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英語の元素周期表

渡部昇一『秘術としての文法』(講談社学術文庫、1988年)に、次の指摘がある。

「比喩をもって言えば、新言語学は化学であり伝統文法は薬学である。化学者は病人をなおせない。しかし薬学者は病人をなおす薬を提供する。」17頁

ここでいう「新言語学」のひとつである認知言語学の専門家の講義を聞いたとき、

「まず英語ができるようにならないと、認知言語学の研究はできません」

と言われたのを覚えている。

多くの人は、認知言語学を勉強すれば英語ができるようになると思うだろうが、ほんとうは逆で、英語ができるようにならないと認知言語学はできないのだ。なるほど、認知言語学は病人を治す薬学ではないらしい。

では、私のトランス・グラマーはどうか。

https://note.mu/ymiura/m/m692d6f6108f1

たとえて言えば、トランス・グラマーは元素の周期表かもしれない。

原子量の順に元素を並べると、性質の似た元素が周期的に出現する。この法則=周期律 periodic law をもとに、すべての元素を一枚の表にまとめたものが、元素の周期表 a periodic table of elements である。

根岸英一氏(2010年ノーベル化学賞)は、周期表の重要性を強調している。

「わたしはいつも周期表とにらめっこして研究していますが、これが本当のやり方だと思っています。これしかありません。そして、あるものは全て見ているのです。

化学を研究する者にとって周期表ほど素晴らしいものはありません。周期表を使ってゲームをしていかない人は本当の化学者ではないとさえいえます。」(根岸英一『夢を持ち続けよう!』共同通信社、2010年、94頁)

なぜ、そこまで周期表を強調するのか。その理由は、次のように書かれている。

「世の中を化学で動かしていこうとしたとき、その運動場というかボールパークは周期表です。そこから外に出ることはできません。

周期表ということは、とりもなおさずプラスの陽子とマイナスの電子とニュートラルな中性子、その数だけで決まってきます。元素というのはそれだけでしかありません。

だから周期表を見ながらということは、陽子と電子と中性子の数を、そして電子を収容してくれる軌道を考えながら研究するわけです。」95頁。

ここでは、周期表が「数」と「軌道」へと還元されている。周期表、数、軌道。それで「全て」。

こうして周期表は、化学が錬金術から科学へと飛躍する基盤となった。周期表が分子合成の基礎を提供し、現代薬学の基礎ともなっている。

その分野の要素の<一覧表>すなわち「あるものは全て見ている」といえる地図があるとき、科学は飛躍的発達の基盤をえる。

トランス・グラマーは、英語を構成する元素のすべてが一覧できる周期表をめざしている。私が整理した英語音素の一覧表(トランス・ボイス)も、周期律のような原理にもとづいている。

もちろん、周期表にも何種類かあるように、英語の元素周期表も一種類に限らず、使い道に応じて何種類かあってよいと思う。


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