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病気になる理由なんてない。

「先生、なんでこうなってしまったんでしょうか?」

時に、患者にこう聞かれる。病気になってしまったことに後悔しながら、なぜ自分が過酷な状況に追い込まれたのか、みんな、その理由が知りたがる。

でも、僕は答えれない。その事実にいつももどかしくなる。それはきっと他の医療者も同じなんだと思う。その理由は、、、


予防医療、予防医療と叫ばれて久しい。がん検診に代表されるがんはもちろん、心筋梗塞、大動脈解離などの急死しうる病気の予防も進められている。テレビ番組でもよく聞く話として、心筋梗塞や脳梗塞、くも膜下出血などの心血管疾患は、脂質異常症、高血圧、糖尿病などの生活習慣病が深く関係していると言われている。食事の偏りや運動不足といった生活習慣が発症につながるため、生活習慣病と言われている。生活習慣が悪いと生活習慣病になり、生活習慣病が血管をボロボロにし(動脈硬化)、それが心筋梗塞を引き起こす。だから高血圧や糖尿病の治療は近年、重要とされている。

でも、これらはいくつもある「リスクファクター」のうちの一つにすぎない。リスク因子ではあるけど、直接的な原因ではない。つまり、どういうことか。

リスクファクターがなくても、病気を発症することはあるのだ。

リスクが全くなくても心筋梗塞を発症する人もいるし、くも膜下出血になって急死する人もいる。もちろんリスクがあったら、病気になる確率は数倍から数十倍違う。でも逆にいうと、数倍違うだけであって、リスクがない人も病気になるときはなるのだ。それが、リスクファクターは直接的な原因ではなくリスク因子である理由だ。健康診断やがん検診を受けているからって病気にならないわけじゃないし、高血圧を放置していても、病気にならない人はならない。つまりは確率論。

(そんな理不尽な・・・)

と誰もが思うだろう。でも、それが事実。じゃあ、そのとき病気を発症した直接的な理由はなんなのかと言われると、実はどんなに優秀な医師でもわからない。このところ、ストレスがかかっていたからかもしれない。お風呂で力んで血圧が上がったからかもしれない。「かもしれない」のだ。理由はない。ただ確率論であなたが選ばれただけなのだという残酷な理由が残るだけ。

それが、医師が明確に病気になった原因を言えない理由。

そして、患者や患者の家族はこれまでの人生を振り返って後悔する。もしかしたら、あのとき、こうしなかったら?ああしていたら?と。理由がないから、自分で理由をつけて後悔する。でもそんなことは神のみぞ知ること。高血圧の治療薬を一回飲まなかったから発症したのかと言われると、そうかもしれないしそうじゃないかもしれない。なぜそのとき起こったのか。そんなことは誰にもわからないのに、後悔する。

(後悔する患者に僕ら医療者ができることはないのか・・・)

まだひよっこだけど、一医療者として無力感に苛まれる。

以前、僕は、医療者の役割は納得感を醸成することだと言った。それは祖父母を亡くして、母を亡くして、僕が感じたことだった。医療の本分である治すことが
できなくても、医療者にできることは後悔する患者と家族に、今の状況を納得してもらうこと、人の死にゆく過程を理解すること。それが医療の役割なのではないかと思った。例えば、がんなら最後の一ヶ月だけしんどいだけでそれまでの生活は保たれることが多い。心臓病は何度も入院した挙句、最後に病院で亡くなることが多い。そういう大まかな過程を理解するだけでも困難からの回復感はだいぶ違う。納得感、意味付けが回復を手伝うんだ。

だったら、病気になった意味づけを手伝ってあげることも医療者の役割なのではないだろうか。出過ぎた真似だという人もいるだろう。本当の理由はわからないのに。でも、患者自身、家族自身がその理由を、自分を責めるだけではなく、回復に向かって意味づけをして前に進もうとしているとき、僕らは「理由はわかりません」という言葉だけで逃げることが、正しいとは僕は思えない。困難を乗り越える手助けをすることは医療の役割のはずだ。病気を治すことは回復を乗り越える一つの手段に過ぎないのだから。僕らは病気を治すだけじゃなくて乗り越える手伝いをすること全てが役割だと思うから。

患者が自分を責めてしまっているのか、意味付けして前に進もうとしているのか。まずは、そこを知ることから初めていきたい。

「先生、なんでこうなってしまったんでしょうか?」
次に患者さんに聞かれたとき、僕はこう答えたい。

「あなたはどう思っていますか?」と。


参考文献:Leamy M et al. Conceptual tramework for personal recovery in mental health review and narrative synthesis. BJP. 2011

(photo by hiroki yoshitomi

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