見出し画像

ちょっとちょいやめ見に東京いってきた

6月22日夜。

東京は雨が降ったり止んだりの憂鬱な天気でした。
足元はベチャベチャだし、渋谷駅は大混雑でロッカー空いてなくて荷物は預けられないし、その混雑は地方住みの私の体力を容赦なく削っていました。

そんなほうぼうの体で、私は会場のシブゲキになんとか辿り着きました。観劇前にすでに疲れ果てていましたが、椅子がフワフワで座席間隔がゆったりしていて、ようやくひとごこちついてホッとしたのを覚えています。

開演までの間、カチッ、カチッ、カチッ…と時計の針が動く音がずっと聞こえていました。否応なくなぜか緊張感がありました。

開演直前の時刻には客席は静まり返り、ただ刻一刻と秒針の音だけが響いています。

そして、突然。スマホのアラーム音がけたたましく鳴り響き、客席がビクリと震えると、暗闇から現れた主人公の青山隆(演:飯島寛騎)がそれを気だるげに止めて、青山の長い一日が──舞台「ちょっと今から仕事やめてくる」が始まります。

ということで、舞台「ちょっと今から仕事やめてくる」を観に行きましたので、感想をまとめたいと思います。一回しか見られなかったので詳細があやふやなところもありますが、折角なので。ちなみに、6月22日の夜公演を見ました。

ということで、以下より感想です。


■見に行った理由

「ちょっと今から仕事やめてくる」(以下ちょいやめ)という作品そのものに初めて触れたのは映画版からですが、そこから大好きな作品になりました!

二年前、たまたま就活で疲弊したタイミングに、福士蒼汰が恋愛映画でなく主演をするらしいと知り、それなら見てみたいかもと軽い気持ちで見に行って衝撃を受けました。とにかく物凄く泣いてしまい、物語にのめり込みました。映画館で5回以上は観に行きましたし、ロケ地巡りもしました。原作も読みました。ブルーレイも持ってます。それが、一つ目の要因。

そんな私は当時から平成仮面ライダーが大好きで、福士蒼汰主演の文字に惹かれたのもその影響でした。

つまり、もちろん。仮面ライダーエグゼイドも大好きなわけです。それが、二つ目の要因。
仮面ライダーエグゼイドは「ゲーム×医療×仮面ライダー」という3つの要素をかけ合わせた物語で、ゲーム中の命(ライフ)の軽さと本当の命の重みの対比だったり、ゲームキャラが命の価値を自認する話だったり、その深い死生観を問う物語にたくさん泣かされていました。主演、飯島寛騎さん。

そんな2つの要因を持つ私が、舞台ちょいやめの告知をたまたま見かけたときの動揺はとてつもなかったです。エグゼイドの主演だった飯島寛騎が舞台ちょいやめの主演。運命かと思いました。推しが推しに収束した。

福岡在住で、現職に悩み予定ががわからない自分でしたが、気づいたときにはチケットをとっていました。また、舞台「メサイア」を見るようになった影響で、友人からオススメの舞台の円盤を借りて見るようになっていたこともあり、純粋に舞台というものに興味が惹かれていた時期でもありました。

これは本当に偶然なのですが、私が映画ちょいやめを見たのは私が就活していた頃の就活本解禁日直前の5月30日。
そして今回舞台ちょいやめを見たのは、ちょうど復職したはいいもののこれで良いのだろうかと現職に悩んで退職を考え、転職活動に応募しだしたこのタイミング。
仕事について大きな意思決定をするタイミングで、いつもちょいやめに支えてもらっている気がします。ということで、とりあえず各キャラの印象なんか書きます。

■よりリアルな青山像

どちらかというと原作寄りで、こちらの青山のほうが映画版より強気な印象です。

映画の方の青山(演:工藤阿須加)は優しげで気弱で、仕事を辞めると告げるときすらも懲戒退職で良いと言いきってしまうような、ある意味フィクションめいた優しすぎる印象でしたが、舞台版の青山は想像の中でパワハラ部長に言い返したり、ネクタイ選びで部長に柄の派手さが見咎められるのを不安がりながらも挑んだりなど、少し反抗する気持ちがあります。iQOS吸うし。iQOSなのが妙にリアルだなと思いました。前の上司も吸ってました(笑)

