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東京という街に救われた


 羽田空港の第1ターミナルに降り注ぐ朝日に照らされた東京の高層ビル群がまぶしい。僕は伊丹空港行きの飛行機の搭乗を待っている。東京という街との別れを象徴するかのように、朝日がしみる。

(新しい街に行きたいって思ってたけど、東京にまだいたいなぁ……)

 僕は4月から新社会人として兵庫県豊岡市で働く。僕がこれまで屋台や地域診断などの地域活動を行ってきた街であり、知っている人もたくさんいるし、愛着もある。それなりに新しい生活にワクワクしていたはずだった。

 それなのに、よもやここまで東京を離れることが辛くなるとは思わなかった。栃木の大学に6年間通ったので、厳密には東京に住んでいたわけではない。住んでいたのは、インターンと彼女との同棲を合わせてもせいぜい半年程度。

(どうしてこんなに離れることが辛いのだろう……)

と、ふと考える。

 思えば、1年生の頃からほとんどの土日は東京に顔を出していた。入学した大学は医学部と看護学部だけ。やりたかった救急医療の勉強も当分教えてくれそうになかった。医学部の狭さが嫌で、どこか居心地が悪かったから、僕は東京へ頻繁に行っていたんだと思う。でも、そんなかっこいい理由だけでなく、ただ単に大学デビューに失敗したからという単純な理由だったかもしれない。とにかく大学から離れたかった、新しい刺激が欲しかった僕にとって、東京は魅力的な街だった。

 東京は、僕を受け入れてくれた。居心地が悪いと思って初めて学外に出た医療政策の勉強会である「みら医塾」に始まり、そこで出会った人のおかげで、念願だった救急の勉強をひたすらできた。気づいたらメディカルラリーという大会で優勝したりもしていた。他にも、たくさんのコミュニティが僕を受けて入れてくれた。災害医療を勉強し、実践する学生コミュニティの日本集団災害医学会学生部会、地域×医療を教えてくれた谷根千まちばの健康プロジェクト、そこから地域での医師の役割を再定義するモバイル屋台de健康カフェ、介護の必要性を再認識したHEISEI KAIGO LEADERS、変人の集いSHIP、医療の可能性を広げる繋がりであるよんなな医学会、意識高い学生200人以上が集まるG1カレッジもそうだった。

 こういう受け入れてくれるコミュニティがあったから僕は頑張れたんだと思う。栃木の大学にいて屋台を引きたいと言っても乗ってくれる人はそうそういなかったと思う。

 人はベースとなるホームのコミュニティがないと生きていけない。挑戦もできない。と僕は思っている。

 期待をかけられ、結果が求められるコミュニティも大切だけど、なにもしなくても存在が認められるような価値観の合うコミュニティがホームになるんだと思う。

 それは親友だったり家族だったりする人が多いかもしれないけど、マイノリティはマイノリティである核を共有するコミュニティが救いだったりする。孤独だった人同士の孤独たる所以の核が共通していた時の一気に距離が近づく感覚は、経験した人にしかわからない幸せな感覚。

 マイノリティにとって、僕にとって、大きな救いとなるのは東京という街だったりする。とある10000人の街に1人孤独だとしても、3000万人いる東京なら3000人の孤独という核を共通する仲間を手に入れることができる。それは小さい街ではできないことだと思う。最近こそSNSで仲間を手に入れることができる。それでも目の前に核を共有する仲間がいることは、生きていることを肯定できる優しさを感じる。

 僕には、平日の授業が終わってから12時まで救急医療のシミュレーションをしてくれる仲間がいた。忙しい医学生なのに夜遅くまで僕の話を聞いてくれる友達がいた。休日に一日潰して屋台で街を歩き回ってくれる先生がいた。朝まで語り明かす仲間がいた。またいつでも東京に帰ってきていいんだよっていてくる人がたくさんいた。

 新しい街で、新しい生活で辛くなっとき、しんどくなったとき、もうどうしようもなくやるせなくなったとき、東京という街に帰ろう。

 モバイル屋台DE健康カフェでお世話になった谷根千のコーツトカフェにいればいろいろな懐かしい人と会える気がする。西新宿にいればまた変わった人に会える気がする。たまにはスターバックスなんかのチェーン店に入って一人になるのも心地いい。繋がりたい人と繋がれて、でも一人になりたいときに一人になる場所があるのが、東京だから。

 ワクワクする街だった。面白い街だった。でも、それ以上に、温かい街だった。僕はいつでもこの街に帰ってきて、この人達が待ってくれているから頑張れる。そう思う。

さあ、新しい日常を刻もう。

(photo by hiroki yoshitomi

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