、階段の上り下りをして遊んで、見晴らしのいい広場のようなところに座る。公園で出会った親子もお弁当もちだったので、並んで一緒に食べる。そのお母さんは、二歳の女の子と三ヶ月の赤ちゃんもつれていて、スリングがわたしと柄も一緒の色ちがいだった上に娘の名前が似ていて、すっかり親近感がわいていたのだ。喋ったりぼうっとしたり、目を狙ってくる黒い虫と格闘しながらではあるが、さわやかな五月の風がふいて、鳥のさえずりや、大きな蝶がベビーカーにとまったりして、気持ちいい時間だった。

帰り際にもう一度図書館に入って、植本一子さんの『かなわない』という話題の本を借りた。
健康本や料理本以外の本に目を通すのは久しぶりな気がする。すこしだけ帰ってすぐに読んだ。時間は有限だがどうにか読破して返却したい。
こどもはかれこれ車内から続けて二時間寝ている。遊び疲れたのだろうな。いまこれを打ちながらもこどもの足がわたしの腰に乗っている。添い寝していないと、そばにいないことを察知してむにゃむにゃと起きるのだ。かわいい生き物だ。

ちなみに今夜は例の煮込みをゆでたパスタにかけて食べます。ズッキーニの焼いたのとプチトマトを添えて。

#育児日記 #日記 #ごはん日記 #エッセイ #コラム #cakesコンテスト


この記事が参加している募集

育児日記

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?