ただ、一番重要な退職を突きつけるシーンは原作とも映画版とも違いました。
原作のように部長に強く言い返すところよりも、皆に幸せに生きてほしいからこそ感情が高ぶってしまう描写に全体的に切り替えられていた印象でした。映画版はとにかく会社や世界に吹っ切れてしまった青山でしたが、舞台版は吹っ切れつつも五十嵐さんや部長も変わってほしい、幸せに生きることを諦めない生き方を自分がまず見せつけることで世界を変えていけるんだという強さが強調されてて、めちゃくちゃ泣いてしまいました…ヒーローだった。

また、自分の発注データが書き換えられた形跡があることを先輩の五十嵐さんに「なぜ貴方に言ってしまうのか自分でもわからない」と言いつつも話して圧をかけるのも原作では無かったような…?
細かいですが、嫌にリアルで生臭い会話だなと思いました。舞台版は全体的に描写の生臭さが増えているような感じがしました。

原作、映画、舞台と青山の性格や描き方に細かな違いがありますが、反抗心と面従の配分がよりリアルなのは舞台版かも知れないと思いました。

■大人の余裕で芯の強いヤマモト

まず声が良くてびびったヤマモト(演:鈴木勝吾)。映画版の福士蒼汰も当然良かったのですが、シブゲキが生声だったのと、やはり普段ミュージカルなどにも出ていらっしゃる方だからなのか、それとも関西弁の持つ響きなのか、とにかく声の通りがキレイで素敵でした。関西弁話者の方じゃないと思うのですが、違和感なく、だけどヤマモトの胡散臭さが漂っていてとても良かったです!
舞台の青山は恐らく新卒一年目のようなのですが、ヤマモトはそこから4歳上という設定でした。だからなのか、対等でありつつも序盤は特に大人の余裕が漂っていて映画版との違いをさらに感じて興味深かったです。その空気感が少しずつ崩れて、ラストの一コマにつながってヤマモトが地に足の着いた生活を送るのがさらに印象的でした。エンディングについて詳しくは後述しますが、ああいうヤマモトを見ることになるとは全く思いませんでした。

あと、たまたま通路沿いの席だったのですが、ヤマモトが通路からはけていく時の鬼気迫る表情にドキッとしました。なんのシーンか覚えてないんですが。通路沿いでドキドキしすぎたせいで記憶飛んでる…

また、双子の片割れたる純にむけて花束を手向けるシーンもドキッとしました。
花束が舞台に現れた瞬間、原作を知るものは皆どきりとすると思うのですが、それを壇上の中央に手向ける表情の力無さ。めちゃくちゃ怖かったです。映画版だと儚い、壊れそうな感じですが、舞台版のほうがヤマモトが大人で芯がしっかりしてる分、暗闇を覗くようなゾッとする感じがしました。純と優の謎が解けていく、映画における謎解き編的な要素はすべてカットされて青山は屋上の段階でヤマモトの秘密を知っています。その点は少し情報量に物足りなさを感じなくもないのですが、とはいえ舞台で見る中でやはり掛け合いを重視したほうが深く心に残るものになるのかなとも思いました。

また、花束はその墓参りのシーンからずっと中央にそっと置かれ、その存在感はとにかく緊張感を与えました。そこにあるというだけで、その後のシーンのほとんどでそれは実際には存在してないように無視されるのだけど、あれほど怖い小物の使い方があるのかよ…と唸ってしまいました。青山が飛び降りを決心して椅子に乗り上げたその真下に、まるでその後そこに置かれる未来みたいにずっと存在してる花束。とにかく怖かったです。


■五十嵐さんにも差し込む光

映画版を引き継いで、五十嵐(演:中島早貴)は女性のキャスティング。℃-uteの方なのかな? そちら界隈に詳しくなくてごめん…ただ演技すごく良かったし、大変だったと思う!
なぜかというと、映画版と同じ女性キャスティングという設定を引き継ぎつつも、映画版よりも一番設定が重く複雑に変わってるのは舞台版五十嵐さんだったと思うからです。

