表紙集__18_

公認会計士がデッサンで学んだこと(2013)

デザイン思考の文脈でデッサンを行ったり、ビジネスマンにもアートが必だと耳にしたりすることが多くなった。

そんなご時世で、意識の高い私は、今から5年以上前の2013年頃に友人の縁で絵画教室でデッサンを習っていた。自分の意識の高さに驚くばかりである。

というのは冗談で、今から思えば、仕事に疲れた30代の会計士がもともと好きだった絵を気分転換に描きに行っていた。しかし、そこには今でも大切にしている、色々な気づきや学びの多くが潜んでいたので、シェアさせていただきたく。

1. 光と陰で物事を認識する

デッサンに取り組む際、最初に何を描くものだろうか。別に何から描いてもいいのだろうが、私は教科書通り、白い石膏の立方体を描くことから始めた。

これを描くのに何時間かけただろうか。1レッスンが2時間程度で、3回ではきかないはずだから、軽く10時間くらいは費やしていたかもしれない。

上記のデッサンは、ツッコミどころが満載だろうが、初めてのデッサンだったから、気合がひしひし感じられるものになっている。会計基準ではなく、立方体と向き合う時間を設けていたというのは、心配していた友人もたくさんいたと思われる。

そして、たった、これだけのことでいくつも気づくことがある。

【会計士のデッサンの気づき/ 学び (1)】
・同じものを長時間、同じ角度から観察し続けた体験は初めてだった
・ものが見えていると認識しているのは光と影の組み合わせ
・言い換えると、比較でしか事実を把握することはできない

2. 終わりは自分で決めるもの

次は球体だ。なんの変哲もない白い球体に取り組んでみた。これは本当に面白い時間の一つだった。

何しろ、描いても描いても、明らかに、転がってきそうな気配が消えない。目の前の球体はしっかりと安定してテーブルの上に鎮座しているのに、いつまでたっても、私の画用紙の上にある球体は安定しなかった。

結局、左前に転がる寸前の球体が出来上がって、終了となったデッサンだった。

【会計士のデッサンの気づき/ 学び (2)】
・デッサンの終わりは(自分が)決めるもの

3. 見たいものしか見ていない

下のデッサンは、家でサクッと描いたものだ。もはや、何かを描きたいという衝動が体から湧き出てくるようになってしまった私は、お気に入りのコーヒーカップを描いた。

当時は本当にサクッと描いたのだが、今思うと、なぜこれをサクッと描けたのかわからない。

【会計士のデッサンの気づき/ 学び (3)】
・没頭すると何でもデッサンしたくなる
・私たちはカラーバス効果の中で暮らしている
・見たいものしか見ていないし、見たものに対する解釈は人それぞれ

4. 関係性の補正は全体を捉える

コーヒーネタが続く。というか、下のデッサンは私が好きなものが描いてある。エスプレッソマシーンとエスプレッソカップと猫(の像)だ。完璧だ。

何度も思うが、なぜこんなデッサンができたのだろうか。テーブルの上に置かれた水平感が、どことなくちぐはぐしているのはご愛敬だろう。このデッサンで苦労したのは、それぞれの関係性だ。

ある一点の接点を気にすると、他の接点とのバランスが悪くなり、そちらを直すと、他の接点に歪みが生じる。そんな修正の繰り返しだった。

一方で、好きなものを描いているからだろうか、何度目かのデッサンで、熱量が下がってきた気配がしていたが、この作品は熱量が違う。

【会計士のデッサンの気づき/ 学び (4)】
・好きなものと向き合うとエネルギーが引き出される(それが良いこととは言っていない)
・収まりの良さはいくつもの「関係」で成り立っているが、一つ一つを直すのではなく、全体としての成立を追い求めるが吉

収まりの良さはいくつもの関係で成り立っているという気づきは、下の張力で成り立つ作品でも同じことを感じた。一点一点をバランスさせるのではなく、全体をバランスさせることが肝要だ。

5. 見ることは表現することで完結する

そして、最後のデッサンはグラスと柿だ。ガラスという透明なものですら、光と陰で見えているというのが驚きでしかない。

グラスの透明さと、柿のぼってりとした質感をなんとか鉛筆で表現しようと四苦八苦した記憶がある。

【会計士のデッサンの気づき/ 学び (5)】
・ありのままを見るというのは実に奥深い
・そして、ありのままを見るというのは、「見ること」「描くこと」の両輪で出来上がっている
・見ては描き、描いては見ることで、「ありのまま」の理解が深まっていくのを身体で感じることができる

6. 評価を削ぎ落とした事実には説得力がある

果たして、このようなデッサンの時間が公認会計士として、ビジネスパーソンとしての価値にどれほど影響があったかというと、それは分からない。はっきり言って、デッサンが会計士のキャリアに絶対に必要かいうとノーだろう。

ただ、会計士としての仕事で重要なスタンスに「事実」と「評価」を切り分けて取り扱うというものがある。デッサンはひたすらに「事実」と向き合い続け、自分の評価(解釈や思い込み)を削ぎ落としていく作業だったように思う。

【会計士のデッサンの気づき/ 学び (6)】
・「事実」には「評価」が含まれている可能性が高い
・「事実」を掴むには根気がいる
・「評価」を削ぎ落とした「事実」には説得力がある

さいごに

絵が好きだったことを思い出し、取り組んだデッサンの旅を、改めて振り返ると、たくさんの学びを与えてくれるものだった。

ビジネスにデッサンは必須条件ではないが、こうして、全く関係のないところから、ビジネスにも通じる学びを得ることは、予想がつかないだけに面白かったです。

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