映画版ではそれとなく匂わせるだけだったセクハラ問題が、舞台版では明文化されました。それにより、五十嵐さんの悲哀が倍増していたように感じました。

営業部で生きていくために自分の尊厳を利用できるものとして使うことは、やはり割り切っても心を殺すもの。
映画版の五十嵐さんのほうは自分に嘘をついていると自覚していたからこそ追い詰められて、最後ようやく青山にごめんと謝った。だけど舞台版のほうは自分の気持ちに嘘をついてる自覚がないんです。だから開き直ったようなことも言う、嘘という自覚がなくて本当にそう思い込んでいるから。それは自己暗示、というよりも社会からの圧力が彼女の価値観をそうたらしめているのでしょう。

だからこそ、男でありながら自分よりバリバリに働かない青山を毛嫌いしているし、舞台版のほうが青山が男であることに嫉妬し、明確に嫌っているように受け取れました。映画版や原作は青山個人を憎んでいたというより、数字を掠め取りたかっただけだったのに対し、恐らく舞台版は更にそういう悪意のレイヤーが一枚濃くなっていました。その多層的な憎悪を演じるのはきついことだったと思いますし、声を荒げるシーンでは苦しげで悲しくて息がつまりました。

そんな彼女の価値観を解きほぐすきっかけになる出来事が、舞台版ではなんと2つに増えました。1つは原作通り青山の退職ですが、もう1つはヤマモトとの邂逅です。

私が今作で一番驚いたのは、ヤマモトが五十嵐さんと話す場面があったことです。
ヤマモトが五十嵐さんに、仕事してて幸せですか? と問うシーンはある種、原作でも映画でも見捨てられていた五十嵐さんに光明が差した瞬間でした。彼女も辛くてかわいそうな目にあって、だから頑なに自分の価値観を変えられないんです。
そんな中で、ヤマモトからの問いかけと、青山が辞職する際の言葉は、彼女にどんな影響を与えるのでしょうか。どちらの問いかけにも五十嵐さんは頑なな姿勢を変えませんが、それでもなにか思うところがあるような演技に見えました。
むしろ、頑なで「営業部のオアシス」じゃない、悪意すらも見える五十嵐さんは既に引き出されているんです。五十嵐さんも、きっと自分を解放できる。

■岩井、そして部長で作られた社会の存在

原作で少しだけ登場し、映画では姿もない青山の同級生の岩井(演:葉山昴)が舞台版では思わぬキャラ付けをされて活躍します。気の良いキャラで青山の劣等感を刺激する岩井は、青山から見た世間そのものにも見えました。
自分より劣っていると無意識に見下していた相手が自分よりうまく行っているという事実は青山の精神を緩やかに病ませる一因といえるでしょう。岩井にそんなつもりは全く無いのでしょうが、青山の聞かれたくないところをズバリと聞いてしまいます。
青山は岩井を通して自分と社会における「普通」との乖離を感じ、岩井から距離を取る(≒社会からの隔絶)という悪手をとってしまいます。
見に行くまではどうなるんだろう? と思っていた役どころでしたが、5人という少ない人数での舞台の中でもキチンと「社会の中にキャラクターたちがある」と感じたのは岩井の存在のおかげだな、と感じました。
そして、それは部長(演:田中健)にも言えます。今回面白かったのはネクタイ選びのくだりで、むしろ部長がヤマモトの選んだ派手なネクタイを褒めた描写です。派手だ! と叱るのではなく、「いいんじゃないかぁ!!」と吠えるように褒めるシーンは部長の人間性を感じてすごく良かったです。
今作はパワハラを扱う作品で、時としてそういう作品ではパワハラ上司は完全な悪として人間味なく描かれることもあると思うのですが、ネクタイのシーンでの青山への絡み方はとにかく生々しかったのです。部長の中でパワハラ的な激を飛ばす行為は「激励」であって、これで何クソ!と立ち上がってこい的な行動なんだろうなあ…と深い納得を与えるのです。端的にいうと、本当に社会ってこういう人いるんだよなあ…と思わせるシーンでした。たった5人という少ない人数だと思わせないほど社会を感じられたのはこの二人のそれぞれのシーンのお陰だな、と強く感じました。
全然関係ないけど通路沿いだったので、葉山さんが真横を駆け抜けたんですが、そのあとにめっちゃいい匂いしてたのができるサラリーマンっぽさあってぐっと来ました。


■原作、映画とも違う第三のラスト

すごいエンディングだった…
原作の病院エンドと、映画のバヌアツエンドもどちらもファンタジーでそれはそれで夢が見られて好きです。
ですが、今回の…え…? ちょっと今から仕事行ってくるエンド…?は一番「有り得そう」な未来だったと思いました。

屋上での会話を終え、ヤマモトは大阪に戻るつもりだと青山に告げている。青山はヤマモトが大阪に戻る直前に会おうとカフェに呼び出し、「ちょっと今から仕事やめてくる!」
そういって青山は会社に退職を表明する。だがヤマモトの待つカフェに戻ると、ヤマモトはすでにいなかった。
その後大阪に戻っていたはずのヤマモト──山本優は、双子の兄の死を乗り越え、兄がいた、そして青山がいる東京での再就職を決意していた。
優は前職の販売の経験が買われ、年明けからの予定が稼ぎ時のクリスマスイブである12月24日に働き始めることになる。それまで、青山の連絡先をすべてブロックしていた優だったが、今日を終えたら青山に連絡を入れようと考えながら出勤する。電車に乗り込む。満員電車を掻き分けたその先に、私服の青山がいる。青山はずっと連絡が取れないことを責めつつも、今からハローワークにいくと告げる。
優は今日連絡入れるつもりやった! どうせクリスマスイブに予定なんかないんやろ! とふざけつつも、ちょっと今から仕事にいってくる、と告げて、二人は別れていく。
そして優は舞台中央にずっと手向けられた花束を手に取り──「なあ、純。人生ってそんな悪いもんじゃないやろ」

だったよね? 一回しか見られてないから細かいところ違うかもだけど。
これ、めちゃくちゃ有り得そうな中かつ一番良いエンドじゃないですか? まじで「救い」すぎてここらへん普通に泣いてました。
ヤマモトが再就職して青山と同じようにアラームを止めてスーツを着て出勤する……やってることは冒頭の青山と同じなのに、なぜかワクワクして未来への希望が見える。働くことって悪いことじゃなくて、自分を充実させるために存在してるんだ…ということを本当に見せてくれる構造でした。
このちょいやめという物語は、映画版は顕著ですが日本の労働を全部否定するように見ることもできると思うんですよね。労働は悪!みたいな。
でも、このエンディングはそうじゃなかった。ちゃんと私たちがリアルに選べる幸せな未来の道筋を見せてくれていたんです。私がいま転職活動してるのも関わっているんでしょうが、とにかく嬉しかったです。
冒頭の無気力な青山と比べるような描き方も良かったですし、ここで「ちょっと今から仕事いってくる!」って言葉があってよかったと心底思いました。
仕事をせずに生きることはなかなか難しいわけで、明日から仕事なり職探しなりするほとんどの人にとって、この言葉はジーンと来たはずです。
というか私はそうでした。「ちょっと今から仕事いってくる!」と言えるような、なりたい自分になれる仕事をしたいと思います。あれ、転職エントリみたいな締めになっちゃった。

■終わりに

なんか短くまとめるつもりが、また長文を書いてしまうクセが出てしまった気がします。結構意識的に端折ったつもりなんだけどな…
あとは細かい演出だったり、舞台美術だったりも心惹かれたのですが、それを文章で説明するのはなかなか難しいので割愛します。でも、駅でもあり、会社のオフィスでもあり、青山の部屋でもあり、居酒屋でもあり、屋上でもあり…なあのセットの見せ方はすごかったです! 蛍光灯の使い方やライトの演出で本当にこんなにも「見える」ものなのかとびっくりしました。ほんとにこれは映像を見てほしいの一言につきます。

つまり、DVDがほしいよ〜!! なのです。
長々と書いた感想記事ですが、本題はこれなんです。DVDがほしいよ〜!!!!!

物販でDVDの予約コーナーとかなかったし、この手の舞台に行ったことがないから詳しくはわからないのですが多分円盤化する予定なさそう…ですよね…? ツイッターでちらっと見ただけなのでよくわからないのですが。
でもめっっちゃ演技も良かったし演出も好きだったし脚本のオリジナル要素も好きだったので、もう一回見たいよーー!!!
こういうのってどう意思表示すればいいかもわからないので、とにかくnoteにでも書いてみるか…と思ってとにかく大真面目に感想記事を書いてみたわけです。真相はこれです。
なかなか難しいこともあるかもしれないですが、言うのは自由だと思うので許してください。てか私のリサーチ不足で普通に円盤出るんだったらすみません…
こんなnote書いたので出たら絶対に買います。よろしくお願いします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?